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108. 幕末最強の男

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 塩太郎とキクとの些細な言い争いなど有りつつ、順調に階層の攻略が進み、やっとこさ、フロアーボスが鎮座する階段フロアーに到着した。

「手を出すな。コイツは俺が倒す」

『鷹の爪』団長のハラ・クダシが、他の団員達が動き出そうとするのを制止する。

 フロアーボスは、硬そうなアイアンゴーレム。
 そして、お付のロックゴーレム2匹が、アイアンゴーレムの両サイドを固めている。

 塩太郎的には、丁度良い展開。
 この階層の探索中も、他の団員に任せっきりで、ハラ・クダシは全く戦っていなかったのだ。
 やっとこさ、剣聖ハラ・クダシの実力を見る事ができる。

 剣聖ハラ・クダシは、ゆったりと、木刀を薩摩示現流特有の上段蜻蛉の構えを取る。

 そして、そのまま擦り足で、アイアンゴーレムの間合いに躊躇なく入る。

 間合いに入った瞬間、今迄止まっていたゴーレム達が、電源が入ったかのように動き出す。

 しかし、その動きを制止する事なく、

「一撃必殺!ジゲン流に斬れぬもの無し!!チェーストー!!」

 上段蜻蛉の構えから振り落とされた凄まじいばかりの剣撃が、ゴーレム達の攻撃を全て無視して、そのままアイアンゴーレムの脳天目掛けて振り落とされる。

 ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザーン!!

 轟音と共に、アイアンゴーレムは真っ二つに斬り裂かれ、両隣に居たロックゴーレムも、風圧だけで粉々になってしまった。

「フン!」

 剣神ハラ・クダシは、いつもの癖なのか、木刀から血糊を払う仕草をしてから、木刀を腰に戻す。

「凄まじいな……」

 やはり、日本で見た事ある示現流の使い手とは全然違う。
 まあ、同じぐらいの実力の奴なら、正直、日本にも居るが、それに闘気が合わさると、破壊力が10倍、30倍にも膨れ上がるのだ。

「今なら、まだ、俺に挑戦するのは止められるぞ!」

 剣聖ハラ・クダシは、相変わらず、上から目線で塩太郎に言ってくる。

「フン。洒落せー! お前は、井の中の蛙なんだよ!
 俺が居た世界には、お前程度の実力者など、ゴロゴロ居たんだよ!
 お前に、現役の本物の侍の実力ってもんを見せてやんよ!」

 そう、正直、幕末京都には剣聖ハラ・クダシ以上の実力者がゴロゴロ居た。新撰組の沖田総士やら斎藤一、永倉新八、近藤勇。
 新撰組の中ででも、幕末京都で相対したら、多分、剣聖ハラ・クダシが確実に負ける奴がゴロゴロ居る。

 何故なら、魔物とばかり戦ってる剣聖ハラ・クダシは、圧倒的に対人経験が足りないのだ。
 しかも、この異世界はエリクサーが有る世界。
 全く、死を恐れてないからか、平気で、上段蜻蛉の構えのような無防備な構えを取れてしまう。

 例えば、示現流の使い手が、それなりの剣術の使い手3人に囲まれた場合、上段蜻蛉の構えは悪手。1人は倒せるかもしれないが、上段から振り落とした所へ、狙い定めて、首を撥ねられる。

 幕末京都で暗躍してる人斬りや、新撰組ならば、確実にそこを狙うし、示現流の使い手の初撃を躱すのは幕末時代では常識なのだ。

 しかも、塩太郎は幕末京都時代、相当な示現流の使い手と何度か対戦した事がある。
 塩太郎の見立てでは、剣聖ハラ・クダシはそいつらに及ばない。
 まあ、闘気も併せれば、剣聖ハラ・クダシの方が上だが、技術、一撃必殺で、相手を必ず初手で叩き斬るという気迫は、遠く幕末時代の示現流の猛者には及ばないのだ。

 それくらい、幕末時代の対人剣術の技術は上がっていたのだ。

 まあ、それを狙って、この世界に塩太郎を移転させた、シロとご主人様のセドリックは、わざわざ幕末時代で勇者候補の塩太郎を探しだしたのだけど。

 実際、剣豪と呼ばれる者は、幕末時代以外にも存在する。宮本武蔵や、佐々木小次郎、柳生石舟斎、塚原卜伝など、列挙に暇ない。

 しかし、歴史オタクのシロとセドリックは、その辺の有名人を無視して、わざわざ幕末時代で勇者候補を探す事にした。
 何故なら、戦国時代や江戸時代初期の剣豪の力と、幕末時代の剣豪の力は、全然違うと考えたからだ。

 戦争が殆ど無かった江戸時代では、実戦など殆ど無い。
 なら、戦国時代の侍の方が強かったと思うかもしれないが、そうではない。
 侍の実戦は、所詮は集団戦。それでは、対人での実力など全く上がらないのだ。
 それに比べて、幕末時代は、道場剣術が隆盛を極め、木刀、竹刀、防具を使った対人練習により、戦国時代や江戸時代初期より、剣術技術が格段に上がっていたのだ。

 そして、ペリー来航で、日本は動乱の時代に突入する。
 それまで、道場だけで切磋琢磨してた侍達が、ついに、実戦で、その腕を試す時が来たのだ。

 侍の剣術技術は、実戦を経て覚醒した。
 江戸時代260年、ひたすら修行だけして技術だけ磨いていたのが、実戦を経て花開いたのだ。

 その中でも、一番レベルが高かったのは、人斬り集団新撰組が居た幕末京都。
 その新撰組を手玉に取り、天才と持て囃されていた沖田総士まで倒したのが、佐藤 塩太郎という男なのである。

 史実では、佐藤 塩太郎が沖田総士を殺したなどと書いてないけど、実際、沖田総士を殺したのは佐藤 塩太郎。それも蹴りで殺したとあっちゃあ、ますます史実では書けない。

 そんなヤバ過ぎる男を、ガブリエルに歴史アドバイザーとして勇者候補をこの世界に連れてくるように依頼された、シロとご主人様のセドリックが、この世界に連れて来てしまったのだ。

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