160 / 166
160. ベルゼブブ攻略レイド(12)
しおりを挟む「ここまで言われると、示現流の使い手じゃない私は、もう部外者になってしまうわね……」
異界の悪魔サルガタナスと、ハナの話を黙って聞いていたアナスタシアは、剣をしまう。
と言っても、アナスタシアの剣はオリハルコンスライムのオリ姫なので、ただスライムに戻っただけだけど。
「さあ、お前の命を掛けた必殺の一撃を見せてみよ!」
サルガタナスが、ハラダ・ハナの目を真剣に見つめながら言う。
「言われなくても、見せてやるわよ! 私は貴方を殺す為だけに、今まで厳しい常軌を逸した修行に耐えて来た!
どうやら、修行で死ぬのが当たり前になって、死の恐怖が麻痺してしまったのが私の落ち度。越えられなくなってしまった壁。
死ぬ気の一撃が物凄く軽くなってしまってた……。
だから、本物の現役の侍である佐藤塩太郎が気になった。あの人は、この世界の侍に持つ事が無い、一種の狂気をもっている。
いつでも死ぬ準備が出来てて、死は軽いものの筈なのに物凄く重い。そして、それと相対するように一撃、一撃が物凄く重い。
あれこそが、侍の本質。『武士道と云うは死ぬことと見つけたり』を、体現している」
「そうだ。この世界の侍が忘れてしまったもの。私の友人、ハラダ・ゴンゾウが持ってたもの。その武士道精神を、再び、この世界の侍に思い出させるのが私の役目!」
「何、悟ったこと言ってるのよ! 貴方の言ってる言葉は、ただの押し付けよ!
私達は、そんなこと何も望んでなかった!」
「フン。何とでも言うがいい。私は、私が思う武士道を進むのみ」
示現流を極めし異界の悪魔サルガタナスは、示現流特有の上段蜻蛉の構えを取る。
そして、その構えを見ると、相対する剣姫ハラダ・ハナも、同じように上段蜻蛉の構えを取った。
「さあ来い! お前の全てを、私に叩きつけてみよ!」
「上から目線、ムカつくのよ!私はアンタの為に修行して来た訳じゃないんだからね!
父や先祖の無念を晴らす為に、厳しい修行に耐えて来たんだから!」
「フン。戯言《ざれごと》を。言葉遊びはここまでだ。お前の持てる力を、私に力一杯打ち込んでみろ!」
「言われなくてもするわよ!」
剣姫ハラダ・ハナの周りに、薄く薄く濃縮された高密度の闘気が練り上げられる。
これほど見事な闘気など、例えガブリエルにも練れない程の高濃度。
本当の天才が、努力によって到達できる境地。
「生きて数年の少女が、よもやこれだけの闘気を練れるようになるとは」
敵である筈の異界の悪魔サルガタナスが、ハナの闘気に感心してる。
最早、師匠が弟子の成長を見守る心境なのかもしれない。
「そんだけ、アンタを憎んでるのよ!」
ハラダ・ハナは、ゆっくりと闘気を纏ったまま、示現流を極めし異界の悪魔サルガタナスににじり寄る。
そして、間合いに入った瞬間!
「チェストーー!!」
薩摩示現流特有の掛け声と共に、気合いが入った必殺の一撃を、異界の悪魔サルガタナスの脳天目掛けて振り落とす。
その気合いの入った一撃を、サルガタナスは、正面から受け止める。
だがしかし、ハナの渾身の一撃は、サルガタナスの刀を、まるで豆腐のように斬り裂き、そしてそのままサルガタナスを真っ二つに斬りさいたのであった。
「見事……」
異界の悪魔サルガタナスは、一言だけ言葉を発すると、そのまま霧のように消えてしまった。
「ヤッ……ヤッターー!! ついに、異界の悪魔サルガタナスをやっつけたわよ!!」
剣姫ハラダ・ハナは、喜びのあまり飛び跳ねる。
「やったわね!」
「ついに、やりおった」
アナスタシアや、『鷹の爪』副団長のドワーフのオッサンも感無量である。
「うおぉぉぉーー! やったぞ! ついに、ハラダ家、ハラ家の悲願、異界の悪魔サルガタナスを討ち取ったぞーー!!」
他のハラダ家、ハラ家の者達も喜びの雄叫びを上げる。
「うえぇ~ん。俺の代で、やっと『鷹の爪』の悲願、サルガタナスを倒す事が出来たよぉ~」
『鷹の爪』団長のハラ・クダシが、情けなく男泣きする。
「やっぱり、あれが今の『鷹の爪』の団長なんて、納得できないわね」
なんか、アナスタシア的に、頼りないハラ・クダシが物足りないようだ。
まあ、ハラダ・ハナは、『犬の尻尾』所属なので、現在、本家の『鷹の爪』より、アナスタシアやケンジやラインハルトが所属してる『鷹の爪』アムルー支部の方が強くなってしまう逆転現象が起こってたりする。
「これは、暫くこの南の大陸に留まって、『鷹の爪』を根本的に鍛え直さないといけないわね」
「嘘じゃろ……」
アナスタシアが、『鷹の爪』本部で副団長をしてた時代にも所属してた長寿種の団員達が、全員青い顔をしている。
どんだけアナスタシアが居た時代の、『鷹の爪』本部の稽古は厳しかったのだろう。
「オイオイ! まだ、戦いは終わってないぞ? 何、やり切った顔してんだ?お前ら?」
「シャンティーちゃん達が、心配だよ……」
ここで、アスタロトが撤退した事により、錯乱してた冒険者全員をエリクサーで元に戻す事に成功した『鷹の爪』アムルー支部団長のラインハルトと『犬の肉球』のエリスがやってくる。
「そうね。まだ、終わっていなかったわね」
アナスタシアは、再びオリ姫を、オリ姫ソードに変化させる。
「そうでした! にっくきサルガタナスは殺せましたが、まだベルゼブブを倒してません!急いで、姫様達を助けに行きます!」
剣姫ハラダ・ハナも襷の紐を結び直す。
ベルゼブブの戦いに参加すべく、聖剣を持つアナスタシアと剣姫ハラダ・ハナは、宙を蹴って、ベルゼブブとの決戦が行われてるであろう、ベルゼブブ城9階天守に向かったのであった。
勿論、聖剣を持ってても戦力外のラインハルトは、言うだけ言って、着いて行く素振りも全く見せなかったのはお約束であった。
3
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界の剣聖女子
みくもっち
ファンタジー
(時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。
その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。
ただし万能というわけではない。
心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。
また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。
異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。
時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。
バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。
テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー!
*素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる