70 / 166
70. 自分ファーストな女
しおりを挟む南の大陸では、他の城塞都市より人口が多くて、旅人が多く出入りする城塞都市には必ずある高級焼肉店、『ミノ一番』。
元々は、ミノタウロスが生息するダンジョンの近くにあった、モフウフ城塞都市のミノタウロスの肉を提供する名物焼肉店であった。
オーナーは、『漆黒の森』の女王、ガブリエル・ゴトウ・ツゥペシュの、まあまあ近い親戚のダークエルフ、ナンコウ・サンアリ。
それが、大きく様変わりしたのは350年前。
当時の『漆黒の森』は、北の大魔王(異界の悪魔ベルフェゴール)の反乱により、大きく混乱。
『漆黒の森』は、乱れに乱れ、群雄割拠の大戦国時代に突入していたのだ。
そんな折、異世界から召喚されたと言われている大魔王ゴトウ・サイトが、たまたま命を助けた傾国の『漆黒の森』の幼な姫、ガブリエル・ツゥペシュを連れて、城塞都市モフウフに現れた所から始まる。
当時、モフウフ城塞都市の実力者であったサンアリは、すぐさま親戚であるガブリエルと、ゴトウ・サイトの協力者になると名乗り出て、モフウフ城塞都市を、北の大魔王ベルフェゴール打倒の為の本拠地にする事を提案。資金面でも全ての私財を投げ打って、『漆黒の森』の再興と、モフウフ王都化計画に尽力したのである。
そこからは、幼姫ガブリエルと大魔王ゴトウ・サイトの快進撃。
あれよあれよという内に、『漆黒の森』の再統一を成し遂げてしまった。
サンアリは、戦時中の経済面の管理や、ガブリエルの親戚という事もあったので、そのまま『漆黒の森』の宰相となったのである。
次いでに、自分の商売である焼肉店『ミノ一番』の全国チェーン店化にも成功し、その他にも『漆黒の森』のネームバリューを利用し、様々な商売を成功させ、巨万の富を手に入れたのだった。
そんな背景がある高級焼肉店『ミノ一番』に、塩太郎達は、100万マーブル分の金券を受け取る為に向かっている。
「見えて来たわよ! 本当に『ミノ一番』が有る場所は、どの城塞都市も同じね……」
シャンティーが言うように、『ミノ一番』は、どの城塞都市でも、大体、同じ場所にある。
それは、どの城塞都市でも探すことなく、直ぐに見付ける事ができるようにする工夫。
因みに、南の大陸の城塞都市の作りはほぼ同じ。円状の形をしていて、ど真ん中に冒険者ギルドと、南の大陸で信仰されているケルベロス教の教会がある。
そして、十時に大通りがあり、それぞれに端には北門、南門、東門、西門があり、何故か絶対に正門は南門と決まっている。
塩太郎に説明するなら、にっくき薩摩の島津家の家紋と同じ、丸に十字だと教えれば、簡単に理解するだろう。
そんでもって、更に説明すると、北東の区画が貴族街。北東の城塞付近に王城がある。
北西は一般の住人が住む区画。南東は宿屋や道具屋や武器屋などの商売人が住む区画。
そして、南西は貧民街。貴族街以外は、中央にいくほど治安が良く、東西の大通りに離れるほど治安が悪くなると言われている。
そして、『ミノ一番』は、南東の区画の中央から少し離れた貴族街に近い一角に、デーンと建っている。
外装は、石造り3階建て。全ての窓が全開になっており、食欲を誘うニンニクの香りが漂う煙が全開に開けられた窓から、モクモクと外に出てるのが目印だ。
「オイ! アレがもしかして、『ミノ一番』かよ!」
塩太郎が興奮気味に、シャンティーに質問する。
「そうよ」
「ミノタウロスは、本当に四足じゃないんだよな?」
塩太郎は、ここに来るまで、シャンティーに何度も確認を取っている。
何度も言うが、塩太郎は幕末出身で、四足の肉は決して食べないのだ。
ギリギリ食べてもいいのは、鳥や兎。
何故なら、二本足で立つから。
兎を、1羽、2羽と数えるのもその名残り。
まあ、江戸時代の人達は、それでも鳥や兎の肉など殆ど食べてなかったのだけど。
食べる者は、田舎の山奥に住んでる猟師ぐらい。
塩太郎に至っては、長州藩の萩出身。
魚介類が豊富な海沿いの街で生まれたので、勿論、鳥肉や兎肉など食べた事が無い。
「俺、二本足の動物の肉、食べた事ないので、今からドキドキしてるんだけど」
そう、塩太郎にとって、ミノタウロスの肉は未知の体験。
その肉の味が、4本足で歩く牛肉と同じ味だという事など、勿論、知らない。
そして、シャンティーも、牛肉とミノタウロスの肉の味が、殆ど、一緒だとは決して言わない。
シャンティーは、ただ、塩太郎の質問に答えただけなのだ。
塩太郎が、
「焼肉だと! 俺は四足の肉なんて、絶対に食べんからな!」
と、駄々をこねていたので、
「ミノタウロスは、2足歩行だから、問題無いわよ」
と、真実を言っただけ。
決して、牛肉とミノタウロスの肉が、殆ど、同じものとは言わないし、ミノタウロスの頭が、牛の頭だなんて決して言わないのである。
何故かと言うと、シャンティーが高級焼肉店『ミノ一番』に行きたいから。
シャンティーにとっても、高級焼肉『ミノ一番』に行くのは、350年振り。
ガブリエルとの関係が悪化してから、本当に久しぶりの来店なのである。
そう、塩太郎が四足の牛肉が食べれない事など、全く関係無いのだ。
シャンティーは、どこまでも自分ファースト。それが腹黒と言われる所以。
腹黒シャンティーにとって、塩太郎の信念など、箸にも棒にもかからない、全くもってどうでもよい話なのであった。
ーーー
面白かったら、お気に入りに入れてね!
3
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界の剣聖女子
みくもっち
ファンタジー
(時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。
その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。
ただし万能というわけではない。
心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。
また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。
異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。
時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。
バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。
テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー!
*素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します。
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる