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139. 火山スライムキング(2)
しおりを挟む塩太郎は、鬼滅ばりの全集中で、少しづつ火山スライムキングに近づいていく。
そして、火山スライムキングとの間合いに入ると、
スパン!
勢いよく、居合の構えから、斜め上に向かって火山スライムキングを斬り裂いた。と、思った。
「エッ!?」
しかし、塩太郎が斬り裂いたと思った火山スライムキングは残像。
動きが早すぎて、火山スライムキングが後ろに下がったのに気付かなかったのである。
寝てるのを起こされ、鼻ちょうちんが割れてしまった火山スライムキングは、猛烈に怒っている。
「嘘だろ……俺の必殺の居合斬りが躱されただと……」
塩太郎は、心底焦る。
だって、塩太郎の必殺の居合斬りが躱された事など、今迄無かったから。
塩太郎の居合い斬りは、本当に必殺。
抜けば、必ず相対する相手を殺してきたのである。
それなのに、目の前に居る火山スライムキングは、塩太郎の必殺の居合い斬りを避けたのだ。
塩太郎のショックは、想像以上にデカい。
「ちょっ! 塩太郎、何、ボーと惚けてるのよ!
火山スライムキングの攻撃が来るわよ!」
シャンティーが、惚けてる塩太郎を怒鳴りつける。
「エッ?」
ボコッ!
塩太郎は、火山スライムキングの体当たり攻撃を受け、思いっきり吹っ飛ばされる。
「ちょっとーー!!」
シャンティーの叫び声が聞こえてくる。
全てがスローモーション。塩太郎は、吹っ飛びながらシャンティー達が慌てて叫んでる様子を見ながら、自分が空を飛んでいる事に気付く。
「ヤバっ……気が遠くなってきやがった……」
塩田郎は空中で気を失い、纏っていた闘気が解け、そのまま平らな地表まで吹っ飛ばされ、コンクリートのように固い地面に叩きつけられた。
「塩太郎ーー!!」
シャンティーが叫ぶ。
だが、シャンティーの必死な声は、地面でグチャグチャになった塩太郎に響く事は、決して無かった。
ーーー
「塩太郎……」
背後から、誰かが、塩太郎を呼んでる声が聞こえてくる。
「何だ?」
塩太郎が後ろを振り返ろうとすると、遠くの正面の方から懐かしい人達の声が聞こえて来て、後ろに振り返るのを思い止まる。
「塩太郎よ、早く来い! 行くぞ!」
塩太郎の前に見えるのは、少しだけムネオに似てる、塩太郎が大好きだった長州藩の先輩、来島又兵衛。
「塩太郎、コッチだ」
隣には、松下村塾の仲間だった久坂玄瑞。
塩太郎の親分である高杉晋作と並んで、松下村塾の双璧と呼ばれた男である。
「塩太郎、置いて行くぞ!」
他にも、長州藩の仲間がたくさん出て来て、塩太郎を呼んでいる。
「ああ。すぐ行く」
塩太郎は志を同じくした仲間に呼ばれて、急いで、長州の仲間の元に行こうとする。
「塩太郎……」
微かに、後ろから塩太郎を呼ぶ声が聞こえる気がしたが、気にしない。
だって、目の前には大好きだった仲間達が居るのだから……。
そう、大好きだった人達。
そして、もう、決して、会えない人達。
元の世界に戻ったとしても、もう絶対に会えない人達なのだ……。
だって、彼らは、志半ばにして、全員死んでしまったのだから。
誰もが、日本を変えようと足掻いて、頑張って死んでしまったのだ。
木島又兵衛も、久坂玄瑞も、塩太郎と同じく、蛤御門の変で自害している。
「塩太郎……」
背後から、塩太郎を呼ぶ声が聞こえてくる。
「分かってんよ。あっちに言っちゃいけねーんだろ。そんな事分かってんだけど、俺は、又兵衛さんや、アイツらが大好きだったんだよ!」
「塩太郎……」
「だから、分かってるって! 久しぶりに会ったんだから、少しくらい感傷にふけってもいいだろうがよ!」
塩太郎は、鬱陶しいぐらいに背後から呼びかけてくる奴を、振り払うように後ろを振り返る。
ゴツン!
「痛っ!!」
「このアホ! アンタ、突然起き上がるんじゃないわよ!」
塩太郎の目の前に、おデコにデッカイたんこぶを作ったシャンティーが、涙目で怒っている。
「お前、泣いてるのか?」
「アンタに頭突きされて、痛かったのよ!」
どう考えても、シャンティーは今さっき、泣いたようには見えない。
それ程、シャンティーの顔は涙でグチャグチャで、目を真っ赤に腫れしていたのだ。
「その割には、目が真っ赤だな?ずっと泣いてたんじゃないのか?」
「そ……そんな筈ないでしょ! アンタを復活させるのに必死で、目が疲れてたのよ!」
「復活? エリクサー掛けるだけで、すぐに復活出来るだろ?」
塩太郎は、不思議に思う。なにせ、この世界は人を生き返らせる事ができるエリクサーがある世界。
細切れのグチャグチャにされない以外、死んでから30分以内なら、人を生き返らせられる世界なのである。
「アンタ、自分がどんな状況だったのか分かってんの?
アンタ、火山スライムキングに吹っ飛ばされて、山の下の平地まで飛ばされてたのよ!
しかも、地面に叩き落とされると同時に死んじゃてるから、気配も分かんないし、探すのに苦労したの!
そして、やっとこさ見つけても、頭がパックリ割れてたから脳みそグチャグチャで、元の形に戻すのも滅茶苦茶大変だったんだから!
そのまま、エリクサー掛けても良かったけど、記憶障害を起こしちゃうと、また、1から全ての事を説明するの面倒だと思って、ある程度元通りにしてからだったから、凄く時間が掛かっちゃったのよ!
アンタを探し出して、脳みそ復元するのに2時間も掛かって、もう、完全に魂が体から抜けてたんだからね!」
「俺、魂抜けてたのに生き返れたのかよ?」
「だから、魂が体から遠くに離れないように、必死でみんなでアンタの名前を呼んで叫んでたのよ!
そこら辺に、みんな喉を抑えて転がってんでしょ!」
確かに、ムネオもエリスもメリルも、喉を抑えて転がっている。
多分、誰しも必死に叫ぶと喉を潰してしまうのだろう。
「まあ、確かに、俺はアッチの世界に行きそうだったな。
夢の中で、死んだ仲間が俺の事を呼んでたし……。
でも、微かにシャンティー達の声が聞こえたから思いとどまれたんだな」
「そうでしょ! だから感謝しなさい! この私に!」
「だけどお前の声、ちょっと鬱陶しかったぞ?
俺も、久しぶりに仲間と会ったから、少しぐらい喋りたかったんだけど」
「アンタ、アホ?体から魂が離れてる時間が長くなれば、長くなるほど、魂が体に戻れなくなるのよ!」
「そうなのか?」
「そうよ!」
「だったら、まあ、一応、ありがとうとは言っとくな」
塩太郎は、渋々頭を下げる。
だって、シャンティーが塩太郎を生き返させたのは、異界の悪魔ベルゼブブを倒すのに利用する為だし、メリルだって、聖剣エクスカリバーをレンタルする為に、塩太郎に死なれるのは困るのだ。
「当然よ! もっと感謝しなさい!」
「何で俺が、感謝しなけゃならんのだ?お前が俺を助けたのは、打算だろうが!」
「そ……そんな事、ある訳ないじゃない!
私は、心優しい妖精って有名なんだから!」
シャンティーは、ちょっと怒ったのか頬っぺを膨らませ抗議してくる。
「確かに。目を真っ赤に腫らして、泣くほど俺を生き返らせたかったみたいだからな!」
「だから、目が真っ赤になってるのは、アンタの脳ミソを寸分なく元通りにする為に、集中して目が疲れたからと言ってんでしょ!」
「そういう事にしといてやんよ!」
「ハア? アンタ、私の話を理解してんの!」
シャンティーの本心は分からないが、シャンティーにとって、塩太郎が大事な事は確かであろう。
グチャグチャになった脳ミソを、素手で寸分たがわず繋ぎ合わせてくれるくらいには。
それが、どれだけ苦行だったとしてもね。
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