職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ

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32. 裏側の人

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 数分前のヤリヤル冒険者ギルド、屋上闘技場の魔物控え室。

「オイ!スラ吉、出番だぜ!
 どうやら、一度も依頼をこなさずに、いきなりD級冒険者に進級しようとする、馬鹿な新人が現れたらしいぜ!」

 魔物の飼育員でテイマーと思われる男が、D級試験用の魔物スライムのスラ吉に話し掛ける。

「ピュイ!」

「何だって?そんな生意気な奴は、瞬殺してやるだって?
 オイオイ! 止めてくれよ! いくらエリスポーションが、死んでから30分以内だったら、人を蘇生させれるたって、エリスポーションもタダじゃないんだからな!
 だから、せめて、死なない程度に半殺しにして、世間の厳しさを教えてやれ!」

「ピュイ!」

 D級試験用魔物スライムのスラ吉は、ヤル気満々で元気に返事をしたのだった。

 しかし、

「オイ! どうしたんだよ! 試験始まっちまったぞ!」

 試験の始まりの合図が聞こえても、閉じられた門から出ずに、震えて、その場から一歩も動こうとしないスラ吉に、テイマーの飼育員が話し掛ける。

「ピュイ! ピュイ! ピュイ!」

 スラ吉は、必死に、テイマーの飼育員に何かを伝える。

「エッ? 何だって、対戦相手、そんなにヤバイ奴なのか?新人なのに?」

「ピュイ! ピュイ! ピュイ!」

「なになに、門の前に立ってみたら分かる?」

 飼育員のテーマーは、何言ってんだと、言われるまま門の前に立ってみる。

「ウォォォォーー! なんじゃこりゃ!」

 飼育員のテーマーの手足が、小刻みにブルブル震えている。
 何故なら、門の前に立ったら、突然、明確な自分の死のイメージが浮かび上がったから。

「何だ!? コイツ! こんなのD級試験の相手じゃなーだろ!」

 とか、足が震えて、フラフラしながらスラ吉と話してると、

「聞いたか? 今日の受験者、どうやらシャンティー様が連れて来た、『犬の肉球』のアタッカー候補らしいぞ」

 なんか、休憩から戻って来た同僚が、門の外側の闘技場に居るであろう、D級試験の受験者の話をしてきた。

「オイ! 嘘だろ! 伝説の『犬の肉球』のアタッカー候補だって!?」

「そうだぞ? て、お前、どうしたんだ?!
 産まれたての子羊みたいになっちゃってるぞ!」

 話し掛けられた同僚が、フラフラしながら歩いている、スラ吉の飼育員を見て驚いている。

「その『犬の肉球』のアタッカー候補の進級試験だよ!
 スラ吉の奴が、そのアタッカー候補に恐れをなして、門から出て行かないんだよ!」

「そ……そうなんだ……それは、ご愁傷さま……。だけど、スラ吉が殺されても、エリスポーション振り掛けたら、また復活できるんだろ?」

「それでも、スラ吉は、門の外に出ようとしないんだよ!」

「エッ? どうして?」

 同僚の飼育員は、言ってる意味が分からないと首を傾げる。

「お前も、その門の前に立てば分かる!」

「ハハハハ! お前、何言ってんだよ扉の前に立ったくらいで、何が分かるって?」

 同僚の飼育員は、笑いながら、門の前まで無警戒で進む。

 すると、同僚の飼育員も、スラ吉の飼育員と同様に、産まれたての子羊よのうに、ブルブル足が震えてヨロヨロになってしまった。

「分かった! お前の言ってる意味、よ~く分かった。
 これは、無理だ。恐ろし過ぎる。
 というか、こんな殺気を出せる奴なんて、この世に居るのかよ?!
 これは、想像を越える修羅場を何度も経験してないと、出せない殺気の種類だぞ!
 なんせ、俺、今、俺の一生分の人生が、走馬灯のように頭の中で駆け巡ったもん!」

「だろ?」

「だな」

 同僚の飼育員は、大きく頷く。
 塩田郎と戦えば、トラウマレベルの恐怖を植え付けられる事を理解したのだ。

「で、俺とスラ吉は、どうすればいい?」

「試験は試験だからな……ヤッパリ、スラ吉に出ていって貰って、死んでもらうしかないんじゃないのか?」

 同僚の飼育員は、無慈悲な事を口にする。
 しかしながら、同僚の言葉は正しい。
 何故なら、試験用の魔物であるスラ吉が殺される事は、よくある事。
 それが仕事であり、死んでしまっても、その都度、エリスポーションで生き返らせてきたのである。

「ピュイ! ピュイ! ピュイ!」

 同僚の飼育員の話を聞いていたスラ吉が、動揺して泣き叫ぶ。
 どうやら、何度も死んだ事があるスラ吉でも、塩田郎の殺気は恐ろし過ぎるようだ。

「俺に、そんな可哀想な事、出来る筈ないだろ!」

「だよな……でも、どうするんだよ?
 進級試験に、魔物が出て来ないって、前代未聞だぞ?」

「分かった。俺が出て行く!」

 スラ吉の飼育員は、覚悟を決める。

「エッ?お前が、闘技場に居る化物みたいな殺気を放ってる奴と戦うのか?!」

「そんな訳、あるか! 棄権するって、謝ってくるんだよ!」

「棄権って、コレ、ただの進級試験だぞ!」

「そうだ! 進級試験なのに、この殺気は、人を殺める気満々の殺気だろうが!
 そんな恐ろし過ぎる殺気を発してる奴の前に、俺が大事に育てたスラ吉を、出す事なんか出来る訳ねーだろ!」

「ピュイ! ピュイ! ピュイ!」

 スラ吉は、よっぽど嬉しかったのか、涙目で、ピョンピョン跳ねながら飼育員に抱きつく。

「飼育員A、お前って奴は……」

 同僚の飼育員Bも、感動して涙目になっている。

「じゃあ、行ってくるぜ! 間違って、俺が相手に殺されちまったら、その時は、すぐにエリスポーションかけてくれよな!」

「承知した! 俺に任せとけ!」

 飼育員Bは、飼育員Aから、エリスポーションを受け取り、ガッチリ握手する。

 そして、飼育員Aは、格好良く扉を開き、そのまま塩田郎の殺気をモロに受け、失禁しつつも、スラ吉の状況を上手く説明し、塩田郎とスラ吉の対戦を回避する事に、見事、成功したのだった。

 ーーー

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