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2. 大工スキル
しおりを挟むヨナンは、スキルを授かると、将来グラスホッパー家から独立する事を見越し、大工スキルを磨く決意をする。
都合の良い事に、グラスホッパー領の東側は、全て森。
領民からは帰らずの森とか言われて恐れられているが、奥に行かなかったら何も問題はない。
実際、領民も、森の入口辺りで薬草取りや、木を切り倒して木こりのような事をしてる者達もいたりする。
「今日も、帰らずの森に行くのか?あんまり奥に入って行くなよ。森の奥には恐ろしい魔物が住んでるというしな」
家の廊下を歩いてると、今日も義父のエドソンが話し掛けてくる。
そう。エドソンは、決して皆がいる食卓では、ヨナンに話し掛けないのだ。
だって、仲良くヨナンと話してたりしてたら、妻のエリザベスに嫌な顔をされて睨まれるから。
「奥の方には行かないよ。ただ、森で木を切って大工仕事の練習してるだけだから」
そう、ヨナンは森の少し奥で、木を切り倒し大工仕事をしてるだけ。
それが、グラスホッパー領ほどの広さの木を切り倒し、グラスホッパー家の素朴だが少しだけ大きな御屋敷より、少しばかり大きく立派な家を建てたとは決して言わない。
だって、言う必要もないし、帰らずの森はグラスホッパー家の領地でもないのだから。
まあ、誰の領地かと問われたら、カララム王国の領地だが、それも少し怪しい所。
だって、カララム王国の住民は誰も住んでないし、帰らずの森の奥には何があるのか誰も知らないのだから。
もしかしたら、伝説のハイエルフの王国があるかもしれないし、魔物の国があるかもしれない。
ただ、カララム王国が何も分からないまま、自分達の領地だと言い張ってるだけなのだから。
ーーー
話は、少し前。ヨナンが廊下で、エドソンに大工スキルを授かったと話した次の日まで遡る。
「誕生祝いだ。持っていけ!」
エドソンが相変わらず、廊下でヨナンに話しかけてきた。
エドソンがヨナンに渡したのは、大きな革の袋に入った大工道具一式。
「こんなの貰えないよ。こんなの貰ったのが継母に知れたら、俺殺されちゃうよ!」
「いいから、貰っとけ。俺がお前に出来る事は、これで最後だ。
勿論、この家に住んでいていいし、最低限の飯は食わしてやる。
だが、金銭的な援助はこれで最後だ。兄ちゃん達のように、学校にも行かせてやれないし、小遣いもやれない。そして、成人して15歳になったらグラスホッパー家を出てって貰う。
それが、お前に大工道具を渡す為にエリザベスと交わした約束だ」
「継母との約束って、俺、元々、学校に行かせて貰えると思ってないし、成人したら家から出て行くつもりだったから、大した約束じゃないよね?」
「ああ。俺もそう思って、エリザベスと約束したんだ」
「やるね!義父さん」
「ふふふふ。だろ?俺もやる時はやる男という事だ。いつもエリザベスの尻に敷かれるだけの旦那じゃないんだぞ!」
エドソンはニヤリと笑う。
まあ、決して、対した事をした訳ではないのだけど、大工道具をゲットできたのはとても嬉しい。
だって、エリザベスは、真冬に凍った地面から、素手で男爵芋を掘らせる女なのだ。
何も交渉しなかったら、決してヨナンは大工道具をゲットできなかったし、成人する15歳まで、大工スキルを磨けなかったのである。
てな感じで、ヨナンは大工道具をゲットして、ウキウキしながら帰らずの森に向かった。
まさか、帰らずの森で、信じられない出来事が起こるとは知らずに。
ーーー
大工道具を持って、帰らずの森に着くと、ヨナンは少しだけ帰らずの森の奥に入っていく。
まあ、誰にも未熟な大工仕事を見られたくなかっただけなんだけど。
「よし! それじゃあ、早速、木を切ってみるか!」
ヨナンは、得意の独り言をいいながら、大工道具が入った袋からノコギリを取り出す。
「ん? やっぱり、木を切り倒すんだったら斧だよな?」
ヨナンは、またまた独り言を言いながら、ノコギリから斧に持ち替える。
そして、
「よっこいせ!とっ!」
掛け声と共に、木の幹に向かって、斧を突き当てると、
スパン!
一振で、結構、大きな木が切れてしまった。
「エッ!? 何で?」
ヨナンは、メチャクチャビビる。
だって、そんなに力を入れないで、一振りしただけ。
それなのに、結構、大きな木が簡単に切れてしまったのだ。
「もしかして、これが大工スキルの効果か? だけれども、俺って、木を切っただけだよな?
木こりスキルなら、木が簡単に切れるのは分かる気がするけど、俺が持ってるのは大工スキルだろ?
もしかして、大工は木を加工するから、木を扱うスキルは、何でもマスターしてるって事なのか?
周りの人間に、大工スキルを持ってる奴が居ないから分かんないけど……まあ、そう思う事にしよう。だって、考えても分かんないし!」
ヨナンは、得意の長めの独り言を言って納得する。
それから、木がスパスパ切れる事を良い事に、大工作業するスペースを確保する為に、木を次々に切っていく。
「こんなにスパスパ切れると、面白いよな!」
なんか、初めてスキルを使ってハイになってしまった為か、気付いた時には、ヨナンはグラスホッパー領と同程度の広さまで、木を切り倒し伐採してたのは内緒の話。
まあ、グラスホッパー領と言っても、小さな村1つ分なんだけど。
「しまった。切り過ぎたか……だけど、この木は誰の物でもないので、別にいいよね!」
そう、グラスホッパー領では、家を建てる時など、帰らずの森で木を切って勝手に使うのだ。
その時、国に金を払ったりなどしない。
国も、誰が帰らずの森の木を切ったか分かんないし、把握する事も出来ないから。
まあ、帰らずの森が、カララム王国に所属してるかも怪しい所なんだけどね。
「もしかして、この木って売れるか?というか、売るにしても角材や板材のように製材してた方が高く売れそうだよね!」
ヨナンは、思いついて、早速、道具袋からノコギリを取り出す。
そして、自分が思いつく大きさをイメージしてから木にノコギリの歯を入れると、あら不思議。
ヨナンが想像する木の大きさに製材されてしまったのだ。
「うっそ~ん」
もう、自分のスキルの能力に呆れるしかない。
だって、ちょっと自分のスキルはチート過ぎるのだ。
皆が持ってる、スキルは、玉ねぎを切る時に、目から涙が出ないとかその程度のスキル。
人参の皮を早く剥くスキルだって、自分の手を動かして包丁で人参の皮を剥くのだ。
ヨナンのように、木にノコギリの歯を当てるだけでは決してないのである。
「俺、この大工スキルを使って、成り上がれるんじゃね?」
山のように積まれた、見事に同じ長さに製材された板材や角材を見ながら、ヨナンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
ーーー
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