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94. やると決めたらやる男
しおりを挟む「ちょっとアンタ、今、聞き捨てならない言葉が、聞こえた気がしたのだけど?」
口うるさい魔法使いの女が、後ろから塩太郎の肩を掴む。
「は? 何の事だ?」
塩太郎は、しらを切る。
「ハナさんと、スエキチ殿を斬ると聞こえたわ!」
「そんな事、言ってねー。俺は、ハナとスエキチ爺さんの命で晴らすと言っただけだ!」
「同じ事じゃない?」
「お前にゃ、どうでもいい話だろ? これは俺と奴らの話なんだよ!」
「アンタとハナさん達の話って、さっきまで仲良くお話してたじゃない?」
「まあ、ハナとか個人的には好きだが、だけれども奴らは薩摩藩士の末裔だ!
薩摩の奴らは、俺が所属していた長州藩の仇なんだよ!
ハラダ家、ハラ家の仇が、異界の悪魔の猿型のナスのようにな!」
「サル型のナスって……私は、真剣に話してるのだけど?」
口うるさい魔法使いの女が、憮然な態度を取る。
「俺だって真剣だい! 兎に角、俺にとっては、薩摩の奴らは不倶戴天の敵なんだよ!
見つけたら、即仇討ち! これは侍の常識ってもんだ!
お前、忠臣蔵見てねーのかよ!」
「異世界の事なんか、分かんないわよ!」
口うるさい魔法使いの女が、イラつきながら反論する。
「忠臣蔵とはな、大石内蔵助率いる赤穂浪人47人が、主人の敵討ちをする物語で、侍なら、誰でも憧れる物語なんだよ!
まあ、侍だけじゃなくて、日本人なら、誰でも好きな歌舞伎の題目だな!」
「そんな話、どうでもいい! 兎に角、ハラダ家、ハラ家の者に手を出すのは私が許さない!
というか、ガブリエル姫様も許さない!」
「それがどうしたよ? 俺がガブリエルの名前を聞いたらビビるとも思ってんのか?
俺は、死にたがりで有名な長州藩士だぜ?
死ぬ事になんか、全然、ビビってなんかいねーよ!
それより、薩摩の奴らが、俺の前で息を吸って、のうのうと生きてる事が許せねー!
俺の仲間が、何人、薩摩の裏切りのせいで殺されたと思ってんだ?」
塩太郎は、口うるさい魔法使いを手で跳ね除け、そのままハナやスエキチ爺さんの居る場所に向かおうとする。
「だから、アンタには行かせないって!」
口うるさい魔法使いは、もう一度、背後から、塩太郎の肩を強く掴む。
「これは、俺自身の問題だ。邪魔すんじゃねーよ」
塩太郎は、京都最強の人斬り時代の頃のような、本気の殺気を口うるさい魔法使いの女に躊躇無く発する。
それと同時に、塩太郎の近くにいた『犬の尻尾Dチーム』と、口うるさい魔法使いの女含めて、全員、口から泡を吹いて気絶する。
「本当に、シャンティーも含めて、口うるさい女は、うぜーよな……」
塩太郎は、ブツブツ言いながら、ハナやスエキチ爺さん達が、異界の悪魔サルガタナスと戦ってる戦場に向かうのだった。
そして、その途中で、
「アンタ、一体、何してんのよ!『犬の尻尾』は敵だけど、一応、今回は共闘してるのよ!」
本家の口うるさい妖精シャンティーが、『犬の尻尾Dチーム』を気絶させた事を注意してきた。
「敵だったら、いいだろうが! ハラダ家、ハラ家の奴らが、俺の元居た世界で敵だった奴らと判明したんだよ!」
「えっ?! そうなの?」
シャンティーは、ちょっと驚いている。
どうやら、同じ侍同士だから、仲が良いと思ってたようだ。
「そうだよ! 俺は、そいつらと戦ってる最中に死んじまって、この世界に転移させられたっちゅーの!」
塩太郎は、時間が惜しい事もあり、メチャクチャ端折って説明する。
「それは、大変だったわね……だけれども、ハナを殺しちゃったら、例えアンタでも、ガブリエルに殺されちゃうわよ?」
「それがどうしたよ?」
「それはどうでも良いけど、せめて、異界の悪魔ベルゼブブの殺してからにして欲しいのだけど?」
やはり、シャンティーはシャンティーだった。塩太郎の事情など どうで良く、最終的には、自分の野望の為に動いてるのである。
「うっせーやい! ここで薩摩の奴らを見つけたんならすぐに殺すのが、死んだ仲間の花向けってもんだろ!
ここで逃がしたら、死んでも死にきれねーんだよ。
それに、ガブリエルが絡んで来たら、絶対に、ハナ達を殺すチャンスが無くなるじゃねーかよ!」
そう。塩太郎的にも考えてるのだ。
今日を逃すと、ハナやスエキチを殺すチャンスは、無くなってしまう。
塩太郎が、薩摩の末裔のハナやスエキチ爺さんを恨んでいるのは、『犬の尻尾Dチーム』の奴らに、知られてしまっているのである。
その事を、ガブリエルが知ったら、絶対に、塩太郎とハラダ家、ハラ家の者達がぶつからないようにするのが、目に見えているのだ。
「だけど、私との約束は、どうなるのよ!
アンタ、ベルゼブブを殺してくれるって、私と約束したじゃないの!
今、ハナを殺したら、こちら側の戦力が減るという事を分かってるのかしら?」
「だから!ハナや、ハラダ家、ハラ家の奴らを皆殺しにした後に、ベルゼブブも、俺が殺してやんよ!」
「無理でしょ……」
「無理でもやる!」
「アンタ、バカでしょ……」
「長州男児は、無理と分かってる事をやる事に、心が震えるんだよ!」
この時代の長州男児は、吉田松陰の辞世の句のような生き様を、皆、目指しているのである。
「それって、無駄死にする事と、同義じゃないの?」
「それがどうした! やると決めたら、絶対、俺はやるんだよ!」
塩太郎は、最早、お子様のようにタダを捏ねる。
「ハイハイ! 分かりましたよ! そしたら好きにしなさい!」
「エッ!? いいのかよ?」
「だって、私がどれだけ言っても殺るんでしょ?」
「それはそうだけど」
「だったら、殺りなさいな! だけれども、私との約束は、絶対に成し遂げてもらうからね!
何度死んでも、エリスポーションで生き返らせて、ベルゼブブを倒すまで戦わせてあげるんだから!」
「おお! 何度でも、チャレンジしてやるよ!」
塩太郎は、シャンティーに誓いを立てる。
「アンタって、本当に、馬鹿よね……」
「おお! なんてたって、俺は死にたがりで有名な長州男児だからな!
目的を成し遂げる為だったたら、何度でも死んでやんぜ!」
「勿論、生き返らせた時に使うエリスポーションは、100倍の金額取るけど、分かってるかしら?」
「そんぐらい分かってるぜ! だって、お前は、腹黒シャンティーだろ!」
「本当に、アンタって、口が悪い男よね……」
「お前もだろーが!」
「ああーー!うっさい! とっととハナ達を殺してらっしゃい!
その後、ガブリエル達に狙われる事となると思うけど、その時は、その時よ!
『犬の肉球』の天才軍師の、このシャンティー様が、何とかアンタを守ってあげるからね!」
「お前も、結構、義理堅いよな」
塩太郎はニヤリと笑い、フワフワ飛んでいるシャンティーの顔を覗き込む。
「五月蝿い! ただ、私は、ガブリエルが嫌いなだけよ!」
シャンティーは、プン!と口を膨らまし、恥ずかしさを誤魔化す為か、塩太郎から顔を背ける。
こんな軽口を叩きつつ、シャンティーの後押しも加わって、塩太郎は、決戦に向かったのだった。
そう、塩太郎が倒すべき敵は、ハナやスエキチ爺さん、ハラダ家、ハラ家の者達だけではない。
示現流を極めし異界の悪魔 サルガタナスも、塩太郎が倒すべき薩摩示現流の敵なのだから。
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