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65. 木魚を叩く男
しおりを挟む「テメー! 俺に目潰ししやがったじゃねーか!
普通、侍はそんな卑怯な真似しねーんだよ!」
筋肉ダルマの怒りは収まらない。
普通、殺し合いに卑怯もへったくれもないのだけど。
「目潰しは、卑怯でも何でも無いだろ?
普通に、俺は剣術道場で習ったぞ?」
「何だそれは! そんな剣術道場なんか、ある訳でねーだろ!!」
筋肉ダルマは、反論する。
「有るに決まってんだろ? お前が言う、侍って何なんだ?
刀落としたくらいで、侍は戦わないのか?
そんな事、ある訳ねーだろ!
侍てのは、戦う集団なんだ。
例え刀が無くても、噛み付いてでも敵を倒す!それが侍ってもんだぜ!」
「そんな訳ある訳ねーだろ! 侍てのは、潔い奴等なんだ!
お前のような、目潰しするような卑怯者じゃねーー!」
「何言ってやがんだ?この世界に居る侍は、腑抜けてんのか?
まあ、俺のような現役じゃねーから、侍が何たるものか忘れてんだな。所詮、俺が居た時代でも、本物の侍と言えるのは、長州藩士だけだったからな!
薩摩藩の奴等なんて、風見鶏で、時の権力者にケツを振る腑抜けた奴等しか居なかったしな!」
塩太郎は、薩摩の奴等を心底憎んでいる。
塩太郎が死ぬ切っ掛けとなった蛤御門の変も、京都での影響力を長州藩から奪いたかった薩摩が、幕府に協力したから起こったのだ。
いつものように、会津藩と新撰組だけが相手であったのなら、あそこまで壊滅的に長州藩はやられなかったし、京都を追われる事も無かったのである。
「薩摩? お前、何言ってるんだ? 俺は侍について話してるんだが……」
「うっせー! 兎に角、この世界で本物の侍は、この佐藤 塩太郎一人だけなんだよ!
それ以外の奴らは、全員、偽物!
すぐに、この俺が、ハラダだかハラだか知らねーが、バッタモンの侍を、一人残らず、倒してやんよ!」
塩太郎は、そういうと、腰に付けてた木刀を抜く。
「お前、木刀って、ふざけてるのか?」
筋肉ダルマが、真顔で塩太郎に聞いてくる。
「お前なんぞ、木刀で十分なんだよ! 素手で負けといて、何言ってんだ?」
「そ……それは、お前が目潰しとか卑怯な事をするからだろ!」
「不意を付いて斬り掛かってきた卑怯者は、お前の方だろうが!
それを逆に、投げ飛ばされて、受け身もせずに、モロに、石床に叩きつけられた所で、もう勝負は決まってたんだよ!
目潰しは、その後だし、 何も形勢は変わらんちゅーの!」
「変わる! 目潰しされなかったら、俺は負けなかった!」
筋肉ダルマは、断固として、塩太郎が卑怯な事をしたから負けたと言い張る。
「ハイハイそうですか? そしたら掛かってきたら? 俺がお稽古つけてやるから。
お前なんぞに、闘気も使う必要ねーし、木刀だけで十分なんだよ!」
「舐めやがって!」
筋肉ダルマは、相も変わらず、上段から塩太郎目掛けて斬りかかってくる。
「舐めてんのは、お前の方だろうが!
同じ上段でも、薩摩っぽの示現流の上段の方が、よっぽど早く重いぞ!」
塩太郎は、軽く木刀を、相手のバスターソードの腹に沿わすように当てて、簡単に躱してみせる。
「何だと!」
「何だと? じゃねーよ! お前の動きは単純過ぎるし、遅すぎなんだよ!
まあ、力だけは強いかもしれんが、闘気を使える奴同士での戦いだったら、どうって事ねーんだよ!
というか、まあ、闘気を使えん奴でも、お前ぐらいの実力なら、京都では倒せる奴が五万と居ると思うぜ!
ハッキリ言って、遅いし、基本がなってねー!」
塩太郎は、そう言うと、軽く筋肉ダルマの手首を狙って小手打ちする。
「痛っ!」
「痛っ! じゃねーよ! ほらどうするんだ?
このシュチュエーション?
刀落としたぐらいで、負けを認めるのか?」
「舐めるな! 俺は拳王だ!」
筋肉ダルマは、素手で、塩太郎に襲いかかる。
「元、拳王な!」
塩太郎は、身軽にハラリと避け、次いでに足払いの要領で、筋肉ダルマを思いっきり転がしてやる。
そう、塩太郎は、滅茶苦茶足癖が悪いのである。
「お前、本当に隙だらけな! 弱い奴なら力任せで何とかなるかも知れんけど、
俺ぐらいの京都でその人有りと言われた達人には、お前なんぞ、全く力を使わんでも倒せんだよ!
柔よく剛を制すだ!よ~く、覚えとけ!」
塩太郎は、再び、剣王の称号が得られないと面倒なので、すっ転んでる筋肉ダルマを、木刀で滅多打ちにする。
「痛てー! 痛てーよぉーー!」
筋肉ダルマは、何度も木魚のように頭を打たれて、泣きべそをかく。
「そりゃあ、痛てーだろ? 木刀でも殴られりゃ痛てーんだよ!」
「止めてくれーー!」
「誰が止めるか! アホ! お前倒さんと、剣王になれんだろ!」
「もうヤダー! 早く殺してくれーー!」
「だから、闘気は使わねーて、最初に言ったよな?
というか、木刀舐めてたお前が悪い!
木刀の怖さを、とくと味わいやがれ!」
こんな感じで10分程度、塩太郎は、執拗に頭だけを狙って、筋肉ダルマを叩き殺したのであった。
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