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101. 驚愕する若い冒険者
しおりを挟むムササビ自治国家の首都モモンガにある冒険者ギルド本部は、九尾の狼ブリジアが経営するウルフデパートの隣にある。
冒険者ギルド本部は、冒険者の国であるムササビ自治国家の運営も担っており、兎に角、とてもデカい。
見た目は、ベルサイユ宮殿のまんま。ベルサイユ宮殿と同じような庭園が広がっており、その奥にバロック様式の宮殿が建っている。
中身は、ベルサイユ宮殿風だが、結構違ったりもする。
それは、この世界に転移してきた地球出身者達が、誰もバルサイユ宮殿に、直接行った者がなく、想像で建てられているから。
まあ、当時の冒険者ギルド本部の建築に関わってた異世界転移者の一人が、城と言ったら、やっぱりベルサイユ宮殿じゃね?
と言ったのが、たまたま採用されて、まんまベルサイユ宮殿の形になったとか。
だけれども、中身の詳しい感じとかは、誰も行った事が無かったので、結構、適当になってしまったというオチ付きである。
「す……すんげーぜ! 月夜の海面に浮かぶ、萩の指月城も格好良いけど、デカさが全然違うぜ……。まあ、毛利様は外様だから、デカい城建てられなくて、防御が難しい海沿いにしか城を建てられなかったのだけど、だけれども、これは京都の二条城や、江戸城より大きいんじゃねーのか……」
塩太郎は、その圧倒的な広さと、建物の豪華さに尻込みする。
「アンタ、何言ってんのよ?この冒険者ギルド本部は、アンタの居た世界の宮殿をパクってデザインしたと聞いてるわよ?
どうしてアンタが、この建物見て、ビビってる訳?」
なんか、シャンティーがいつも通り、幕末出身で無知の塩太郎に呆れている。
「嘘だろ? もしかして、これって伴天連の建物なのかよ!
確かに、高杉と一緒に長崎行った時に、こんな形の建物を見た気がするけど、全然、スケールがちげーし!
というか、建物まで何キロ有るんだよ!
これはちょっと、遠すぎるだろ!」
塩太郎は、庭園の奥にちっちゃく見える宮殿を、目を細めて見る。
「これが、冒険者ギルド本部名物、新人殺しの庭よ!
冒険者ギルド本部は、ムササビ自治国家の国会議事堂も兼ねてるから、警備の観点から、夜0時で、一旦閉まるの。そして、朝5時に始まるから、開門と同時に、新しい依頼を求めて、新人、中堅冒険者達による熾烈な競走が起きるのよ!」
何故か、シャンティーが、ドヤ顔で説明する。
「正門から宮殿まで、結構、距離があるもんな……」
そう、日本人的感覚により、庭園は建物の前にあった方が良いだろ!て事により、何故か、ベルサイユ宮殿では裏側にある庭園を、正面に持ってきてしまっていたのだ。
その為、正門から宮殿までの距離は、およそ3キロ。
新人冒険者達は、まずこのマラソンに打ち勝って、冒険者ギルドの掲示板に張り出されている、所謂、わりの良い依頼を勝ち取らなければならないのである!
「これって、ショートカットとか、出来ないのかよ?」
塩太郎は、何気に質問する。
「有るわよ! 正門横の小屋の中に、移転魔法陣が無料で置いてあるわよ。
但し、起動させるのには膨大な魔力が必要ね!
ダンジョンの階段フロアーの中にあるのと一緒のものなのだけど、ここは、ダンジョンじゃないから、大気中の魔力が少なすぎて起動しないのよね!
なので、起動させるには、自らの魔力を使うか魔石を使うしかないの。
因みに、その魔石もSSSSS級の魔物から取れる魔石でしか起動しないわね!
価格は、およそ、100万マーブル。正門前の売店にも売ってるわよ! とってもお買い得よね」
「ぼったくりじゃねーかよ!」
「安いじゃない!たった100万マーブルで、ショートカットできるのよ!」
シャンティーは、何事でもないように言う。
「て、ちょっと、まさか、移転魔法陣を使うのかよ?」
「当たり前じゃない? 私達は、名門『犬の肉球』なのよ?そのメンバーが、いちいち他の二流、三流冒険者達と同じように、3キロの道を歩く訳ないじゃないの?」
「だけれど、俺、お小遣い1万マーブルしかもってねーぞ……」
そう。塩太郎の財布の中には、いつも1万マーブルしかないのである。
どれだけ使っても、直ぐに補充されるのだが、それは、1万マーブル以上のものを買えない事を意味するのである。
「大丈夫よ! 私が奢ってあげるから!」
「う……嘘だろ……金に、がめつい腹黒シャンティーが、俺に金を奢るだと……」
塩太郎は驚愕する。
シャンティーとは短い付き合いだが、そのがめつさは、身をもって分かっているのだ。
最初は、メッチャお得と思ってた、いつでもお財布1万マーブル制が、実は、塩太郎にお金を全く使わせない為の作戦だと気付いた時に。
「アンタ一体、私をなんだと思ってんのよ!
私は、アンタの為を思ってお金を管理してあげてんの!
どうせアンタも、冒険者によく居る、宵越しの金は持たないって、タイプなんでしょ!
だから、いざお金が居る時に、無いと困ると思って、私が管理してあげてるんじゃないの!」
シャンティーは、塩太郎の言葉に逆ギレする。
「確かに、俺は宵越しの金を持たないタイプだが、それは人斬り稼業をやってたからで、いつ死ぬか分かんなかったから、金なんか貯めててもしょーがねーと思ってただけだぞ!」
塩太郎は、一応、宵越しの金を持たない理由を説明する。
「なんでもいいわよ! 兎に角、私達は名門『犬の肉球』なんだから、移転魔法陣を使って優雅に冒険者ギルド本部の屋内に行くの!
分かったわね!」
「まあ、奢ってくれるならいいけど、あまり感心できる金の使い方じゃねーよな?
見る限り、誰も移転魔法陣使ってなさそうだし」
そう、移転魔法陣が有るという小屋には、誰も居ないというか、近づきさえしないのだ。
というか、窓枠に蜘蛛の巣張ってるし……。
多分、何年?いや、何十年?何百年使われてないように思われる。
「アンタ、レディに扉を開けさせる気?」
シャンティーが、移転魔法陣の小屋の前まで来ると、塩太郎に命令する。
「レディって……お前、結構、ババアだろ?というか、この扉、鍵も閉めてないのかよ?」
「誰でも自由に使える装置に、鍵なんか掛かってる筈ないでしょ!」
「左様で……」
塩太郎は、扉に手を掛ける。
ギギギギギギーー!
誰も使って無かった為か、移転魔法陣の扉が不快な音を発する。
「何だ?何だ? 誰か移転魔法陣使うのかよ!」
結構、大きな音がしたためか、冒険者ギルド本部に行き交う冒険者達に、注目を浴びてしまう。
「おおーー! 嘘だろ? なんかちっちゃい妖精を先頭に、移転魔法陣の小屋の中に入ってく集団がいるぞ!」
「俺、冒険者になって以来、あの小屋に入って行く奴らなんて、初めて見たぜ!」
「ん? アレは腹黒シャンティーじゃな。久しぶりに見たわい。というか、昔から『犬の肉球』は、移転魔法陣を使っておったぞい」
長寿種のドワーフが、『犬の肉球』を知ってたのか、訳知り顔で説明する。
「『犬の肉球』って、最近、剣王と拳王を同時に取った奴が居る、『犬の尻尾』のパチモンの新進気鋭の冒険者パーティーじゃなかったか?」
「しーっ! バカ! そんな事、腹黒シャンティーに聞こえちまったら、お前さん、ミンチにされちまうぞ!
お前らは、まだ若いので知らんかもしれんが、『犬の肉球』が本来は、本物で、『犬の尻尾』の方が、パチモンなんじゃ!
しかも、儂は、シャンティーが、あのサディスティックサイコニャン娘のブリトニーをボコボコにして、シメてた所を目撃した事があるんじゃ!」
長寿種のドワーフが、またまた、知ったかを披露する。
「嘘だろ!? あのチ○コスライスのイカレニャン娘をボコボコにできる奴なんか、居る訳ないだろ!」
若い冒険者は、全く信じてない。
それほど、サディスティックサイコニャン娘ブリトニー・ゴトウ・ロマンチックは、冒険者の間、特に巨根の男性冒険者に恐れられているのである。
「それが、まだ、『犬の尻尾』が有名じゃない時に、腹黒シャンティーは、ブリトニーを生意気だと言って、ボコッたんじゃ……」
「う……嘘だろ……メッチャやべぇじゃねーか……あのちっこい妖精……」
若い冒険者達は、驚愕する。
だって、どう見ても、可愛らしい妖精にしか見えないし。
「ああ。ブリトニーが有名になる前は、『犬の肉球』の腹黒シャンティーにだけは、絶対に関わっちゃならねえ。と、冒険者の間で有名じゃたんじゃ!
まあ、300年以上も前の話だから、今の若いもんは、誰も知らねーけどな……」
「サイコニャン娘のブリトニーをぶっ飛ばすような奴を、誰も知らないって、ヤバいだろ……」
若い冒険者達は、引きつった青い顔をする。
「ああ。誰も被害に遭わない事を、祈るしかねーわな」
ドワーフの爺さんは、とても深刻な顔をして、若い冒険者に答えたのだった。
ーーー
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