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43. 氷魔法に憧れる男

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「すんげーぜ! すんげーぜ!」

 塩太郎は、大きな四角い建物、まんまイ〇ンショッピングモールに入ると、すんげーぜ!を連発する。

「アンタ、本当に、すんげーぜ!しか言えないの?」

 シャンティーは、余りのボキャブラリーの無さに呆れている。

「だってよー! このウルフデパートだっけか、建物の中が凄く涼しいんだぜ!」

「見た目じゃなくて、そこ?!」

 塩太郎は、まさかの空調設備にビビっていたのである。

「ただの冷房でしょ?」

「冷房って、どっかにデッケー氷とか置いてるのかよ!
 というか、これが噂の氷魔法か?」

 幕末出身の塩太郎は、知らなかった。
 イ〇ンショッピングモールには、空調設備がしっかり設置されており、夏は涼しく、冬は暖かくなる事を。
 というか、現在の日本のスーパーやコンビニ、図書館、公共設備には、当たり前のように、冷房が完備されてる事を。
 そして、冒険者の国、ムササビ自治国家は、昔から異世界人が多く暮らしてる事もあり、地球の文化がメチャクチャ普及してるので、当たり前のように、お店に冷房が完備されてる事を、幕末出身の塩太郎は知らなかったのである。

「デッカイ氷なんか置いてる訳ないでしょ!
 空調の魔道具を設置してるだけよ!」

「魔道具?」

「本当、アンタ面倒臭いわね! 無駄に異世界知識が豊富だったゴトウ・サイトと、同じ日本人とは到底思えないわ!」

「だから、ゴトウなんて奴、知らねーよ!
 俺の居た時代の人間じゃねーんだろ? 」

 塩太郎は、やたらと話に出て来るゴトウ・サイトにジェラシーを感じてたりする。『話をしてるのは、俺だって!』という感じで。

「まあ、そうだったわね……兎に角、冷たい風は魔道具から出てきてるのよ!」

「うわっ! アレはなんだ?!」

「ちょっと、アンタ、人が折角、説明してあげてるのに、聞いてんの!」

「だってよ! デッケー箱の中に街が有るんだぜ!
 誰でも、驚くってもんだろうがよ!」

 ウルフデパートは、まんまイ〇ンショッピングセンターなのだが、1階はデパートのように、高級品のお店がゆったりとしたスペースで並んでいる。
 そんでもって、2階は吹き抜けになっており、庶民にも手に入るお手頃価格の商品が売ってる感じだ。
 次いでに言うと、フードコートも2階に有って、高級店から、庶民でも食べれるラーメン屋やら、ハンバーガー屋やら、この世界の有名店が一堂に集合している。

 簡単に言うと、1階は高級デパート、2階はまんま、イ〇ンショッピングモールといった感じと思えば間違い無い。

「アンタ、どんだけ田舎者なのよ!」

 シャンティーが、蔑んだ目を塩太郎に向けてくる。

「お前、俺の事舐めてるだろ! 俺はこう見えても、毛利の城がある萩出身だぞ!
 それに、若い頃は、高杉について江戸でも暮らしてたし、つい最近まで、京都を拠点に活動してたんだからな!
 こんな都会っ子の俺が、田舎者の訳ないだろうがよ!」

「じゃあ、原始人ね! 空調も知らないって、これまで何度か異世界人に会った事あるけど、アンタが初めてだもん!
 殆どの異世界人は、ムササビに来て、やっと文明の利器に出会えたと、ムササビに定住を決める異世界人はよく見たけど、アンタみたいに、口をあけて、すんげー! すんげー!言ってるアホ面の異世界人は見た事なかったからね!」

「お前、どんだけ口が悪いんだ!腹黒妖精!」

「キィーー腹黒言うなー!田舎者の原始人!」

「俺は、田舎者でも原始人でもねーーよ!」

 塩太郎とシャンティーは、至近距離で睨み合ってると、

「まあまあシャンティー殿も、塩太郎も、そこら辺にしときましょう。もう、ドワーフ王国の直営店の前まで来てしまいましたので」

 最近では、完全に、シャンティーと塩太郎の宥め役になってるムネオが間に入る。

「だってさー! ムネオさん、この腹黒妖精、一々、ムカつく事、言ってくるんだぜ?
 俺は、ただ、知らない事を質問してるだけなのに!」

「ムネオ! アンタ、まさか、塩太郎の味方じゃないわよね!
 私は、アンタのオムツまで替えてあげた事もある恩人だという事、分かってんでしょうね!」

「オムツを替えて貰った記憶は有りませんけど、シャンティー殿の事は、心から尊敬しておりますから……」

 ムネオは、絶対に、心にも思って無い事を言う。

「まあ、そうよね! 分かればいいのよ! 分かれば!」

 シャンティーは、いつもの事ながらムネオに偉そうだ。

「で、ここが、ムネオさんの大盾を注文してる、ドワーフ王国直営店なのか?」

 塩太郎は、チャッチャと切り替え、シャンティーに別の質問をする。

「そうよ! ここがドワーフ王国が運営してる4つの直営店の内の1つ!
 ドワーフ王国直営店、ムササビ支店よ!
 実際、ドワーフ王国にある本店より、品揃えは豊富と言われてるわね!
 特に、ドワーフ王、ドラクエルの作品が多く販売されてる事で有名なのよ!」

「ドワーフ王って、『犬の肉球』のOBで、アンさんの親父さんか?」

「そう! アンの父親で、私達の仲間、ドラクエルよ!
 因みに、ドワーフ王国直営店、漆黒の森支店には、アンの作品が充実してたりするわね!」

「アンさんも、大盾とか作るのかよ!」

 塩太郎は、まさかの事実に驚く。
 幕末日本では、女の鍛冶師など居ないので、当然なのだけど。

「アンも防具製作においては、父親の血を引き継いでるので天才よ!」

「ヤバイ親子だな……」

「だから、アンも『犬の肉球』に入れたかったのに、ゴトウ・サイトの奴に、かっさわれたのよ!」

 シャンティーは、喋りながら思い出したのか、キィーーとなっている。

「お前、ゴトウ・サイトの事、褒めたり褒めなかったり、好きなのか嫌いなのか、どっちなんだ?」

「大嫌いに、決まってるでしょ!」

 どうやら、シャンティーは、塩太郎と同じく、みんな大好きゴトウ・サイトが、嫌いだったようだ。
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