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8. トップバリュー男爵領

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 次の日、早速、エドソンから荷馬車と馬を借りたヨナンは、朝からトップバリュー男爵領の領都に向かっている。

 エドソンに熊の置物と、寄木細工のカラクリ箱を見せて、トップバリュー男爵領の領都に売りに行きたいと話したら、鑑定スキルが言ってたように、喜んで荷馬車と馬を貸してくれた。

 勿論、寄木細工のカラクリの事は伏せて、ただの模様が素敵な箱という事にしている。
 カラクリの事を教えてしまったら、必ず金にがめついエリザベスが嗅ぎ付けて、売上の分け前を寄越せと言ってくるに違いないから。

 まあ、荷馬車と、馬を借りる話をエドソンから取り付けた後、エリザベスに、荷馬車と、馬のレンタル料を払えと難癖つけられたけどね。

 そもそも、お小遣い貰ってないから無理な話なんだけど。

 今回だけは、エドソンが払ってくれる事になったけど、次回からは、必ず、1万マーブル徴収すると言われてしまった。どんだけがめついのだろう。
 というか、俺が作った寄木細工の箱が売れると算段して、勝手に1万ぐらいは払えると計算したのかもしれない。
 結構、俺の寄木細工をマジマジ見てたし。

「金にがめついエリザベスから見ても、一応、寄木細工のカラクリ箱は売れると思ったって事だよな?」

 ヨナンは、鑑定スキルに話し掛ける。
 まあ、人からみたらただの独り言だけど。

『ですね。相当精巧な寄木細工になってますから、カラクリが無くても普通に売れる筈です。
 ですが、エリザベスが思ってる10倍の値段になるでしょうね。
 ご主人様、凝りに凝って、相当複雑に寄木を動かさないと、隠し空間が開かない仕組みにしちゃいましたからね。
 しかも、あれだけ鉱物使っちゃいけないと注意したのに、隠し空間を鉄で覆っていたでしょ!』

 ヨナンが鑑定スキルにバレないように、内緒にしていた仕組みを看破される。
 伊達に、鑑定スキルLv.2ではないようだ。

「だって、大事な宝物を隠すカラクリ箱だぜ! 簡単に取り出せたら不味いだろ?
 例え泥棒に盗まれても、絶対に中身を取り出せないようにしただけだし」

『確かに、ご主人様の錬成した鉄はミスリルより硬いですからね。しかも、溶かして中身を取ろうとしたら、中身まで溶けちゃいますし、寄木の複雑なカラクリを知ってないと絶対に開けれません!』

 何故か、鑑定スキルがドヤ顔で話す。
 まあ、ただのスキルなので、顔が本当にドヤ顔してるか分かんないんだけど。

「で、鑑定スキルから見て売れると思うか?」

『売れます! 10万マーブルは固いです。下手な金庫より頑丈ですし!』

 何でも知ってる鑑定スキルが、絶対売れると太鼓判を押してくれた。

 ーーー

 トップバリュー男爵領の領都トップバリューは城塞都市である。
 城塞都市に入るには、3000マーブルの通行料が居るのだが、エドソンに借りたグラスホッパー家と分かる印籠を見せれば、通行料が免除されるとの事だった。所謂、貴族の特権という奴だ。

 まあ、15歳になって成人したら、グラスホッパー家から出るつもりだから、後2年間だけの特権だけど。

『ご主人様、得しちゃいましたね!』

 鑑定スキルが、嬉しそうに話し掛けてくる。
 もう、完全に友達感覚である。

「ああ。まさかエリザベスが、エドソンに文句の1つも言わずに、俺に印籠を渡させたのは驚いたけどな」

『それは、自分の取り分を多くする為ですよ!
 流石に、ご主人様が1つも製品を売れなかったら、ご主人様から荷馬車と、馬のレンタル料がせしめられなくなりますからね。ご主人様も、無いお金は払えないですもん!』

「成程な……所で、俺はどこに男爵芋と、熊の置物を売りに行けばいいんだ?
 全く、トップバリューの土地勘無いんだけど?」

『熊の置物は置いといて、寄木細工のカラクリ箱は、トップバリュー男爵が経営する、トップバリュー商会に売りにいきましょう!
 トップバリュー商会は、贅沢品から小豆一つまで、何でも扱う総合商会ですからね!
 ご主人様の作った寄木細工のカラクリ箱の本当の価値が分かるのは、トップバリュー商会だけだと思われます!』

「成程」

『ほら見えてきましたよ! あの街の中心にある一際大きくて、一際豪華な店が、トップバリュー商会です!』

 鑑定スキルは、自分のデータベースに乗ってるのか断言する。

「本当に、あんなデカい店に入るのかよ?
 というか、俺みたいな子供が、本当に入っていいのか?門前払いされたらどうするんだよ」

『ご主人様は、腐っても貴族の子息なんです!
 そのエドソンから持たされた印籠を見せれば、お店には絶対に入れますから!』

「そうだった。俺は一応、貴族の息子だった。実際は、農奴みたいに芋堀りばかりしてるんだけど……」

 ヨナンは、あまりにトップバリュー商会の煌びやかさにビビって、完全に尻込みしてしまっている。

『ご主人様、そんな事は、言わなければ誰も分かりませんから! 黙ってればいいんです!』

「だな……だけれども、緊張してきて喉が乾いてきた」

『ご主人様。深呼吸して、そのまま荷馬車を店の前に付け下さい』

「オイ。本当に店の前に横付けしちゃっていいのかよ! こんなショボイ荷馬車なのに……」

『例えショボイ荷馬車に乗ってても、ご主人様は正真正銘の貴族の子息ですから、ビッ!として、店の前で荷馬車に乗ったまま、待ってればいいんですよ。
 ずっと、店の前に荷馬車を停めてたら、店の人が来ますから、その時、グラスホッパー家の印籠を見せて、男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を売りに来たと言えばいいんです!』

「本当に、そんなに偉そうにしてていいのかよ!というか、俺は1人で買い物に行った事も、人とマトモに話をした事もないんだぞ……。
 いきなり商談とか、全てをすっとばしてるだろ!」

『ご主人様、ここまで来て、今更遅いですよ。ほら、店の中から係の人が出てきましたよ!』

「エッ! どうするんだよ! 俺、なんて言ったらいいか分かんないよ!どうしたらいいんだ?……本当に、どうしよう……」

 ヨナンは、冷や汗をかいて、しどろもどろになる。

『ご主人様、まず、口チャック! 今のご主人様、ブツブツ独り言をずっと言ってるヤバい人ですから!
 取り敢えず、僕の言葉をなぞって話して下さい!』

「なぞればいいんだな」

『だから、喋らない!』

 ヨナンが鑑定スキルとわちゃわちゃ話してると、怪訝な顔をした店の定員が、ヨナンが乗ってる荷馬車の前まで来て話し出す。

「お客様、困ります。店の正面に荷馬車を停められては。直ぐに移動してもらえますか?」

「ええと……その……」

 ここ数年間、エドソンとしかマトモに会話した事ないヨナンは、見ず知らずの他人に久しぶりに話し掛けられて、メチャクチャ慌てる。

『私は、グラスホッパー騎士爵家の者だ』

 ヨナンがどもってると、鑑定スキルがすぐさま助け船を出す。

「あっ! そうそう。私は、グラスホッパー騎士爵家の者だ」

「グラスホッパー騎士爵家?」

 どうやら、隣の領地の貴族だというのに、トップバリュー商会の店員は、グラスホッパー騎士爵家の事を知らないようである。
 まあ、数年前に騎士爵になったばかりの新興貴族なので、仕方が無い事だけど。

『ご主人様! 早くグラスホッパー家の印籠を見せて下さい! 印籠見せれば、貴族だと分かりますから!』

「ご主人様! 早くグラスホッパー家の印籠を見せて下さい!印籠見せれば、貴族だと分かりますから!」

『それは、言わなくていいですから!』

「それは、言わなくていいですから!」

「ええと……貴方は何を言ってるんですか?」

 店員は、怪しい言動を連発するヨナンの事を、メチャクチャ怪訝な顔をして見ている。

『印籠!印籠!』

「印籠!印籠! アッ!印籠な!」

 ヨナンは、やっと気付き、急いで懐からグラスホッパー家の印籠を取りだす。

「アッ。貴方は貴族のご子息様でいらっしゃいましたか」

 印籠を確認すると、店員の態度が、パッ! と変わる。
 やっとこさ、話が通じたようだ。

「そうだ。俺はグラスホッパー家四男のヨナン・グラスホッパーである。
 今日は、熊の置物を売りに、ここの商会に来たのだが?」

 相手が慇懃な態度になった事で落ち着いたヨナンも、やっとこさ、貴族らしい態度で話す事ができた。

『ご主人様! 熊の置物じゃなくて、男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱でしょ!』

「あっそうだった! 男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を持ってきたんだった!」

 やはり、毎日農奴なような生活をしてるせいか、貴族みたいな喋り方は無理だった。

 ーーー

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