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23. 青ざめる女
しおりを挟む西の大陸は、南の大陸から見ると、丁度、真上に位置する巨大な大陸である。
中央には、エルフが治める『静寂の森』。北側には、ドワーフが治めるドワーフ王国もあり、結構、亜人も住んでいたりする。
因みに、400年前に起こった、『黒龍戦争』は、亜人排斥を掲げる東の大陸と、亜人を擁護する西の大陸で起こった宗教戦争であると言われている。
当時、黒龍は、西の大陸の『静寂の森』の3分の1を焼き払ったと言われ、それを見かねた、当時、『南の大陸』で冒険者稼業をしていた『犬の肉球』と、赤龍アリエッタ、大賢者モッコリーナが手を組み、見事、黒龍を東の大陸まで追い払う事に成功したのだ。
そんでもって、塩太郎達が向かっているガリム王国は、西の大陸の東側の海沿いにある小国で、勇者だった『犬の肉球』初代団長の出身地でもある。
「アレが、ガリム王国の王都ガレリオンよ!」
シャンティーが、赤龍アリエッタの背中の上から、地上を指差す。
「ふ~ん。南の大陸みたいに、ガッチガチの城塞都市じゃないんだな……」
ガレリオンも、一応、城塞都市なのだが、城塞の外にまで街が拡がってるのだ。
「南の大陸みたいに、ダンジョンだらけじゃないし、そもそも滅多にスタンピードとか起きないから、それ程、城塞も重要じゃないのよ」
「外に、危険な魔物がいないって事か?」
「ふぁ~。そういう事よ」
シャンティーは、欠伸をしながら返事をする。
「というか、王都過ぎてくぞ?」
塩太郎は不思議に思い、シャンティーに質問する。
「今回の目的地は、ガリム王国北部にある、『犬の肉球』のホームの城塞都市ヤリヤルに向かってるから、後、1時間くらい掛かるわね……」
「ふ~ん。そういう事ね」
因みに、ガリム王国の北に位置するヤリヤル城塞都市は、ハマオカ王国から国土を護る、防衛の要所である。
『犬の肉球』が、ヤリヤルをホームにしてる理由の一つに、東の大陸の影響力が強い、ハマオカ王国から、ガリム王国を護るという使命もあるのだ。
ん?休業中の『犬の肉球』には、国防なんて大それた事、無理じゃないかって?
そんな事ない。
『犬の肉球』のエリスは、腐っても西の大陸の大国、『静寂の森』のお姫様。
それなりの抑止力を持ってるのだ。
しかも、『犬の肉球』のOBには、現ドワーフ王国の王様まで居る。
『犬の肉球』が、ヤリヤル城塞都市に居るだけで、抑止力が効きまくっているのである。
そして、気持ち良い潮風にうたれる事、1時間。海岸線をアリエッタに乗って飛行してると、
「ヤリヤル城塞都市が、見えて来たのじゃ」
赤龍アリエッタが、背中の塩太郎達に声を掛けてきた。
「ふーん。アレが目的地のヤリヤル城塞都市か。やっぱり、南の大陸にある城塞都市と比べて、ショボイのな」
塩太郎は、率直な感想を口にする。
「そんなの当たり前よ。 南の大陸に、どれだけのSS級を越えるダンジョンがあって、どれだけの魔王、大魔王、ダンジョンマスター、剣神、剣聖、剣帝、拳王、大魔法使い、英雄、勇者が居ると思ってんの!
南の大陸には、ダンジョンのお宝を求めて、各大陸から腕に覚えがある猛者が集まって来てるのよ!
ヤバいスタンピードも頻繁に起こるから、普通の城塞都市も、S級モンスターが攻撃して来ても、ビクともしない作りになってんの!」
先程まで、いびきをかいて寝ていたシャンティーが、いつの間にか起きていて説明する。
「やっぱり、南の大陸って、ヤバい所だったんだな……」
「そうよ! 黒龍も、『南の大陸』を攻めるのは、二の足を踏んだと言われてるくらいなんだから!」
まあ、確かに、カブリエルやアンは凄かった。
正直、今の塩太郎では、全く勝てる気がしない。
そんなガブリエルを、歯牙にもかけずに黙らす赤龍アリエッタは、どんだけ凄いんだって話だ。
というか、ガブリエルやシャンティーが、必死になって倒そうとしてる、悪魔ベルデブブも、赤龍アリエッタが倒してしまえばいいんじゃね?
とか、塩太郎が考えてると、
「ヤリヤル城塞都市を少し過ぎた、ハマオカ王国との国境付近で、戦をやってるようじゃぞ?」
赤龍アリエッタが、目を細めながら塩太郎達に報告する。
「チッ! 私とエリスが、南の大陸に遠征に出掛けてる隙を突かれたか!
アリエッタ! 取り敢えず、ヤリヤルに降ろして、今の状況を収集する!」
シャンティーは、すぐさま指示を出す。
「エッ? アリエッタに、気散らしてもらった方が早いんじゃないのか?」
塩田郎は、思った事を口にする。
「妾は、人間同士のイザコザには、基本首は突っ込まぬのじゃ」
アリエッタは、淡々と答える。
「エリスとガブリエルの問題には、思いっきり、首をつっこんでるじゃねーかよ?」
「エリスとガブリエルは、別じゃ。
エルフ族の王族と、ダークエルフ族の王族を死なせる訳にはいかんからのう」
「意味が分からないんだけど?」
「兎に角、妾が動くのは、エリスとガブリエル、それからこの世界のイレギュラーである、黒龍が出てきた時だけじゃ。人間同士の小競り合いは、我関せずじゃよ」
「エリスが、危険に晒されるじゃねーかよ!」
「それは、お主が何とかする問題じゃ!
お主と、エリスは、同じ『犬の肉球』の仲間なのじゃろ?」
「そ……それは、そうだが……」
アリエッタは、痛い所を突いてくる。
塩太郎は、蛤御門の変の時のように、仲間がむざむざ殺られる姿など、これ以上見たくないのだ。
「まあ、そういう事じゃ!」
赤龍アリエッタは、ヤリヤル城塞都市の正門前で、塩太郎達を降ろすと、そのまま北西の方に、飛んで行ってしまった。
アリエッタが居なくなってしまったなら、塩太郎の覚悟は決まる。
どう考えても、ハマオカ王国とやらが悪い。
何せ、ガリム王国は侵略されているのだから。
塩太郎は、幕末出身。黒船来航を経験してるので、異国の侵略にとても敏感なのだ。
「おい! シャンティー! どうするんだよ!
今から、戦に参戦するんだろ!」
「あんた、ちょっと黙ってなさい! 目が血走って、メッチャ怖いんだけど」
塩太郎は、どうやら戦と聞いて、興奮状態になってたようだ。
「シャンティー様!」
そうこうしてると、門から兵士が数十人出て来て、シャンティーとエリスを迎える。
「一体、どうなってんの!」
シャンティーは、偉そうに質問する。
「ハマオカ王国が、シャンティーさんとエリスさんが、南の大陸に出発したのを見計らって攻めて来たのです!」
「見れば分かる!で、戦況は?」
シャンティーは、矢継ぎ早に質問をする。
「ガリム王都から、先王ムネオン様が1万の兵を引き連れて、ハマオカ軍との戦闘に当たっておられます!」
「エッ? ムネオまで出張ってきてて、兵1万人?相手は、それ程の相手だと言うの?」
「ハッ! どうやら、ハマオカ軍には、黒龍王国の貴族共も混じってるようなんです!」
「嘘でしょ! 黒龍王国の貴族って、黒龍の息子達のドラゴニュートでしょ!
そんなの今迄、無かったじゃない!」
シャンティーの顔色が、急激に青ざめた。
ーーー
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