職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ

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73. 待ち焦がれる少女

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 ところ変わって、『漆黒の森』の北東の端。
 ムササビ自治国家と『漆黒の森』を結ぶ街道の、『漆黒の森』側の玄関口に位置するハラダ家が領主を務めるハラハラ城塞都市。

 そこに、『漆黒の森』の宰相ナンコー・サンアリからの連絡を受け、佐藤 塩太郎の到着を、今か今かと待ち焦がれる1人の少女が居た。

 名を、ハラダ・ハナ。
 言わずと知れた、剣姫ハラダ・ハナである。

 異世界でのハラダ家の歴史は深く、1000年以上も前に、この異世界に転移させられた異世界人の末裔であり、初代『漆黒の森』の王の剣であり、友であったと伝えられている。

 そんなハラダ家でも、数人しか輩出していない剣姫の称号を持つ少女。
 剣姫とは、剣の神が与えし称号。

 冒険者ギルドが与える、剣神、剣聖、剣帝、剣王とは、格が違う特別な称号なのである。

 しかも、ハラダ・ハナは久し振りに登場した剣姫。

 前の代の剣姫が居たのは、今から350年も前に遡らなければならない。
 因みに、サディスティックサイコにゃん娘のブリトニーの姉、カレン・ロマンチックが、ハラダ・ハナの前の剣姫である。

 そんな剣姫ハラダ・ハナが待ち侘びる人物、それがラストサムライ佐藤 塩太郎であった。

 そう。ハラダ ハナは、本物の侍にとても憧れていたのだ。
 この異世界には、1000年以上も前に異世界転移してきた、ハラダ家と分家のハラ家の侍の末裔しか居ない。そう、所詮は末裔なのだ。

 その後に転移して来た日本人は、平成、令和の所謂、異世界ラノベに毒された腑抜けな日本人ばかり。

 ハラダ ハナ的には、日本人だとは思えない者ばかりだったのだ。

 そんな時に、ガブリエルによって、本物の侍、佐藤 塩太郎が召喚された。

 塩太郎は、ハナが憧れる侍そのもの。
 眼光鋭く、全く隙がない。体中から幾千もの修羅場を潜り抜けて来た猛者だけが持つ、凄みのようなものを漂わせていたのだ。

 しかも塩太郎は、本気で怒ったガブリエルに対しても、一歩も引かなかった。
 本来なら、泡を吹いて気絶してても良い筈なのに、ガブリエルの殺気をいなし、あろう事かガブリエルの提案を拒否して、最初にシャンティーと約束したからという理由で、シャンティーが所属する『犬の肉球』に入ってしまったのだ。

 こんな事、本来なら絶対に起きない。
 何故なら、現在、南の大陸でも、冒険者のなかでも、ガブリエル・ゴトウ・ツゥペシュは絶対的な存在。
 逆らう者など、居ないのである。

 しかしながら塩太郎は、そんなガブリエルに逆らった。

 しかも自信満々に。

 死ぬ事に対して、全く動じない。

 子供の頃から、『武士道と云うは死ぬ事と見付けたり』と、教えられてきたハラダ ハナは、それを地で行く佐藤 塩太郎に衝撃を受けたのだ。

 そして、不覚にも、格好良いと思ってしまったのである。

 そんな訳で、サンアリから、どうやらハロハロに塩太郎達が向かってるという報告を受けてから、居ても立っても居られなくなり、ハロハロの正門の前で、毎日、今か今かと、塩太郎の到着を待ち侘びているのだ。
 到着には、どう考えても、後2日は掛かると言うのに。


 そんなハラダ・ハナの気持ちなど知らない塩太郎達一行は、サンアリと会ってから2日後、ハロハロ城塞都市をスルーして、隣のハラハラ城塞都市に到着していた。

 塩太郎的に見慣れた建物が結構あり、テンションが上がる。
 異世界転移者が結構居るムササビ自治国家も日本に近いのだが、ハラハラの方が塩太郎的に日本ぽく見えるのである。

 まあ、それはムササビ自治国家が近代日本で、ハラハラは江戸時代の日本の街並みに近いから。
 もっと言うと、ハラハラは、西洋の建築様式も少し混じってしまっているから、和洋折衷というか、明治時代の日本に感じが近いかもしれない。

「ここが、ハラハラ城塞都市か! 日本っぽい建物がチラホラ有るな!」

 そんなハラハラ城塞都市に到着すると、早速、塩太郎は、シャンティー達と離れて、街の探索をする事にしたのだ。

 まあ、あまりに日本ぽいので、気になって仕方がなかったのである。

「おっ! 武器屋に、刀がたくさん置いてあるじゃねーか!」

 やはり、塩太郎が気になるのは日本刀。
 この世界には、色々な武器が有るが、塩太郎的に、やはり日本刀が一番だと思っているのだ。

「こいつは、中々。異世界の日本刀も捨てたもんじゃねーな!」

 塩太郎は、気になる刀を手に取り、一振一振、マジマジ見る。
 そんな塩太郎に対して、店主も全く文句を言わない。

 そう、南の大陸では、侍はとても信頼されているのだ。
 侍が間違っても、何百万マーブルもする日本刀をパクったりしないと。

「しかし、ドワーフ王国直営店で見た日本刀と比べてしまうと、やっぱり落ちるな……」

 とか、ブツブツ言いながら物色してると、

「お客さん、中々、見る目ありますな!」

 店主と思われる男が喋りかけてきた。

「分かるのか?」

「そりゃあ、分かりますよ! お客さんが手に持って見たのは、全て、大業物の日本刀レプリカだけですからね!
 そんな事、普通のお侍さんには出来ませんよ!」

 なんかよく分からんが、店主がヨイショしてくる。

「そうか? 俺は、妖気が漂う刀を見てただけなんだがな」

「なるほど。お客さんには、良剣が持つと言われている魔力的なものが分かるという訳ですな!」

「いやいやいや、そんなの普通、誰にも分かるだろ?」

 塩太郎的には、日本の刀屋で、良い日本刀を探す感じで言ったのだが、武器屋の主人はそうは思わなかったらしい。
 日本では、当たり前のように、塩太郎と同じぐらいの刀目利きは五万と居るのだ。

 そして、武器屋の数多ある日本刀の中から、掘り出し物の日本刀を見つけるのが、塩太郎のような下級武士の楽しみの1つであったりする。

 だがしかし、塩太郎は気付いていない。
 塩太郎のように、刀から発する妖気を感じ取って日本刀の目利きをする者など、日本にも数名しか居ない事を。

 そして、その有り得ない目利きにより、大当たりの妖刀 村正を手に入れたという事を、塩太郎自身が分かっていなかったのである。

「やはり、普通は分かりませんよ。流石に、聖級、神級レベルの日本刀レプリカなら、漂う魔力的なものが、ある程度の者なら分かると言われますが、ここにある日本刀レプリカは、上級の中のものが最高です。
 そんな刀の善し悪しなど、余っ程の日本刀レプリカオタクにしか分かりません。
 しかしながらアナタは、中級の刀は全てスルーして、上級の刀しか見ていなかった」

 店主は、塩太郎を褒めちぎる。

「そう言われると、照れるな……」

 褒められて、塩太郎も悪い気がしない。

「で、どうでしょう! この刀など!
 お客様、刀が入り用なのでしょ!」

 店主は、塩太郎が、現在、刀を持っていない事を、抜け目なく見抜いていたようだった。

 確かに、塩太郎は、現在、愛剣 村正を、オイドン・トラデアルにレンタルしているのである。

「俺には、これがあるから大丈夫だ」

 塩太郎は、腰に差してる木刀を左手で触る。

「しかしながら、侍が日本刀レプリカを携帯しない訳にはいきますまい」

「ん? 先程から気になってたんだが、日本刀レプリカって何だ?
 日本刀とは、別のモノなのか?」

 塩太郎は、今までスルーしてたのだが、やたらと日本刀レプリカという言葉が出てきていたので聞いてみる事にした。

「お侍さん……まさか、知らないのですかい?
 日本刀は、この世界に、ハラダ家が所有してる政宗、ただ一振だけしかないという事を?
 まさか、お客様……格好だけのお侍さんなんですかい?」

 先程まで、褒めちぎってくれていた店主が、不審な顔をして塩太郎を見てくる。

「ち……ちがわい! 俺は、正真正銘の侍だ!
 ハラダ家が偽物で、俺が本物! しかも、俺は、本物の日本刀持ってるし!」

「お客さん。からかわないで下さいよ!
 本物の日本刀とは、それは、この世界では聖剣を意味するんですよ!
 聖剣など、今は亡きドワーフ国宝のドン・ドラニエルも、数年前に彗星の如く現れて、そして、直ぐに消えてしまった伝説の刀鍛冶 白蜘蛛でも、本物の日本刀を再現する事が出来なかったんです!
 それなのに、日本刀を持ってるだなんて、冗談にも程がありますよ!」

 なんか、武器屋の店主に、何言ってんだコイツって顔をされる。

「糞っーー! 本当なんだよ! 何で俺は今、村正 持ってねーんだ……。持ってたら見せて証明できたのに……」

「ハイハイ。もう分かりましたから、冷やかしで見てたんなら、もう出てって下さいませ!商いの邪魔になりますからね!」

「コンチキョー! 客に向かってその態度はなんだ!」

「客って、お客さん、日本刀の事も知らなかったのに、侍じゃないんでしょ?
 お侍さんなら、ちゃんと相手もしますけど、偽物のコスプレ野郎の相手なんて、どこの店でもこの程度の接客しかしませんよ」

「だけど、俺は客だぞ!」

「というか、本当にお金なんか持ってるんですか? どうせ、木刀持ってるのも日本刀レプリカが買えないからなんでしょ?」

「金なら持ってるわい!」

「なら、いいでけど。ウチのお店はそれなりのモノを揃えてますけど、お客さんに買えるんですかね?」

「……」

 塩太郎は、思わず言葉に詰まる。
 そう。塩太郎は常時、シャンティーに1万マーブルしかお小遣いを貰えないのだ。
 毎日使っても、必ず1万マーブルになるように補充されるが、大きな買い物は1人では、絶対に買えないシステムなっている。

 そして、現在は、近くにシャンティーは居ない。

「帰る!」

「ハイハイ! お金貯めたら、また来て下さいね!」

「クッ……」

 塩太郎は、とても傷付き、武器屋を出たのであった。

「チキショー! 俺だって本当は、金持ってるんだよ!
 だけど、いつでも1万マーブル貰えるというシャンティーの提案は、捨て難かったし……」

 塩太郎は、ブツブツ言いながら、ハラハラ城塞都市の探索を続ける。
 一応、契約では、シャンティーの居る時に、シャンティーのOKが出た時だけ、何でも買って貰えるシステムなのだ。
 そう、シャンティーのOKが出た時だけ。

 とか、ブツブツ言いながら歩いてると、

「 おっ! ここにも良さそうな武器屋があるじゃねーか!」

 塩太郎は、また、違う武器屋の前で立ち止まる。
 そう、塩太郎は、幕末日本時代から、武器屋巡りが趣味なのだ。
 良さそうな武器屋があると、つい、立ち止まって見てしまうのは習性なのである。

「だけれども、金持ってねーし……」

 塩太郎は、先程の店主とのやり取りが相当トラウマになってしまっていた。

 侍とは、格好付けてナンボ。
『武士は食わねど高楊枝』という言葉があるように、見栄の為なら、食事も我慢するのが武士の生き様なのである。

 そんな塩太郎のプライドが、先程の店主とのやり取りで、ポッキリ折られてしまったのだ。

「やっぱり、入るの止めとこう……」

 どうやら、幕末伝説の人斬りでも、人並みの心を持ってたようである。
 まあ、人の心と言っても、小心者のノミの心臓なのだけど。

 ーーー

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