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84. モテ期の男
しおりを挟む「もうそろそろ行きたいのじゃが……」
シャンテーの語りを聞いていたスエキチ爺さんが、急かしてくる。
のんびりと話してる間に、サルガタナスに逃げられてしまったら元も子もないのである。
「そうね。行きましょう」
どうやら、シャンテーもサルガタナス討伐に付いてくるようである。
「あの……分かってると思うのじゃが、サルガタナスの討伐は、ワシらハラダ家、ハラ家の者にやらして欲しいのじゃが……」
スエキチ爺さんが、とても気を使いながら聞いてくる。
スエキチ爺さんほどのジジイなら、腹黒シャンテーの腹黒さをよく分かっているので、慎重に話しかけているようだ。
「アンタ達だけが、サルガタナスに因縁がある訳じゃないけど、分かったわよ。
アンタ達の一族は、サルガタナスにたくさん殺されてるもんね!
でも、私達も付いて行くわよ!エリスが来れば、サルガタナスも逃げないと思うから」
どうやら、シャンティーも考えてるようだ。
「それは助かりますじゃ」
スエキチ爺さんは、頭を下げた。
「それじゃあ、行くわよ!アンタ、とっとと案内して!」
話が決まると、シャンティーは案内役のハラ家の侍を急かす。
「承知しました!」
ハラ家の侍は、本当にハロハロ城塞都市から歩いて10分程の場所にある、サルガタナスが居るという未攻略ダンジョンに案内した。
「こんなに近かったのかよ!」
「はい! なので、ハロハロに最初に連絡出来たのです。
じゃなければ、ガブリエル様達に連絡しなければなりませんでしたし……」
どうやら、ハラ家の侍は、異界の悪魔サルガタナスと、自分達一族の因縁を断ち切る為に、わざとガブリエル達に連絡してなかったようである。
「でかした。姫様に連絡してしまったら、姫様自ら出て来て、サルガタナスを殺してしまうでな。我らの悲願は、ハラダ家、ハラ家の者だけで、同じ流派を操るサルガタナスを殺す事。
姫様であっても、決して我らの仇討ちを汚される訳にはイカンのじゃ!」
スエキチ爺さんは、ギュッと拳を握りしめてフルフルしている。
「で、『犬の尻尾Dチーム』の陣容は、どうなってるのよ?」
シャンティーは、勝手に打ち震えているスエキチ爺さんを無視して、ハラ家の侍に質問する。
「『犬の尻尾Dチーム』の陣容は、アタッカーが私を含めて4人のハラダ家、ハラ家の侍で構成されてます。それに盾役が2人に、魔術師が2人、回復役が2人の計10編成になっております」
「まあまあ、バランスはいいわね」
シャンティーは、話を聞いて何かを考えている。
「あの、それでは、冒険者ブレスレットを貸して欲しいのですが……」
ハラ家の侍は、時間が惜しいと思ったのか、シャンティーが考えてる間に、この作戦の参加者の冒険者ブレスレットを集めだす。
何故、冒険者ブレスレットを集めるかというと、冒険者ブレスレットに移転する階層を記憶させる為である。
冒険者ブレスレットには、訪れた事のあるダンジョンの階段フロアーに、自由に行き来する機能があるので、その機能を利用するのだ。
最初に、ハラ家の侍が、みんなの冒険者ブレスレットを持って、行きたい階段フロアーに転移し、その記憶を冒険者ブレスレットに覚えさせれば、あら不思議、行った事ない階層にも簡単に行けてしまうのである。
「戻りました!」
1分も掛からず、ハラ家の侍は戻って来て、回収していた冒険者ブレスレットを、それぞれの持ち主に返していく。
「それじゃあ、行くわよ! というか、何階層に行くんだっけ?」
もう既に、作戦を考えたであろうシャンテーが仕切り出す。
「132階層です!」
ハラ家の侍が答える。
「塩太郎、アンタ分かってる? 132階層と頭で唱えながら、階段を下るのよ!」
シャンテーが、母親みたいに言ってくる。
「分かってんよ!」
ちょっとイラッとして、塩太郎はシャンテーに言い返す。
「あの……塩太郎殿、宜しかったら、手を繋いで私と階段を下りましょうか……手を繋いで階段を下れば、一人だけ普通に2階層に下ってしまうという事は無くなりますので……」
ハナが、良かれと思ってか、お手手繋いで一緒に階段を下ろうと提案してくる。
「ハナさんよ……お前まで、俺の事を舐めてんかよ?」
「いえいえ、私は、ただ、塩太郎殿と手を繋ぎたいじゃなくて、
まだ、塩太郎殿はこの世界に来たばかりなので、この世界の常識というか、理をよく分かってないのかな……と、思いまして……」
ハナは、しどろもどろになって、塩太郎に言い訳する。
「俺、年下の奴に舐められるの嫌なタイプなんだけど……」
「舐めてないです! どっちかというと、お慕い申しております!」
ハナは、ただ塩太郎と手が繋ぎたかっただけなのだ。
そう。ハナは元々、現役侍である塩太郎に興味があって、今日、道場で、抜き身の刀のような覇気というか、闘気を発する塩太郎を間近で見て、憧れを通り越して惚れてしまっていたのである。
「そうね!塩太郎は、ハナに手を繋いで貰ってた方がいいわね!」
なんか知らないが、シャンテーがニヤニヤしながら、塩太郎に言ってくる。
「何で、俺が、こんなチンチクリンと手を繋がなきゃならんのだ!」
「そしたら、エリスと手を繋ぐ?」
「いや……それは……」
塩太郎は、エリスがとても苦手なのである。
絶対に、塩太郎から3メートル離れた背後に、ストーカーのように付いて来ていて、目が合うと顔を真っ赤にさせて、シャンテーの後ろに隠れるのである。
サッカーボールほどの大きさである、シャンテーでは隠れられないというのに……。
せめて、会話が出来ればいいのだが、いつもモジモジして、マトモに会話もできないし……。
「じゃあ、ハナと手を繋ぎなさいな!
アンタが転移失敗するのは勝手だけど、時間も無いから、転移失敗したらそのまま置いていくからね!」
「それは……」
「それが嫌なら、ハナと手を繋ぐ事ね!」
「チッ! 分かったよ! コイツと手を繋げばいいんだよな?」
「コイツじゃないです……ハナと呼んでくださいませ……」
ハナは、顔を真っ赤にさせて言ってくる。
「お…おお……」
グイグイ来るハナに、塩太郎は押され気味。
「前から思ってたけど、アンタ、以外にモテるわよね?そんなに格好良くないのに」
なんか、シャンテーがとても無礼な事を言ってくる。
まあ、確かに、塩太郎は異世界に来てから、何故かモテる。
それは、エリスの場合は、エルフ族が地球人に惚れてしまうという種族的なものだったり、
虎子の場合は、日本刀が好き過ぎて、日本刀を扱う本物の侍の塩太郎に、ついでに惚れただけだったり、
ハナの場合も、虎子と同じ理由で、塩太郎が本物の現役侍だから惚れただけなのだ。
塩太郎には悪いが、見た目とか性格で惚れられてる訳ではなく、塩太郎が地球人だから、侍だから惚れられてるだけだったりする。
因みに、たまたま、塩太郎に惚れる要素がある、この3人に会えたのは奇跡的で、
これ以上は、誰にもモテない事が確定しているとは、塩太郎も含めて誰も分からない事であった。
応援ありがとうございます!
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