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109. 称号戦

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「俺の上段からの一撃必殺を見て、怖気付かないとは、世間話知らずなのか、はたまたバカなのか」

 相変わらず、剣聖級ハラ・クダシは上から目線で言ってくる。

「バカはお前だろ! 俺は日本でも薩摩の奴らとは、何度も相対してんだよ!
 確かに、薩摩示現流の初撃を貰ったらヤバい。だけど、それだけなんだよ!」

「なるほど。流石は本物の侍と言った所か。我らの流派の事を、少しは分かってるのだな。
 ならば、最初に言っておこう。俺の初撃の一撃は、誰にも避ける事など出来ん!」

 剣聖ハラ・クダシは、自信満々に言ってくる。

「ハッ? 笑かしてくれるのか?どうせ、立木打ちを毎日欠かさず1000回以上やってるとか言うんだろ?」

「エッ!?何故、それを?」

「アホか! 俺は日本出身で、職業柄、各流派の特徴や練習方法なんかは、しっかり頭の中に入ってんだよ!」

「それでも、俺の初撃は、誰でも避けられん!地道な鍛錬は、嘘をつかんのだ!」

「じゃあ、俺と戦ってみたらいいんじゃないか?
 すぐに、その答えが分かると思うぜ!」

 塩太郎は、煽りに煽る。
 塩太郎的に、もう、この時点で、戦いは始まっているのだ。

「ああ。吠え面かくのなよ!」

 剣聖ハラ・クダシは、ゆったりと上段蜻蛉の構えを取る。

「初撃を躱せばいいだけだから、余裕だろ?」

「何度も言うが、俺の初撃は躱せない」

 フロアーボスが居なくなった階段フロアー中央で、塩太郎と剣聖ハラ・クダシが、駆け引き?罵りあい?をしてる間に、『鷹の爪』のメンバーと思われる者達が、次々に集まって来て、いつの間にかお祭り騒ぎになっている。

 酒を飲む者。勝敗のギャンブルを行う者達など様々。因みにオッズは、9対1で、剣聖ハラ・クダシが優勢である。
 勿論、シャンティーは、自信満々に塩太郎に掛けていたりする。

「塩太郎! 分かってるわね!負けたら、お小遣い1ヶ月間無しにするからね!」

 シャンティーが、応援というか、自らの欲望の為にハッパをかける。

「俺が負ける訳ねーだろ?こんな対人戦の素人によ!」

 塩太郎は自信満々である。
 何故なら、塩太郎的に見て、剣聖ハラ・クダシは、ハロハロ城塞都市のジゲン流の道場に居る奴らよりやりやす相手なのだ。
 多分、ハロハロの道場で若くして才能を開花させて、『鷹の爪』に入団したのだろう。
 その為か、圧倒的に対人での戦い方がなっていない。

 まあ、魔物とばかり戦っていたら、そうなってしまうのは仕方が無い事なのだが、対人戦での駆け引きとかが、全然、分かっていないのだ。
 ただ、初撃に相手を確実に葬り去る。
 剣聖ハラ・クダシは、その一点のみに集中させて特化してる侍なのである。
『一の太刀を疑わず、二の太刀は負け』という、薩摩示現流の教えを忠実に守っている古風な侍とも言えるけどね。

「それでは、人も全員あつまって来たみたいなので、そろそろ称号戦を始めるぞい!」

『鷹の爪』副団長ドワーフのオッサンが仕切り出す。

 というか、もう既に、剣聖ハラ・クダシは、上段蜻蛉の構えをとってるのだけど。

「ああ! いつでもいいぜ!」

 塩太郎は、自信満々に、腰の木刀を握る。

「居合の構えか?」

「おっ? お前、居合い斬りを知ってたのか?」

 塩太郎は、おどけながらハラ・クダシに質問する。

「舐めるな! ジゲン流にも居合い斬りは伝わっている!」

「じゃあ、その居合い斬りで勝負を付けてやるぜ!」

「フン!居合い斬りのような軟弱な小手先の技術で、私の必殺の初撃を躱せる筈なかろう!」

「フフフフフ。それは、どうかな」

 どうやら、剣聖ハラ・クダシは達人の居合い斬りというものを見た事ないようである。
 まあ、薩摩示現流の修行方法って、立木打ちばかりするから、他の練習が疎かになってしまうんだよね。
 そして、示現流の者達ばかりとしか対戦しないので、本物の達人の居合い斬りの凄さを全く分かっていないのだ。

 しかも、塩太郎はただの居合い斬りの達人ではない、伝説の人斬り。しかも、得意の居合い斬りで、京都の人斬りの頂点を極めた男である。

「後悔するなよ」

「だから、御託はいいって!」

 塩太郎と剣聖ハラ・クダシは、既に、お互いの間合いに入ったまま睨み合う。

「それでは、始めるぞい」

 どうやら審判を買ってでた、ドワーフのオッサンが、塩太郎と剣聖ハラ・クダシを交互に見る。

「いつでもいいぜ!」

「同じく」

 塩太郎と剣聖ハラ・クダシは、相手の目を決して離さずに答える。

 それを聞いたドワーフのオッサンは、一呼吸置いてから、

「それでは、称号戦、始め!」

 ドワーフのオッサンの号令と同時に、塩太郎と剣聖ハラ・クダシはお互い、渾身のスピードで動き出す。
 剣聖ハラ・クダシは振り落とすだけの最短ルート。しかも伊達に毎日1000回以上立木打ちをしてるので、スピードも半端ない。

 まあ、普通の居合い斬りの達人相手なら、勝負あっただろう。
 しかし、塩太郎は、普通の居合い斬りの達人ではない。
 日本史上、個人で侍が、一番暗躍した時代の居合い斬りの達人。
 しかも、その必殺の居合い斬りで、幕末伝説の人斬りと呼ばれた男。

 スパン!

 気持ち良い、大根でも切ったような乾いた音が響く。

 それに遅れて、

『チェストー!!』

 気合いの入った剣神ハラ・クダシの掛け声が響く。

 しかしながら、塩太郎から見て斜め左下から、右脇に綺麗に斬り裂かれた剣聖ハラ・クダシの胴体が、斜め下にずり落ち、ハラ・クダシの最初だけ力があった剣撃は、塩太郎の正面からズレて、地面に激突する。

 ズドン!

「フーー。胴体斬られて、この威力かよ……当たったてたら、流石にヤバかったな……」

 塩太郎は、抉れた石畳を見て冷や汗をかく。

「嘘だろ……団長が負けたのか……」

「というか、お前、アイツの剣筋見えたかよ……」

「団長の上段からの振り落としより早いって、アイツ、一体何者だよ……」

「ていうか、アイツも、団長と同じく木刀だぞ!木刀で、あそこまで真剣のようにスパン!と、斬れるものなのか……」

『鷹の爪』のメンバーは、あまりの衝撃的な結末に驚愕してる。

「お父さんが……お父さんが、本当に負けてしまうなんて……」

 ハラ・キクも、まさか、こんなにも呆気なく、自分の父親が負けると思っていなかったのか、固まってしまっている。

 まあ、こんな所なのだ。

 幕末の侍達と、この世界の冒険者との違いは。
 所詮、斬られて致命的な傷を負っても、エリクサーを使えば、簡単に治ってしまう。
 なので、驚愕はするが、死んじゃヤダ!と、泣き叫ぶ者など一人も居ない。

 その点、幕末時代の侍は、斬られたら死ぬのだ。
 一撃、一撃の気合いの入り方が全く違うのである。

 塩太郎の剣の速さと、ハラ・クダシの剣の速さは、その違い。

 本気の真剣勝負になれば、塩太郎の剣速は1段階も、2段階も、3段階にも跳ね上がる、絶対に相手に負けないスピードに。

 それにより、塩太郎は、魑魅怨霊が住まうと言われた血生臭い京都で生き残れたのだ。

「フン! 速さ勝負を仕掛けた時点で、お前の負けは決定してたんだよ!」

 塩太郎にとって、殺し合いは日常で、職業。
 相手が、薩摩示現流の使い手と解り、尚且つ、初撃に絶対の自信を持ってると解った時点で、勝負は決まっていたのだ。
 後は、絶対に自分の土俵の速さ勝負で戦うようにする為に、相手を煽るだけ。
 それにより、最初から上段蜻蛉の構えを、元剣聖ハラ・クダシに取らせた時点で、もう勝負はついていたのである。

「やったわよ! 塩太郎! 私の総取りよ!」

 シャンティーがクルクル空中を、踊るように周りながら、塩太郎の元に飛んでくる。
 どうやら、塩太郎にベッドしてたのは、シャンティーだけだったようだ。

「そいつは、良かったな。そしたら、お小遣い2万マーブルに増やしてくれよ!」

「それと、これとは別の話よ!
 それにしても、よく、剣聖ハラ・クダシに勝てたわね?」

 シャンティーは、すぐさま話を変える。

「お前、俺が勝つと思ってなかったのかよ!」

「え?普通に、思ってなかったわよ? 地力では、どう考えても、クダシの方が上でしょ?」

 シャンティーは、何言ってんだ?コイツ?という顔をして塩太郎に言う。

「だったら、何で、俺に掛けてたんだよ!」

「そんなの、誰かが塩太郎に掛けなかったら、賭けが成立しないからじゃない?
 負けても、塩田郎から回収しようと思ってたしね!」

 シャンティーは、何事でもないように真顔で答えた。

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