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30. 剣神を目指す男
しおりを挟むヤリヤル城塞都市は、ハマオカ王国と接する、ガリム王国北部にある城塞都市。
付近には、西の大陸には珍しいダンジョンが幾つか存在し、他の西の大陸の都市より冒険者が多いのが特徴。
東には大海が広がっており、新鮮で美味しい魚介類が食べられる事で、有名な街でもある。
そして、そんな魚介類よりも有名なのが、『犬の肉球』。
勇者パーティーの主軸を担う『犬の肉球』が、ヤリヤル城塞都市をホームにしている事を、ヤリヤルに住む人々の誇りであったりする。
まあ、現在は、活動停止中なんだけど。
そして、そんなヤリヤル城塞都市で大人気の『犬の肉球』のメンバーが、ハマオカ王国の軍団を壊滅させたのだ。
ヤリヤル城塞都市に住む人々は、もう、『犬の肉球』が復活するのかと、お祭り騒ぎ。
ハマオカ王国との戦争に参加してたガリム王国の兵士1万人と共に、塩田郎達が、『犬の肉球』のホームであるヤリヤル城塞都市に凱旋すると、大歓声出迎えられる。
「エリスちゃーん!」
「シャンティー様ーー!」
「オイ! どうやら、ムネオン様が、犬の肉球に参加するらしいぞ!」
「嘘だろ! それ大ニュースじゃね?!」
「ムネオン様、最近、息子に王位を譲って暇そうだったから、丁度、良かったんじゃねーのか?」
「ウォォォォーー!ムネオン様ーー!最高ーー!」
「勇者の血筋で、無駄に丈夫なムネオン様が入ったら、安泰じゃーー!」
「ムネオン様ぁーー! エリスちゃんを、守って上げて!」
「遂に、犬の肉球の復活だーー!!」
なんか、エリスとシャンティーとムネオの人気が、やたらと高い。
「けっ! 何でい! 俺が、ハマオカ軍を、一人で倒したっちゅーの!」
塩田郎は、ヤリヤル城塞都市に戻ってから、とてもいじけている。
塩田郎的には、自分が一番、ヤリヤルの人々に賞賛されると思っていたのだ。
今回は、初めて、表立って戦闘に参加した。
しかも、敵を殆ど一人で倒したのである。
塩田郎は、とても賞賛されたかったのだ。
なにせ、塩田郎は、幕末京都時代も裏方の人間で、目立った事が一度もないのである。
たまに目立ちたい。それなのに……。
「塩田郎! そうめげるでない。ガリム王国の兵士達は、みんなお主の活躍を見とるでのう!
ワシも、お主の活躍を、しかと見届けた。近々、ガリム王国から勲章も贈られる筈じゃぞ!」
結構、筋肉隆々でガタイが良い、ムネオが塩田郎の頭をガシガシしてくる。
「本当かよ?」
「ガッハッハッハッ! 本当じゃ! なにせ、ガリム王国の先王である、このムネオンが言っておるのだからのう!」
ムネオは、結構、豪快な人物であるようだ。
シャンティーに対してだけは、何か弱みを握られてるのか、低姿勢だけど。
「ムネオ! 兵士を早くガレリオンに帰らせなさいな!
1万の兵士を連れて、冒険者ギルド会館に入れないんだからね!」
シャンティーが、ムネオに強めに命令する。
「承知しました! シャンティー殿!」
ムネオは、突然、低姿勢になり、急いで兵達に指示を出す。
「変わり身、早っ! ムネオさん! どんだけシャンティーに弱味を握られんだよ!」
「ムネオの事は、赤ちゃんの時から知ってるのよ!
ムネオの弱味なんか、100や200は握ってるわよ!」
シャンティーは、エッヘンと胸を張る。
「そこは、否定するとこじゃねーのか……」
「バカね! 私がガリム王国を裏で牛耳ってるのは、ガリム王国では周知の事実よ!
今更、わざわざ、国民に隠す必要なんかないわ!」
「だからって、先王を顎で使うって……」
「アンタね、黒龍を東の大陸に追いやった『犬の肉球』は、西の大陸では英雄なのよ!
ハッキリ言って、ガリム王国の王様より地位は高いのよ!」
「だけれども、ムネオさんも、『犬の肉球』のメンバーかなんかの末裔なんだろ?」
「アンタね。オリジナルメンバーが、一番偉いに決まってるじゃない!
しかも、ガリム王国には、抑止力として、ヤリヤル城塞都市に居て上げてるんだから、感謝して貰いたい程だわ!」
「抑止力って、お前、何もしてないだろ!」
「『静寂の森』の姫のエリスが居るだけでも、抑止力になるのよ!」
シャンティーは、完全に他力本願なのに偉そうだ。
「まあ、ガリム王国の中では、『犬の肉球』は、抑止力で、尊敬の対象って、事で合ってるんだよな?」
「そう! その『犬の肉球』のアタッカーで、エースがアンタ!
うちら『犬の肉球』が、今迄、喉から手が出る程、欲しかった人材よ!
どんだけ、南の大陸のハラダ家の侍を引き抜きたかったか……。
あの一族は、やたらと剣神、剣聖を排出するからね。
『犬の肉球』のアタッカーは、最低でも剣聖レベル。剣帝では駄目なのよ!」
「だったら、俺が剣神になってやんよ!」
塩田郎は、自信満々にドン!と胸を叩く。
「無理ね。今の剣神は、剣姫ハラダ・ハナ。剣の神の愛されし姫。
ここ数百年で、最高の剣神なのよ!
しかも、何百年ぶりかに、ガブリエルが、新たに『犬の尻尾』に加入させた逸材。
剣姫ハラダ・ハナが、ハラダ家から産まれたのに合わせて、塩田郎を異世界から転移させたと言っても過言では無いんだからね!」
「それがどうしたよ。俺は、魑魅魍魎が蔓延る京都で、その人有りと言われた伝説の人斬りだぜ?
修羅場をくぐってきた場数が違うちゅーの!
どんな奴でも、必ず叩き斬ってやんよ!」
塩田郎は、剣呑目付きでシャンティーに言い切った。
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