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69. 剛剣バルハザル

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「衛兵長! 自分は全くもって納得できません!」

『犬の肉球』のメンバーが、城塞都市内に入って行った後、最初にシャンティーの相手をした衛兵が、怒りに打ち震えて、衛兵長に食ってかかる。

「まあ、こらえてくれ。あの方は、腹黒シャンティーと言われる、厄災級の性悪精霊。
 まあ、厄災級と言っても、力が厄災級な訳じゃなくて、やる事と口の悪さが厄災級なのだが……。
 南の大陸でも、350年前までは、あのサディスティックサイコにゃん娘のブリトニー・ゴトウ・ロマンチックより恐れられていた程の、正真正銘の厄災級精霊なのだよ」

 衛兵長が、部下の衛兵をなだめながら、冷静な態度で丁寧に説明する。

「チ〇コスライスの、ブリトニーよりもですか……。
 しかしながら、衛兵長が、ガブリエル様の親戚だと早く言っていたら、相手もビビって、すぐ引いたのでは?」

 部下の衛兵は、まだ納得出来ないのか、疑問を口にする。

「それはどうかな? 腹黒シャンティーは、ガブリエル姫様の事なんか、全然ビビっていない。というか、面と向かって現在も戦争状態だ。
 なにせ、『犬の肉球』は、350年前は、『犬の尻尾』よりも、格上冒険者パーティーだったのだからな」

「エッ!? 嘘ですよね?」

 衛兵長の衝撃発言に、部下の衛兵は当惑する。

「本当だ。因みに当時のメンバーには、勇者も居たし、アン様のお父上であらせられるドワーフ王ドラクエル様まで居たのだぞ。
 しかも、『犬の肉球』には、エリス様のお友達であらせられる赤龍アリエッタまで付いている」

「な……何ですと! ドラクエル様と、赤龍アリエッタまで……」

 流石の道理を知らぬアホな衛兵も、現在でも最強の一角と言われている。大物2人の名前を聞いて驚愕している。

「しかも、シャンティー殿は、アン様の師匠だったりする」

 続けて、またまた衝撃発言。

「エェェェェェーー! 何なんですか? それは!!
 腹黒シャンティー、滅茶苦茶ヤバいじゃないですか!
 それなのに、全くもって、南の大陸では有名じゃないって……」

「だから、300年前ぐらいまでは、南の大陸でも『犬の肉球』の名声は知れ渡っていたのだが、それ以上にガブリエル姫様の『犬の尻尾』の名声が上回り、そもそも名前が似てる事もあって、『犬の肉球』の名声も、『犬の尻尾』の名声に統合されてしまったというのが、正直な話だな……」

 衛兵長が、南の大陸で、『犬の肉球』が忘れされてしまった理由を、端折って説明する。

「ん? しかしながら、そんなに有名だったのに、南の大陸から忽然と消えてしまったのは、何故なんですか?」

 部下の衛兵が、誰もが気になるであろう疑問を口にする。

「『犬の肉球』は、所謂、西の大陸のオールスターズ。本国の西の大陸に引き篭っていたのだ。南の大陸に来てしまうと、ガブリエル姫様とカチ合って、戦争になってしまうのでな」

「ん? 戦争になってしまうのに、何で、今回、『犬の肉球』は、南の大陸に来てるんですか?」

「それは、遂に、戦力が整ったからに他ならない。
 噂によると、ガブリエル姫様が異世界から召喚した勇者候補を、『犬の肉球』が強奪したらしいのだ……」

「な……何なんですか? それは! 最強冒険者パーティー『犬の尻尾』に、完全に喧嘩売ってるじゃないですか!」

 部下の衛兵は、興奮しながら捲し立てる。

「だから、何度も、『犬の肉球』は舐めてたらいけない相手と説明してるだろ!
 お前、本来なら、シャンティー殿にケツの毛まで毟りとられてた筈なのだぞ!
 もっと、反省しろ!」

 衛兵長は、部下の衛兵にキツめに注意する。

「ケツの毛まで毟り取るって……」

「先程、『ミノ一番』の件で、『漆黒の森』の宰相サンアリ殿に連絡したのだが、既に、南の大陸でも、腹黒シャンティーの被害にあった者が出てると教えてくれたのだ」

「なんと! 私以外にも、腹黒シャンティーの被害者が居たのですか?!」

「しかも被害者は、剛剣バルハザル!」

「エェェェェェーー!! 剣王と、拳王を持ってる、超大物の称号持ちじゃないですかーー!」

 部下の衛兵は、目ん玉飛び出そうなほど驚愕する。

「ああ。その称号持ちのバルハザルを100回殺したらしい……しかも、生き返す度に、エリクサーを1瓶100万マーブルで売りつけたようだ」

「……人を生き返らすエリクサーって、現在の平均価格って、10万マーブルぐらいですよね……それを10倍の価格で売りつけたんですか……」

「ああ……」

「滅茶苦茶じゃないですか……」

 部下の衛兵は、驚きを通り越して、ただただ呆然とする。

「だから、腹黒なのだ。今回もガブリエル姫様の名前を早くに出さなかったのは、落とし所を見付ける為。
 ある程度、利益を与えて、シャンティーを満足させる事に意味があったのだ。
 しかしながら、これ以上、何かを求めるなら、ガブリエル姫様に言いつけるからな!と、私は、暗に脅したのだな」

「そ……そんな高度な駆け引きがあったのですか……」

 部下の衛兵は、目を白黒させて驚愕する。

「ああ。シャンティーも馬鹿じゃないので、ある程度利益も得たし、ここが引き際だと感じとって引いたのだ。
 本当に感服するぐらい、見事な撤退ぶりだったな」

「衛兵長もシャンティーも、色々考えて行動してたのですね。それに比べ、私なんか、シャンティーの横暴な態度に頭に血が上り、何で衛兵長が、こんなにヘコヘコ頭を下げるのだろうと、悔しく、悔しくて……」

 衛兵は、先程の事を思い出したのか、少し涙目になっている。

「それは、しょうが無いさ! お前は、腹黒シャンティーの悪名を知らなかったのだから」

 衛兵長は、涙目で悔しがる部下の衛兵を、仕方が無い事だったのだと優しく慰める。

「衛兵長ーー!俺、衛兵長の事、一瞬でも、部下の気持ちを蔑ろにする糞上司だと思ってしまって、本当にすみませんでした!」

「気にするな。もう一度言うが、お前は、腹黒シャンティーの悪名を知らなかっただけなのだからな」

「衛兵長ーー! 俺、一生、衛兵長に付いて行きます!」

 ちょっとだけ、男色の気があると噂される衛兵は、感極まって衛兵長に抱きつくのだった。

「お……男に、抱きつかれたくないんだが……」

 こんな感じで、最上級宿屋のスゥィートルームの宿賃と、高級焼肉店100万マーブルと、衛兵長の機転により、とある城塞都市の平和は守られたのだった。

 まあ、このような腹黒事件を起こす度に、全く忘れさられていた、『犬の肉球』の名声というか、悪名が、再び、南の大陸全土に広がる役に立つ事になるとは、流石のシャンティーでも分からない事であった。

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