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75. 気落ちしてる男
しおりを挟む「塩太郎さん!塩太郎さん! 持ってきましたよ!」
虎子が店の奥から、村正の他にも、何本か、どう見ても業物の刀を肩に担いで持ってきた。
「オイオイ……お前、なんか凄いの持って来たな……」
塩太郎は、まさか、村正以外の刀も持ってくると思わなかったので唖然とする。
「やっぱり、凄いと分かっちゃいます!
この子達は、今、僕が持ってる中で最高の日本刀レプリカです!
因みに、これは、白蜘蛛中期の作品ですね!
5億マーブルくらいしましたけど、奮発して買っちゃいました!
そして、こちらは僕の師匠のドン・ドラニエルの作品です!
亡くなられた時に、形見分けで頂いたものです!
売れば、3億マーブルは固いですね!
それから、こっちが、明日にもドワーフ王国直営店に卸そうと思ってた、僕の新作ですね!
多分、2億マーブルはゲットできる筈です!」
「ス……スゲーな……」
そう、虎子が無造作に持って来た日本刀レプリカだけで、10億マーブル。
それに村正まで合わせれば、トンデモないお金になってしまう。
「全然、凄くないですよ! 凄いのは白蜘蛛様が手を加えて聖剣にした、村正だけです!
僕の持ってる白蜘蛛中期の作品の何万倍も進化しちゃってるんですよ!
本当に、白蜘蛛様は神ですよね!」
虎子は、村正に頬擦りする。
というか、相当の白蜘蛛マニアだ。
「そ……そうだな……」
塩太郎は、引き気味に返事をした。
「ところで、知ってました? 白蜘蛛様って、このハラハラ城塞都市の冒険者ギルドで冒険者登録してたんですよ!
しかも、白蜘蛛様が所属していた冒険者パーティー『白鯨』は、活動期間わずか半年で、冒険者ギルドランキングトップ10入を果たした伝説の冒険者パーティーなんですよ!
僕、それを聞いて、活動拠点をモフウフ地下王宮のドワーフ移住区から、実家のあるハラハラに越して来たんです!」
「そ…そうなんだ……」
虎子の白蜘蛛語りが熱い。
だけれども、現在の塩太郎は、気落ちした状態。いつもなら軽くあしらう所だが、思わず聞き入ってしまう。
「やっぱり、趣味が合う人と話すのは楽しいですね!
塩太郎さん、聞き上手だから、思わずマニアックな事まで話してしまいました!」
「そ……そうか?」
何度も言うが、塩太郎は現在、自信喪失状態。
大震災の後とか、世界的なパンデミックが起こると、無性に人肌恋しくなるのと同じ状態に陥ってしまっているのだ。
「アッ! すいません! 僕の話ばかりしてしまって!
そう言えば、塩太郎さんに無礼を働いた武器屋の店主をギャフン!と、言わせに行くんでしたね!」
「まあ、そうだな」
「そしたら、この日本刀レプリカを全部装備して下さい!
両腰に二振り、背中に二振り!
これだけの神級の大業物三振りと、伝説の聖剣一振を持ってる人なんて、世界広しと、塩太郎さんしかいませんよ!」
「ん? 村正は俺のだが、後の三振りは虎子のだろ?」
「嫌だな……塩太郎さん。未来の夫婦なんですから、共同所有みたいなものでしょ?」
「……」
塩太郎は、思わず押し黙る。
ここは、絶対に否定すべき所なのだが、如何せん、今の塩太郎は普通の状態じゃないのだ。
普段なら、絶対に思わないだろう、1人は寂しい、結婚したい願望が、心の奥底からクツクツと沸いて出てしまっているのだ。
「ね!」
虎子が、塩太郎の腕に、まあまあたわわな胸を押し付け上目遣いで塩太郎に聞いてくる。
「あ…」
塩太郎が思わず、『ああ』と、頷きそうになった瞬間、
「塩太郎! アンタ、いつまで街の中フラフラしてんのよ!
宿屋決まったから、とっとと行くわよ!
て、何で、虎子と一緒にいんのよ!」
シャンティー達『犬の肉球』一行が、塩太郎と虎子の前に現れたのだった。
でもって、カクカクシカシカ、事の成り行きをシャンティー達に説明する。
「完全に、私を舐めてるわね……」
何故か、塩太郎が舐められたのに、シャンティーが舐められた事になってしまっていた。
「ん? お前が舐められた訳じゃねーだろ?」
「黙らっしゃい! 『犬の肉球』のメンバーであるアンタが舐められたという事は、『犬の肉球』の軍師である私が舐められたのと同じ事なのよ!
その、アンタに舐め腐った態度を取った武器屋の店主には、とっても痛い目にあって貰わないといけないわね!」
なんかよく分からないが、シャンティーがとても悪い顔をしてニヤついている。
そう。シャンティーはヤクザと一緒なのだ。
街をふらついては、いつでも金になりそうな火種を探している。
そして今回は、上手いこと身内の塩太郎に、金を持ってそうな獲物?が引っかかってしまったのだ。
そして、またまた、この事件により、『腹黒』の二つ名を持つ、シャンティーの悪名が、再び、南の大陸全土に知れ渡るキッカケになってしまうとは、誰にも気付けない事であった。
まあ、常識人のムネオだけは気付いてたかもしれないけどね。
ーーー
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