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70. 自分ファーストな女
しおりを挟む南の大陸では、他の城塞都市より人口が多くて、旅人が多く出入りする城塞都市には必ずある高級焼肉店、『ミノ一番』。
元々は、ミノタウロスが生息するダンジョンの近くにあった、モフウフ城塞都市のミノタウロスの肉を提供する名物焼肉店であった。
オーナーは、『漆黒の森』の女王、ガブリエル・ゴトウ・ツゥペシュの、まあまあ近い親戚のダークエルフ、ナンコウ・サンアリ。
それが、大きく様変わりしたのは350年前。
当時の『漆黒の森』は、北の大魔王(異界の悪魔ベルフェゴール)の反乱により、大きく混乱。
『漆黒の森』は、乱れに乱れ、群雄割拠の大戦国時代に突入していたのだ。
そんな折、異世界から召喚されたと言われている大魔王ゴトウ・サイトが、たまたま命を助けた傾国の『漆黒の森』の幼な姫、ガブリエル・ツゥペシュを連れて、城塞都市モフウフに現れた所から始まる。
当時、モフウフ城塞都市の実力者であったサンアリは、すぐさま親戚であるガブリエルと、ゴトウ・サイトの協力者になると名乗り出て、モフウフ城塞都市を、北の大魔王ベルフェゴール打倒の為の本拠地にする事を提案。資金面でも全ての私財を投げ打って、『漆黒の森』の再興と、モフウフ王都化計画に尽力したのである。
そこからは、幼姫ガブリエルと大魔王ゴトウ・サイトの快進撃。
あれよあれよという内に、『漆黒の森』の再統一を成し遂げてしまった。
サンアリは、戦時中の経済面の管理や、ガブリエルの親戚という事もあったので、そのまま『漆黒の森』の宰相となったのである。
次いでに、自分の商売である焼肉店『ミノ一番』の全国チェーン店化にも成功し、その他にも『漆黒の森』のネームバリューを利用し、様々な商売を成功させ、巨万の富を手に入れたのだった。
そんな背景がある高級焼肉店『ミノ一番』に、塩太郎達は、100万マーブル分の金券を受け取る為に向かっている。
「見えて来たわよ! 本当に『ミノ一番』が有る場所は、どの城塞都市も同じね……」
シャンティーが言うように、『ミノ一番』は、どの城塞都市でも、大体、同じ場所にある。
それは、どの城塞都市でも探すことなく、直ぐに見付ける事ができるようにする工夫。
因みに、南の大陸の城塞都市の作りはほぼ同じ。円状の形をしていて、ど真ん中に冒険者ギルドと、南の大陸で信仰されているケルベロス教の教会がある。
そして、十時に大通りがあり、それぞれに端には北門、南門、東門、西門があり、何故か絶対に正門は南門と決まっている。
塩太郎に説明するなら、にっくき薩摩の島津家の家紋と同じ、丸に十字だと教えれば、簡単に理解するだろう。
そんでもって、更に説明すると、北東の区画が貴族街。北東の城塞付近に王城がある。
北西は一般の住人が住む区画。南東は宿屋や道具屋や武器屋などの商売人が住む区画。
そして、南西は貧民街。貴族街以外は、中央にいくほど治安が良く、東西の大通りに離れるほど治安が悪くなると言われている。
そして、『ミノ一番』は、南東の区画の中央から少し離れた貴族街に近い一角に、デーンと建っている。
外装は、石造り3階建て。全ての窓が全開になっており、食欲を誘うニンニクの香りが漂う煙が全開に開けられた窓から、モクモクと外に出てるのが目印だ。
「オイ! アレがもしかして、『ミノ一番』かよ!」
塩太郎が興奮気味に、シャンティーに質問する。
「そうよ」
「ミノタウロスは、本当に四足じゃないんだよな?」
塩太郎は、ここに来るまで、シャンティーに何度も確認を取っている。
何度も言うが、塩太郎は幕末出身で、四足の肉は決して食べないのだ。
ギリギリ食べてもいいのは、鳥や兎。
何故なら、二本足で立つから。
兎を、1羽、2羽と数えるのもその名残り。
まあ、江戸時代の人達は、それでも鳥や兎の肉など殆ど食べてなかったのだけど。
食べる者は、田舎の山奥に住んでる猟師ぐらい。
塩太郎に至っては、長州藩の萩出身。
魚介類が豊富な海沿いの街で生まれたので、勿論、鳥肉や兎肉など食べた事が無い。
「俺、二本足の動物の肉、食べた事ないので、今からドキドキしてるんだけど」
そう、塩太郎にとって、ミノタウロスの肉は未知の体験。
その肉の味が、4本足で歩く牛肉と同じ味だという事など、勿論、知らない。
そして、シャンティーも、牛肉とミノタウロスの肉の味が、殆ど、一緒だとは決して言わない。
シャンティーは、ただ、塩太郎の質問に答えただけなのだ。
塩太郎が、
「焼肉だと! 俺は四足の肉なんて、絶対に食べんからな!」
と、駄々をこねていたので、
「ミノタウロスは、2足歩行だから、問題無いわよ」
と、真実を言っただけ。
決して、牛肉とミノタウロスの肉が、殆ど、同じものとは言わないし、ミノタウロスの頭が、牛の頭だなんて決して言わないのである。
何故かと言うと、シャンティーが高級焼肉店『ミノ一番』に行きたいから。
シャンティーにとっても、高級焼肉『ミノ一番』に行くのは、350年振り。
ガブリエルとの関係が悪化してから、本当に久しぶりの来店なのである。
そう、塩太郎が四足の牛肉が食べれない事など、全く関係無いのだ。
シャンティーは、どこまでも自分ファースト。それが腹黒と言われる所以。
腹黒シャンティーにとって、塩太郎の信念など、箸にも棒にもかからない、全くもってどうでもよい話なのであった。
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