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107. 子度に対しても容赦ない男
しおりを挟む「団長。こちらの剣王の称号を持つ佐藤 塩太郎殿が、剣聖の称号を掛けて、団長と戦いたいと言っておるのじゃが」
シャンティーとキクが盛り上がってる所、これ以上収拾がつかなくなると面倒だと思ったのか、『鷹の爪』副団長のドワーフのオッサンが、剣聖ハラ・クダシに端折って説明する。
「そうか、久しぶりにハラダ家、ハラ家の者達から称号を奪った者が居たか。しかし、俺と闘うには、せめて剣帝の称号を勝ち取ってからでないとな!」
なんか、よく分からんが少し上目目線で、剣聖ハラ・クダシが塩太郎に言ってくる。
シャンティーに、負けた負けたと言われて、少しプライドが傷付いていたのかもしれない。
まあ、ハラダ・ハナに僅か10歳の時に、剣神の称号を奪われてしまったのが相当トラウマで、これ以上称号を落としたくないだけかもしれないけど。
「剣帝の称号を奪いたかったのは、やまやまなんだが、ちょっと事情があってな。ベルゼブブを倒すまで、ハラダ家、ハラ家の者に手が出せねーんだよ!」
塩太郎は、剣呑な雰囲気を漂わせ、ハラ・クダシに話す。
「事情は、よく分からんが、お前さん。中々やるようだな」
ハラ・クダシも、塩太郎が醸し出す剣呑な空気に答えるように、体から殺気を漲らす。
「ちょっと待った! 称号戦はお祭りじゃぞ!
この階層のフロアーボスを倒して、そこの階段フロアーで称号戦をやる事に決まっとるのじゃ!
他のダンジョンに遠征してる2軍の連中も観たいじゃろうし、団長、勝手な事をしてもらっちゃ困りますぞ!」
火花バチバチで、今にも戦いそうになってた所を、ドワーフのオッサンが慌てて止めにはいる。
「ちっ! 大世帯だと面倒さいな……」
どうやら、ハラ・クダシはただのバトルジャンキーで、冒険者パーティーの運営とかは、副団長のドワーフのオッサンに任せっきりのようである。
「それでは急ぎましょうぞ!」
ドワーフのオッサンは、先頭を歩き出す。
まあ、盾職なので、これが本来の『鷹の爪』の一軍フォーメーションなのだろう。
今回の遠征は、どうやら団長の娘ハラ・キクの特訓であったようだ。
「ねえ、おじさんって、本物のお侍様なの?」
フロアーボス部屋に向かう道すがら、ハラ・キクが興味津々で、塩太郎に並走して話し掛けてくる。
「ああ! 俺は毛利様に仕える長州男児 佐藤 塩太郎てんだ!
お前らの祖先の薩摩とは違って、本物の侍だぞ!」
塩太郎は、ぶっきらぼーに答える。
「長州? 薩摩?」
ハラ・キクは、首を捻る。
「チッ! 長州、薩摩も知らねーのかよ!」
塩太郎は、子供の話にも関わらず舌打ちを打つ。
例え子供であっても、にっくき薩摩の末裔なんかと喋りたくないのだ。
「仕方が無いんです!我ら一族が、この世界に転移して来たのは1000年以上前なんです!
祖先の故郷の事など、殆ど伝わっておりません。
唯一、伝承されてきたのは、ジゲン流の剣術のみ。それ以外は、何もないのですから……。
なので知りたいんです!祖先の暮らしてた日本を、そして、本物の侍という者を!」
ハラ・キクは、塩太郎が嫌そうな態度で接してるというのに、遠慮なく話し掛けてくる。
「チッ! いいか、よく聞け。俺の居た世界では、長州と薩摩は敵同士なんだよ。
そして、ずる賢い薩摩の奴らに、俺の仲間は何百人も殺されてんだよ!
俺だって、薩摩の奴らに殺されて、この世界に転移させられてんだ!
誰が、薩摩の奴等と仲良くできるってんだよ!」
塩太郎は、ハラ・キクを睨みつけて、突き放すように言い放つ。
「侍は……私達は、ずる賢くなんか有りません!」
「ああ。そうだぜ。侍はずる賢くはないぜ。だが、薩摩の奴らは、ずる賢いんだよ。
尊皇攘夷やってるフリして、裏切りやがった。徳川に味方して、俺達長州藩の侍を、何百人も殺したんだよ!」
「私達の祖先が、裏切り者の筈が有りません!
私達は祖先に、犠牲、礼儀、質素、倹約、信義、尚武、名誉などを重んじるようにと、教えられ、代々、その教えを守ってきました!それを守る事こそが、侍の務めだと!
それなのに、私達の祖先が、裏切りなどどいう卑怯な事を絶対にする筈ないです!」
ハラ・キクは、裏切り者と言われるのが、よっぽど癪に触ったのか、ムキになって塩太郎に言い返す。
「フン。何を言ってやがる。薩摩は風見鶏だろうが。すぐに、得な方に靡くんだよ!
まあ、下っ端の侍というより、島津の殿様が靡いてるだけだったかもしれねえがな。
だけれどもよ! 俺達、長州の人間が、裏切り者の薩摩に、何百人も殺された事実は変わらねえ!
例え、アホな主君の命令であったとしてもな!」
塩太郎は、子供の戯言だというのに、容赦なく、幕末京都で人斬りとして暗躍してた頃の、鋭利な殺気を漲らせる。
「クッ!」
ハラ・キクは、今迄感じた事のない、幕末最強の人斬りと言われた佐藤 塩太郎の本気の殺気をモロに受け、一瞬よろけてしまう。
そして、全てを察し、もうこれ以上、塩太郎に話し掛けるのは止めるのだった。
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