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55. 男っぽい女の名前

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「こんにちわ!塩太郎さん!」

 ドワーフ王国直営店ムササビ支店の店内の壁は木造で、黒漆塗りじゃなく、落ち着いた焦げ茶。
 床は、深々の赤絨毯。天井には豪華なシャンデリア。全ての武器や防具、魔道具は、透明度が高いガラスの商品ケースに飾られており、従業員も全員、アイロンがビシッとかけられた白いシャツに、黒いスラックスを履いている。

 いかにも高級店なのだが、一人だけ虎柄のビキニアーマーのトップスと、股下がブカブカのサルエルパンツを履いた、背中にデッカイハンマーを背負った、黒髪の20歳ぐらいのグラマラスな女が、塩太郎に挨拶して来た。

「こんにちわ! 塩太郎さん! こんにちわ!」

 塩太郎が、何で、一人だけ格好が違うんだ?と考えてる間にも、サルエルパンツ女の挨拶攻撃は続く。

「塩太郎さん! こんにちわ!こんにちわ! こんにちわ!」

「アアアアー! 五月蝿い! 挨拶は一度言えば解る!
 何で、塩太郎も挨拶返さないの!」

 シャンティーが、痺れを切らし間に入る。

「ああ……だってよ……コイツ、アレだろ?
 痴女って奴だろ?
 昼間っから、薄っぺらい鉄板を胸に巻いて、どう見てもヤバイ奴だろ……」

 幕末出身の塩太郎は知らなかった。
 異世界には、ビキニアーマーなる防御力?の鎧がある事を。
 そして、別に痴女じゃなくても、この世界では、水着のような服を着てる女性がたくさんいる事を、幕末出身の塩太郎は知らなかったのである。

「薄っぺらい鉄板じゃないです! これは僕が作った、れっきとした防具なんです!
 温度調整機能、中級魔法無効、エロ親父撃退機能まで備えた、最高級防具なんです!」

「女なのに、僕って、アンさんの真似か?」

 塩太郎は、どうでも良い事に気付いて指摘する。

「小さい時から、鍛冶場に入るドワーフ族の少女は、大体、僕っ娘になるんです!
 基本、鍛冶場は、男社会の職場ですから!」

「そ……そうなんだ……」

 塩太郎は、よく分からなかったが、圧に飲まれて納得する。

「で?ヨネン? この子は誰? 背が高いからドワーフ族には見えないんだけど?」

 シャンティーが、面倒臭くなったのか、ヨネンに質問する。

「この子は、オイドン・トラデアル。
 既に亡くなっている、ドワーフ国宝ドン・ドラニエルの最後の弟子にして、現在、南の大陸随一の鍛冶職人と言われてる人物です!
 因みに、ドワーフにしては背が高いのは、クゥオーターで、4分の1だけドワーフ族の血が入ってるからですね!」

「ハイ! オイドン・トラデアルです! 今日は、塩太郎さんに聖剣を見せて貰いたくて、
 ヨネンさんに頼んで、ドワーフ王国直営店ムササビ支店に来ました!」

 なんか、虎っぽい名前のトラデアルが、深々とお辞儀をしながら自己紹介をする。

「ちょっと、最近、名前をちょくちょく聞くようになったオイドン・トラデアルって、名前からして、てっきり男だと思ってたんだけど、女だったの?」

 シャンティーが、ビックリ仰天、驚愕している。

「ん? そんなの、女に決まってるじゃないですか」

 ヨネンは、不思議そうにシャンティーに言う。

「だけど、オイドン・トラデアルって、どう考えても、男らしい強そうな名前じゃないの?」

「名前の語尾に、ンが付く名前は、ドワーフ族によくある名前ですよ?
 僕の名前も、ヨネンですし、姉もアン。亡くなったドワーフ国宝のドン・ドラニエルだって、語尾が、ンですから?」

「いや、ソコじゃなくて、トラデアルの、強そうな苗字の方よ!」

「トラデアルも、ドワーフ族では、よくある苗字ですよ?
 ドン・ドラニエルとか、ヨネン・ドラクエルとか、大体、苗字の語尾は、ルになりますね!」

「そう言われれば、そうだけど……」

 シャンティーは、珍しく理詰めで責められ言葉を詰まらす。
 まあ、実際、女だから、どうする事もできないのだけど。

「で、塩太郎さん! 聖剣を見せて下さい!」

 トラデアルは、目をキラキラさせて、塩太郎にお願いしてくる。

「チッ! 仕方がねえな! だけど、この村正、そこら辺の武器屋で売ってた安モンの村正なんだけどな……」

 塩太郎は、謙遜しつつも、悪い気がしなかったので、村正を鞘ごと外して、トラデアルに渡す。

「エッ! コレって! えぇぇぇーー!」

 何かよく分からんが、トラデアルが、メチャクチャ驚いている。

「ていうか、何で驚いてる! まだ、鞘から抜いてもないだろ!」

 塩太郎は、首を傾げながらも、しっかりと突っ込みを入れる。

「だって、この鞘と柄と鍔、全部、白蜘蛛製ですよ!」

「白蜘蛛?って、俺を京都で見つけ出したという白い幼女の事だろ?」

「てっ!! 本当ですよ! 塩太郎さん! 僕のSSS級の鑑定眼で見ても、白蜘蛛と出てます!」

 ヨネンも、塩太郎の村正を見て驚愕している。

「ちょっと、どういう事よ!」

 シャンティーが、ヨネンに詰め寄る。

「天才武器職人のシロさんが、塩太郎さんの村正をカスタマイズしてるって事ですよ!
 普通、聖剣をカスタマイズするなんて、畏れ多くて出来ないんですけど、それをシロさんは、恐れる事なくやってのけてるんです!
 実際、ハラダ家が所有してる政宗の鞘や柄、鍔の性能を、余裕で越えてますね……」

「それって、高く売れるって事?」

 シャンティーが、抜け目なく質問する。

「ていうか、値段? 聖剣に値段なんか付きませんよ!」

 ヨネンは呆れながらも、シャンティーに食入り気味に突っ込む。

「でも、付加価値は、凄く付いてくるんでしょ?」

 しかし、腹黒シャンティーはブレない。

「付きます。なにせ、チラッとみただけで、最新の技術が、ふんだんに盛り込まれてますので!
 現在、うちにも白蜘蛛の日本刀レプリカが何振りか有りますけど、それにも使われてない最新の技術が使われてます!」

「それって、ヤバイんじゃないの?」

「だから、ヤバイんですって! シロさんは、あのドワーフ国宝、ドン・ドラニエルを越える天才と言われてた人物なんですから!
 コレは、白蜘蛛マニアが驚愕する大事件ですよ!
 何せ、世界に、たった5振りしかない聖剣に、シロさんの技術が組み込まれてる事になるんですから!」

 ヨネンは、興奮気味に捲し立てた。

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