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166. 最終回
しおりを挟む塩太郎の生涯の殆どは、剣姫ハラダ・ハナから逃れる事に費やされた。
相手は、剣神で剣姫で勇者のハラダ・ハナ。
普通の人間では逃げる事などできないが、そこは幕末最強の人斬り。塩太郎にとって逃げる事など容易い。
だって京都時代は、人に気付かれないように生きてきたから。人に紛れるのは、そもそも仕事だし、その道のプロだったから。
そんな感じで、塩太郎は10年程、南の大陸で冒険者をしながらハラダ・ハナから逃げ続け、それ以降は、西の大陸は『犬の肉球』の本拠地ガリム王国のヤリヤル城塞都市で、異世界に来て編み出した、神道異界流を広める為に後進の指導に当たったのである。
でもって、神道異界流の道場を建ててから、1年の歳月が経ったある日、神道異界流の道場に懐かしい顔が訪れたのであった。
「塩太郎さん!こんにちは! 約束通り、塩太郎さんの奥さんになる為にやって来ましたよ!」
そう、ドワーフと人間のハーフで、この世界最高の鍛冶師であるオイドン・トラデアル。おいどんでごわすとか、薩摩の偉人のような話し方の苗字を持つ虎子である。
虎子は、押し掛け女房のように勝手、自宅兼道場である神道異界流の道場に住み込み、刀鍛冶をしながら、塩太郎と一子を儲けた。
その子の名前は、佐藤剣聖。
まあ、ハラダ・ハナから逃げ続けたせいで、ハラダ・ハラと戦う機会が無くなり、剣神の称号を手に入れる事は出来なかったのだが、案外、塩太郎的には、剣聖という称号が気に入っていたのである。
だって日本では、剣聖が一番の剣士最高峰の称号だし、塩太郎が思う最強の侍である塚原卜伝や上泉信綱も、剣聖と呼ばれてたし。
でもって、剣聖が生まれてから3年後の有る日。
「塩太郎さん!やりました! ついに、僕の手で聖剣を作り出す事に成功しましたよ!」
この世界一番の鍛冶師である、オイドン・トラデアルの手に持たれた最高の一振
それは、アダマンタイトを使う事なく打たれた純粋な日本刀であり、紛うことなき本物の聖剣であった。
「僕、もう精根尽き果てましたよ。これ以上の刀は、もう打つ事などできないと思います……。
多分、これを打つ為に、寿命が3年程縮んだと思いますしね。
という訳で、本当に塩太郎さんありがとうございました!
見本の聖剣村正を、いつも間近で見せてくれて!
僕、目的達成したから故郷のハラハラに帰ります!
アッ!それから息子の剣聖は、しっかりと剣士に育てて下さいね!
次の僕の夢は、僕が打った刀を、息子に使ってもらう事ですから!流石にこれ以上寿命が縮むの嫌ですから、聖剣を打つのは封印しますけど。
それから、その聖剣虎子は記念に塩太郎さんに差し上げます!僕と思って大切に使って下さいね!
僕的には聖剣を打った事実が重要で、聖剣そのものを手元に飾っておく趣味とか無いですから! それに、しっかりと聖剣を使いこなせる人に使ってもらう事が一番ですので!」
世界最高の鍛冶師オイドン・トラデアルこと、虎子は、自分の言いたい事だけ言って、とっとと自分の故郷であるハラハラ城塞都市に帰っていってしまったのだった。
その後、エリスが南の大陸で拾ってきた、赤髪色黒の少年を養子にして育てる事となったり、色々な事件があったり月日は流れる。
そして、塩太郎が50代になったある日。日課である道場の庭で盆栽の手入れをしてると、突然、塩太郎の目の前の次元が歪むと、扉のようなものが現れ、そこから、またまた懐かしい顔が現れた。
「よお! 塩太郎! 久しぶりだな! なんでもこの世界を、俺様の代わりに悪魔から救ったそうだな!
ここに来る前に、アマイモンの野郎に聞いたぜ!」
塩太郎に向かって、ぞんざいな態度。異界の悪魔の中でも大物のアマイモンに対しても、野郎呼ばわり。そう、史実では既に死んだ筈の高杉晋作が、昔と変わらない若い姿のままで、塩太郎の元に現れたのだ。
何故、塩太郎が日本の歴史というか、史実を知ってるかというと、この世界に転移された時に持たされていた、日本の歴史の教科書と、異世界モノの漫画を読破していたのだ。
歳を取って落ち着いた塩太郎は、昔、異世界転移の時に、何冊か本を貰ってた事を思い出して、暇潰しに読んでいたのである。
その歴史の教科書を読んで、高杉が死んだ事も、薩長同盟で薩摩と長州が組んだ事も、幕府を倒幕して、明治維新を成し遂げた事も全部知っている。
まあ、それにより、今では、薩摩の奴らへの恨みも無くなってたりするのだが、それを知ったのが、つい数年前なので今更なんだけど。
もっと早く、日本の教科書を読んでいたとしたら、ハラダ・ハナと結婚する未来があったかもしれないが、本当に今更の話。
でもって、高杉が突然現れた事にも、全く頭が追い付いていないのに、続けて、
「塩太郎。元気にしてたか?」
まさかの吉田稔麿まで、庭に現れた扉から出て来た。
「えっ!? 稔麿さんは……長州藩邸のすぐ近くで、俺の目の前で死にましたよね?」
流石に、これはビックリ仰天する。
だって、塩太郎は池田屋の変の後に、吉田稔麿を助け、そして逃げ延びる途中で、力尽きた吉田稔麿の死に際に立ち会ったのである。
「ああ。それは、シロさんに助けて貰って、生き返らせて貰ったんだよ」
吉田稔麿は、事も無げに答える。
まあ、今は、エリクサーの存在を知ってるので、シロに生き返らせて貰ったと稔麿さんが言うなら、そうなのだろう。
というか、シロという名前を聞いて、事と次第が段々分かって来た。高杉や稔麿さんも、多分、塩太郎と同じように、シロとセドリックによってエリクサーで生き返らせられて、この異世界に来たのであろう。
そして、塩太郎をこの世界に召喚した張本人達で、アマイモンの仲間である、ピンク髪で陶器のような真っ白な肌の幼女のシロと、無駄にイケメンの顔色が悪い、真っ赤な目をしたセドリックが、扉の中から現れる。
「塩太郎さん! 聞きましたよ! ベルゼブブをやっつけたんでしょ!
ヤッパリ、僕の審美眼は正しかったでしょ!ね! ご主人様!」
シロは、嬉しそうに塩太郎の手を握りしめ、ご主人様のセドリックに自慢する。
「お前じゃなくて、塩太郎を選んだのは俺だからな!」
シロの自画自賛に、ご主人様のセドリックがすかさず、突っ込みを入れる。
「いや、僕ですって!」
「俺だよ! 俺! それにしても、お前、俺の下僕の癖に生意気だぞ!」
「そうですか? なら、ご主人様の手柄にしてあげますよ!そして、優しい僕を褒めて下さい!」
大人のシロが、ご主人様のセドリックに手柄を譲渡した。
一体、コイツら何なんだ。ベルゼブブやカブリエル以上にヤバい奴らだという事は、まつ毛が痙攣するようにビクビク動き続けてる事で、分かるんだけど。
前に会った時は、死ぬ間際で、コイツらのヤバさを全く理解していなかったようである。
そんな冷や汗を垂らし、緊張気味の塩太郎を無視するように、高杉がデッカイ声で話し掛けてくる。
「でよ! 塩太郎! 今日は、オメーを迎えに来たって訳よ!
俺は、コイツらに命を救われてから、ずっとコイツらを手伝ってんだ!
でもって、コイツら何をしようとしてるか知ってるかよ?!
なんとコイツら、神殺しをやろうとしてんだぜ! メッチャ面白そうだろ!」
高杉晋作が、興奮しながら捲し立てる。
まあ、面白好きな高杉なら、神殺しと聞いたら、絶対に飛びつくだろう。
幕府を倒す事より、神殺しの方が難しそうで、面白いと思っちゃう性格してるし。
まあ、辞世の句も、『おもしろきもなく世を面白く』だからね。面白そうな世界を見つけたら、小躍りして行くでしょ。
「だから、塩太郎! お前は俺に着いて来い!なにせ、お前は、俺の一番の家来だからな!
お前が居ないと何も始まんねーし、お前が居ないと、俺のポテンシャルの100分の1も出せやしねーんだよ!
実際、お前が居ないと自慢じゃねーが、直ぐに役人に捕まっちまうし、死んじまうからな!
俺の夢の実現の為には、絶対に、俺の用心棒のお前が必要なんだよ!」
高杉晋作は、初めて会った時同様に、ふてぶてしく、やけに偉そうな態度で、着いてこいとばかりに塩太郎に手を差し出す。
その差し出された手に対して、塩太郎はニヤリと笑うと、パン!と、高杉の手を払い除けるように叩く。
「フン! 俺が居ないと、すぐに下手打って死んじまう癖に!
無鉄砲で滅茶苦茶過ぎるお前に、唯一合わせられるのは、お前の一番の子分である、この剣聖 佐藤塩太郎様しか居ねーんだよ!」
塩太郎は、そう言うと、急いで道場に戻り、神棚に飾ってあった聖剣虎子を握りしめ、再び、皆が待つ庭に戻って来た。そして、
「じゃあ、幕末最強の人斬り、剣聖 佐藤塩太郎様が、神様でも仏さんでも、この手で叩き斬ってやんよ!
丁度、この世界で悪魔王ベルゼブブを斬り損ねて、不完全燃焼だったしな!」
塩太郎は格好良く台詞を決めると、なんの躊躇も無く、盟友高杉やシロと共に、神殺しを成し遂げる為、異世界へと繋がる扉の中に足を踏み入れた。
まあ、誰にも告げず道場を後にしてしまったので、この後、塩太郎が突然消えたと大騒ぎになった事は言うまでもない話。
5年後ぐらいに、たまたまブリトニーの元に遊びに訪れたシロによって、塩太郎の生存が知らされ、あの腹黒シャンティーが安堵して大泣きしたというのも秘密の話である。
[完]
ーーー
最後まで読んで頂きありがとうございます。☆☆☆☆☆を押して評価して貰えたら、作者の励みになります。
この作品は、『必ずイカせる!異世界性活』と『骨から始まる異世界転生』のスピンオフ作品でした!詳しくスコップしたい人は、この2つ作品を読むと、より深く世界観が分かると思います。
それから、
『大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです』
を、現在、絶賛連載中なので、読んでもらうと嬉しいです!
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