大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ

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128. 事件は突然に

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「ヨナン!そこに居るのは分かってんのよ! 姿を見せなさい!」

 カレンが、観客の歓声の余韻に浸ることなく、上空に向かって、ヨナンを怒鳴りつける。

『ご主人様……どうやら、ご主人様が宙を飛んでるの、カレンさんにバレてますよ……』

 鑑定スキルが、いちいち指摘してくる。

「わかってんよ! だけど、イキナリ空から降りて来たら観客がビビるだろ! 俺は、あんまり凄いと知られたくないんだよ!
 勘違いされて、俺に挑んで来るアホな奴が現れたら、面倒臭いだろ! 俺、何も持って無かったら、メチャクチャ弱いんだからな!」

『だったら、普通に会場の外に降りて、試合会場に入り直して、何食わぬ顔をして登場すればいいじゃないですか!』

「それな!」

 ヨナンは、急いで会場の外に降り、猛ダッシュで試合会場に入り直し、何食わぬ顔をして、会場の観客に紛れた。その間、僅か1秒。本当に、聖剣ムラサメ、半端ない。

 聖剣ムラサメを、魔法の鞄の中に仕舞うと、スローモーションの世界から、元のスピードに戻る。

「クッ!」

 元の時間軸に戻ると、スグにカレンに見つけられて、殺気を飛ばされる。

『カレンさん、凄いですね。ご主人様が動いてる間も、ずっとご主人様の気配を追って、ご主人様を見続けてましたよ!』

「ああ。俺も視線を感じてた……」

『なんか、カレンさんがコチラに歩いて来ますよ!』

 鑑定スキルが、慌てて教えてくれる。
 というか、見えてるから、言われなくても分かるかも。

「俺、カレンにボコられるのか?」

『さあ?まだ、ご主人様が勝手に、カララムダンジョンを攻略してしまった事、怒ってるんじゃないですか?』

「ヤッパリ……」

 ヨナンは、殺気を発しながら近付いてくるカレンが恐ろし過ぎて、身構える。
 だって、今のヨナンは、無防備なのだ。
 ハッキリ言って、何も持ってないヨナンは、カララム王国学園最弱の男なのである。

「どう?」

 なんか、カレンが、ヨナンの前まで来ると、殺気を発したまま、鼻高々に聞いてくる。

「どうとは?」

「だから、私って凄いでしょ!」

「凄いのは、知ってるけど……」

「褒めていいのよ!」

『ご主人様、早く褒め下さい!カレンさんは、きっと、ご主人様に褒めてもらいたいだけなんですよ!』

「カレンさん。凄いですねー」

 鑑定スキルに言われて、ヨナンは、慌てて褒める。褒め殺しにしておけば、殺されないと思うし。

「そう。私は凄いの! ヨナン。よ~く覚えときなさいよ!」

 なんかよく分からないが、釘を押された。
 全く、意味が分からない?

「 俺の事を、怒ってたんじゃないのか?」

 思わず、カレンに質問してしまう。

「ん?何で?」

「俺が、勝手に、カララムダンジョン攻略したから」

「フフン! 私も攻略したわよ! 凄いでしょ!」

 どうやら、自分もカララムダンジョンを攻略した事により、ヨナンへの怒りは収まったみたいだ。

『カレンさんは、承認欲求が強いお子様なんです!SNSで、イイネ! が欲しい人みたいに!そして、カレンさんが一番認めてる、ご主人様に褒められるのが、至上の喜びなんです!』

 鑑定スキルが、勝手にカレンを分析し、ヨナンだけに念話で伝える。
 ヨナンは、それを聞いて、なるほどと思い、もっともっと、カレンを褒め殺してみた。

 だって、認めてあげれば機嫌が良くなるし。
 いつも、基本、ツンのカレンがデレると、ちょっと可愛いしね。

 とか、カレンを褒め殺しにしてると、何やらアレキサンダー君の周りが慌ただしくなってきている。

 ついさっきまで、クラスの女生徒を侍らせて、御満悦で試合を見てた筈なのに、なんか伝令ぽい、兵士が来てから鬼の形相になっている。

 そして、伝令の兵士に何か言ってると、続けざまに、アレキサンダー君の右腕であるホエール侯爵まで、アレキサンダー君の元を訪れワチャワチャやっている。

「アレ?どうしたんだ?」

 取り敢えず、鑑定スキルに聞いてみる。
 鑑定スキルは、学園中に設置してある隠しカメラと共有してるので、学園内で起こってる様々な情報を把握しているのだ。

『どうやら、戦争が起こったようです!』

 鑑定スキルから、まさかの答え。

「戦争というと、サラス帝国か?」

 サラス帝国とは、現在、休戦中。
 実際、死に戻り前は、再び、戦争が始まり、エドソンやセント兄達が戦死したし。

『違いますね。イーグル辺境伯領と山脈を挟んで接しているアンガス神聖国とです!』

 確か、死に戻り前の世界では、アンガス神聖国と戦争など起こらなかったのに、何故?

 というか、アンガス神聖国なんて、俺と全く関係ないし、俺が死に戻りした影響で、アンガス神聖国が攻めて来た訳ではない筈なのだ。

「確か、アンガス神聖国とは、5年に一度ぐらいの割合で、イーグル辺境伯がバチバチ小競り合いをやってるんだったよな?」

『ですね。ですが、今回は、小競り合いでは終わらなそうです!
 なんと、アンガス神聖国が、国境を接する山脈にトンネルを貫通させて、大挙10万の兵士を引き連れて、カララム王国に戦争を仕掛けてきたんです! 対して、イーグル辺境伯の兵は1000人!』

「不味いじゃん?」

『不味いですよ! だから、国の重鎮であるホエール侯爵まで、わざわざ元国王のアレキサンダー君にお伺いを立てにきたんじゃないですか!』

「確かに、他国との戦争とか、国王代理のルイ王子じゃ、手に余るもんな……」

『あ! 今、戦況の話をしてますよ! どうやら、イーグル辺境伯の領土イグノーグル城塞都市が、アンガス神聖国の兵10万に囲まれて、籠城戦をやってるようです!
 たまたま、ご主人様が補強した、アダマンタイトミスリル合金の城壁のお陰で落とされずに済んでるようですが、時間の問題だとか……』

「ヤベーじゃん!領都のイグノーブルには、グラスホッパー商会もあるんだぞ!もしかして、シスとか居ないだろうな!」

 そう。シスは、グラスホッパー新本店と、カナワン支店と、イーグル支店の店長を兼ねているのである。

『それは大丈夫です。今、エリザベスさんと念話で確認したら、現在は、グラスホッパー商会本店の開店準備と、新グラスホッパー伯爵領の内政が忙しいらしくて、イーグル支店には居ないようですね!』

「良かった……」

 ヨナンは、メチャクチャ安堵する。
 ヨナンにとって、家族の安全が一番重要なのだ。
 死に戻り前、エドソンに、エリザベスとコナンとシスを頼むと託されたにも関わらず、エリザベスやコナンやシスに、何もしてあげられなかった事を、今でも物凄く後悔しているのだ。

『良かったですね! でも、ご主人様、気付いてます?アレキサンダー君が、ご主人様の事を、凄~く見てますよ』

「気のせいだろ? きっとカレンを見てるんだよ。だって、カレンは、イーグル辺境伯の孫で、当事者だし」

『いや、あれはご主人様を見てますって!
 今、ご主人様と目が合いましたよね?アレキサンダー君、ご主人様と目が合って、ニヤリとしましたよ!』

「いや! カレンと目が合ったんだろ!」

 俺は、何が何でも認めない。
 認めると、面倒事に巻き込まれそうだし。

『カレンさんは、そもそも、アレキサンダー君の方、見てないですから!』

「ていうか、俺、戦争なんか関わりたくないんだけど……」

『無理ですね! こういう事態を想定して、アレキサンダー君は、ご主人様を、戦争に参加しないといけない領地持ちの貴族にするの、急いでたんですから!』

「俺、まだ、14歳の子供だぜ?流石に、未成年は、この国でも戦争参加の義務ないだろ?」

『ご主人様の場合、他の爵位を持ってない貴族子息と違って、ご主人様自体が、爵位を持ってますからね。爵位を持ってる者は、国から声が掛かったら、必ず戦争に出兵しないといけない義務が有ります!』

 とか、鑑定スキルと不毛な話しあいをしてると、
 伝令の騎士が、俺とカレンの前までやって来て、

「グラスホッパー伯爵! それからイーグル辺境伯爵令嬢カレン・イーグル様! 至急、生徒会室まで来るようにと、第15代カララム王、アレキサンダー・カララム閣下から、お呼びが掛かっております!」

 と、わざわざ、カララム国王の地位まで使って、アレキサンダー君が、俺とカレンを、生徒会室に呼び出しを掛けて来た。

「絶対に、行きたくねー!」
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