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92. 血が滾る男
しおりを挟む「おりゃー!」
ガキンッ!
塩太郎は、示現流の初撃を貰うと面倒なので、自分から斬り掛かる。
だけれども、相手も示現流の達人らしく、刀で受け止められる。
「やはりやるな」
「プシュー!」
そのまま、鍔迫り合いの押し合い。
塩太郎も、闘気を使ってるのだが、やはり、相手の押しも重い。今迄の、赤や紫色のタコ侍とは違うようだ。
使い込まれて真っ黒になったナニと同じように。
「やはり、黒いだけの実力はあるな!」
「ブシュー!」
塩太郎は、そのまま刀を押す力を利用して、後ろに飛び距離を取る。
「オイオイ、そう言えば、2匹居るんだから、2匹同時に掛かってきてもいいんだぞ?」
塩太郎は、もう1匹の静観してるタコ侍キングを挑発する。
「プシュー!」
どうやら、真剣勝負をしてる所に割り込むような無粋な事などしないと言ってるようである。
まあ、言葉が分からないので、想像なんだけど。
というか、『プシュー!』の短さで、それだけの言葉を話してないのは、確かなんだけどね。
そして、距離を取ると、相対するタコ侍は上段の蜻蛉の構えを取るのだ。
「本当に、示現流の奴らと死合いするのは面倒くせーな……」
塩太郎も、自分が一番得意な居合の構えをとる。
「分かってるか知らんけど、1対1の戦いで、俺がこの構えを取った時点で、この世に生き残ってる奴は居ねーぞ」
そう、塩太郎が権謀術数蔓延る幕末京都での仕事は、暗殺。失敗は、そのまま死を意味する。
何故なら、塩太郎が請け負う仕事は、無理と思われる暗殺ばかり。護衛が10人とか居たりするような。
そして、どんな場合でも、一番の暗殺対象を、居合い斬りで必殺するのだ。
その後は、そのまま護衛を皆殺しにしたり、逃げるだけ。
「とっとと斬り掛かって来いよ! それがお前が死ぬ時だけどな」
しかしながら、タコ侍キングは一歩も動けない。
塩太郎ほどの達人の本気の覇気は、周りの空気を重くしてしまうのだ。
「プギィィーー!!」
目を、カッ!と見開いタコ侍キングが、塩太郎に相対して飛び掛る。
しかし、その瞬間、
塩太郎の腰から放たれた木刀は、タコ侍キングのガラ空きの胴を、スパンッ!と、真っ二つに斬り裂く。
しかし、タコ侍キングの刀は止まらない。
何故なら、示現流の初撃は、一撃必殺の技なのだ。
そのまま何事も無かったように、塩太郎の脳天目掛けて振り落とされる。
「フン! 遅いっちゅーの!」
塩太郎は、タコ侍キングの胴を斬り裂いた勢いのまま、木刀の血糊を払い、そのまま木刀で頭を防御する。
タコ侍キングの刀は塩太郎の脳天目掛けて振り落とされたが、既に、タコ侍キングの上半身と下半身は繋がっていない。
塩太郎が防御の為に突き出した木刀の腹に刀がヒットするのと、タコ侍キングの下半身と上半身が離れ、そのまま上半身だけ塩太郎の後ろに前宙するように飛んでいってしまった。
「フン! ヤッパリ侍としての技量は、俺の方が上だな。というか、対人との戦いになれてないのか?」
塩太郎は、冷静に分析する。
多分、この世界の奴らは、魔物も含めて対人戦に慣れていない。
大体、人 対魔物、魔物 対魔物ばかりの戦いしかしないので、人対人の緻密な駆け引きが居る戦いを、殆ど、した事が無いと思われる。
その点、塩太郎の剣は、対人特化。
幕末時代の剣術は、剣術道場隆盛で、人対人の対人の練習しか、殆どしてなかったしね。
「1対1の剣術のみでの戦いじゃ、俺には絶対に勝てんよ。だって、1対1の剣術の死合いで負けた事ねーし!
魔法とかの絡み手使わないと、俺には絶対に勝てねーよ!
伊達に、日本で一番、暗殺や人斬りが蔓延り、剣術自慢の実力者が集まる京都で生き残ってねーんだよ!
まあ、蛤御門の変では死んじゃったんだけど、アレは1対1じゃなかったし……兎に角、1対1の対人じゃ負けた事ねーんだよ!」
塩太郎は、デン!と胸を張る。
そして、そのままの勢いで、ついでに、もう1匹のタコ侍キングを叩き斬る。
「戦いの最中に、ボケッとするんじゃねーよ!どんだけ、平和ボケしてやがんだ?
俺は、京都最強の人斬りだぜ?俺の前で隙なんて作っちまったら、それは死を意味するって事だ」
塩太郎は、日本で死ぬ直前まで命の取り合いをしていたバリバリの現役。
そして、塩太郎が倒したタコ侍キングは、多分、20年位は、戦いから遠ざかってると思われる。
スエキチやハナの話から想像すると、一番直近のベルゼブブ討伐レイドは、20年前ぐらいに行われたと思われるからだ。
「ちょっと血が滾るな……久しぶりに示現流の奴らと戦ったからか……」
塩太郎の興奮は冷めやまない。
まだ、すぐ隣で、『犬の尻尾Dチーム』の奴らが、残りのタコ侍キングと戦っている。
「どきやがれ! 薩摩示現流の奴らは、俺の獲物だ!俺が、木っ端微塵に叩き斬ってやる!」
塩太郎は、京都で最強の人斬りと恐れられていた頃の剣呑な殺気を漂わせ、そのまま戦いの中に飛び込むのだった。
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