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26. 浅黒ハゲ男
しおりを挟む塩太郎とシャンティーが、味方陣地に侵入すると、どこかで見た事あるような顔をした、浅黒い肌のツルッパゲが、並走して来た。
「シャンティー! なんかヤバそうなオッサンが隣を走ってんだけど……」
「その子は、ムネオン。通称ムネオ! 私の下僕よ!」
「ムネオンって、この国の先王じゃなかったのかよ?」
「アンタ、私が何歳だと思ってるの?
私は、この子が赤ん坊の頃から、面倒みてんの!
というか、実質、ガリム王国は、私の国ね!」
腹黒シャンティーが、また、訳の分からん事を言っている。
「結局、友達の国に居候してる内に、みんな死んじまって、最終的に、一番古株だったお前が、一番偉くなっちまったって話だろ?」
「まあ、そんなとこね。でも私、一応、ガリム王国の軍事顧問だし!」
シャンティーは、悪びれる事もなく認めた。というか、軍事顧問?
「軍事顧問って……お前、そんな事もやってるのかよ!」
「最近、『犬の肉球』の活動がやれてないから、殆ど、ガリム王国の軍事顧問の方がメインね!
まあ、結構、ハマオカ王国がちょっかいかけてくるから、今は、こっちの方が忙しいかも」
シャンティーは、事も無げに答える。
「シャンティー殿。その男は、ナニモンですじゃ?」
塩太郎の事を、値踏みをするように見ていた、ダンディーだけど、ツルッパゲのオッサンがシャンティーに質問してきた。
「聞いて驚きなさい! この子は、ガブリエルが召喚した勇者候補!
南の大陸で、ガブリエルから強奪してきてやったわ!」
「なんと!」
「へへへへへ。凄いでしょ!」
ガブリエルから、強奪できた事がよっぽど嬉しかったのか、ルンルン気分でムネオンの前で、エッヘンとする。
「して、ガブリエルからどうやって逃げて来たんですじゃ?」
ムネオンは、真顔で聞く。
「そんなの、私にビビって、ガブリエルが逃げてったに決まってるじゃない!」
シャンティーは、どう考えても分かる嘘を、ムネオンに突き通そうとする。
しかし、
「違うぞ。赤龍アリエッタに、助けてもらったんだよな!」
塩太郎は、本当の事を暴露してやる。
そうしないと、話が進まないし。
「成程、アリエッタ殿に!」
ムネオンは、合点がいったと納得する。
「アンタ! 何でバラすのよ!」
「どうせ、バレるだろうが!というか、今は、そんなこと話してる場合じゃないだろ!」
そう、今から戦争するって時に、何の話しをしてるんだ?って事。
塩田郎に言わせれば、戦前に緊張感が無さ過ぎるのだ。
「して、軍師殿、どのような作戦をお立てになったんですじゃ?
相手方のハマオカ王国軍には、どうやら、黒龍王国の貴族が紛れておって、こちら側の魔法攻撃を全て弾かれてしまっておるんじゃが……」
ムネオンが、軍事顧問にお伺いをたてる。
「知ってる。さっき、エリスの精霊に魔法攻撃させたけど、全部弾かれてたもんね!」
シャンティーは、アッケラカンと答える。
「それで、どうするのですじゃ? もうすぐ、敵陣に突入してしまいますぞ?」
「作戦は、この佐藤 塩太郎の突撃よ!
ムネオは、塩田郎が撃ち漏らした敵をやっつけなさい!」
「ん? シャンティー殿。この塩太郎なる男は、それ程の男なのですか?」
塩田郎の値踏みをしていたムネオンは、首を捻る。
どうやら塩田郎は、ムネオンの眼鏡にかなっていなかったようである。
「当たり前よ! なんたって、わざわざ、ガブリエルが、ベルゼブブ討伐の為に異世界から呼び寄せた勇者候補よ!
弱いなんて事、有り得ないのよ!」
「なんと!?」
「だけど、私から言わしたら、まだまだだから、この戦争を使って、塩太郎を鍛えるのよ!」
「成程、承知した!」
ムネオンこと、ムネオは、シャンティーの言葉を、何も疑う事なく快諾した。
塩田郎は、ムネオの眼鏡にかなってなかった筈なのに。
というか、承知した!って、何故に、シャンティーの言葉を、全て鵜呑みにするのだろう。
塩田郎には、疑問も無しに、シャンティーの言葉を全て受け入れるムネオが理解できない。
まあ、子供の頃からの知り合いらしいから、腹黒シャンティーに、何か弱みを握られてるのかもしれないけどね。
「じゃあ、そう言う事だから、殺りなさい!」
シャンティーは、当たり前のように、塩田郎に命令する。
「何で、お前が命令するんだよ!」
「私が、ガリム王国の軍事顧問だからよ!
戦場では、上官の命令が絶対!私、なんか間違ってる?」
「確かに、間違ってねーな……」
塩太郎は、思わず納得する。
戦の場で、上官の命令を無視するのは、日本でも切腹ものの重罪だし。
「じゃあ、とっとと殺りなさいな!」
シャンティーは、改めて、塩田郎に命令した。
「ああ。見てやがれ! 魔都、京都で、伝説の人斬りと恐れられていた、この俺様の実力を見せてやるぜ!」
大義名分は、どう考えてもガリム王国にある。
だって、ハマオカ王国が、領土を侵略してきているのだから。
幕末出身の塩太郎は、絶対に開国?を迫る侵略者を許さないのである。
まあ、ドラゴニュートは、東の海の向こうからの侵略者なので、塩田郎から見たら、にっくき夷狄アメリカ人と同じなのだ。
塩太郎は、スピードを落とすこと無く、走りながら抜刀し、進行に邪魔な敵兵を5人、纏めて叩き斬る。
「盾ごと叩き斬るとは! 塩田郎! お主、中々やるな!」
長州藩が誇る猪武者、来島又兵衛に少しだけ似てる、ムネオが驚愕してる。
どうやらムネオは、見た事をそのまま評価する人間であるようだ。
塩田郎は、長州の先輩、来島又兵衛を、物凄く尊敬してたので、少しだけテンションが上がる。
「凄いでしょ! 異世界に来て、独学で闘気を身につけちゃってたのよ!
しかも、SSSS未攻略ダンジョンの下層で、1ヶ月も、ポーションを使わずに生きてたんだから!」
何故か、シャンティーも興奮している。
「な……なんと……」
来島又兵衛じゃなくて、ムネオが驚愕する。
「それでね! この子、姫ポーションを何個も持ってたんだけど、腐った水と勘違いして、一切飲んでなかったのよ! アッハッハッハッハッ! ほんと笑える!」
シャンティーは、戦中だというのに緊張感なく大笑い。
「しかし、SSSS未攻略ダンジョンの下層を、1ヶ月間もポーション無しで生き抜くとは、こやつ、只者じゃないですな……」
どうやら、又兵衛じゃなくて、ムネオも、塩田郎の異常さに気付いたようだ。
「只者じゃないから、ガブリエルから奪ったのよ!
ムネオ! アンタ、どうせ、この戦争が終わったら暇でしょ!」
「王の座は退いたから、暇と言えば暇ですが……」
「だったらアンタ、『犬の肉球』に入んなさいな!団長の座が空いてるから!」
なんかよく分からんが、戦争の最中だというのに、シャンティーが、ムネオを、『犬の肉球』に勧誘し始める。
「えぇぇぇーー! 『犬の肉球』を、復活させるのですか!!
剣術の才能が無さ過ぎるといって、今迄、どんなにお願いしても、『犬の肉球』に入れてくれなかったのに!しかも、ワシが団長って!!」
流石のムネオも、目ん玉飛び出してびっくり仰天してる。
というか、緊張感溢れる戦争の最中に、冒険者パーティーの勧誘って……。
「当たり前じゃない! アンタ、剣術の才能、これっぽっちも無かったのよ!
アンタは、塩田郎見つけたから、盾役として採用してやるの!」
「しかし、ワシが団長ですか?」
流石のムネオも、困惑している。
「 アンタの祖先が、『犬の肉球』の初代団長だから、同じ血筋のアンタが団長するのが、筋ってもんよ!」
シャンティーは、当然とばかりに断言する。
「しかし、エリス殿とか、シャンティー殿とか、『犬の肉球』のオリジナルメンバーが、まだ、残って居るでは有りませんか!」
「エリスは、元々、子供の時に、マスコット枠で、『犬の肉球』に入団してるの!
そして、私は、エリスの使い魔! おわかり?」
「でも、エリス殿……もう、マスコットって歳じゃないでしょうに……」
「アンタ、エリスが団長なんか出来ると思ってんの!」
「それは……」
ムネオは口篭る。ムネオから見ても、いつもボーーッとしてる、エリスが団長になるのは無理だと思ったのだろう。
「だから、アンタが団長で、塩太郎が副団長! これで、『犬の肉球』を復活させれるわ!」
シャンティーは、どうよ!とばかりに無い胸を張る。
「えぇぇぇーー! 伝統ある『犬の肉球』の副団長に、新参者にやらせるんですかーー!!」
流石のムネオも、新参者の塩田郎を、いきなり副団長に据えようとするシャンティーの考えが、理解できないようだ。
「なんか文句あんの? 塩太郎を『犬の肉球』の副団長に据えれば、流石に、ガブリエルも返せって言えなくなるでしょ!」
私ってば、頭いいでしょ! とばかりに、腹黒シャンティーは、倒れんばかりに、無い胸を反ってふんぞり返る。
まあ、飛んでるので、絶対に倒れはしないのだけど。
「成程、そこでしたか……」
ムネオは、合点がいったとばかりに、シャンティーの二つ名が『腹黒』だという事を、改めて思い出したのだった。
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