職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ

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22. うわばみの男

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 塩太郎達は、現在、赤龍アリエッタの背に乗り、西の大陸は、『犬の肉球』の本拠地、ガリム王国に向かっている。

 勿論、赤龍アリエッタは、人化を解いて、巨大な龍の姿に戻っている。

「絶対に、こいつが龍なんかと認めねー!
 どう見ても、デッカイ蜥蜴じゃねーかよ!」

 塩太郎は、アリエッタにボコボコに殴られ、顔をパンパンに腫らしながらも、自分の信念を曲げない。

 塩太郎は、幕末日本人。
 龍とは、蛇のような姿形で、手足はお飾り程度をイメージしている。
 それなのに、赤龍アリエッタが龍化した姿は、西洋の龍のそれ。
 どう見ても、塩太郎的にはデッカイ蜥蜴にしか見えないのだ。

「お主も、頭が固い男じゃな……というか、最高種である龍種を前にして、正面切って喧嘩を売ってくる人間など、初めてじゃわい!」

 赤龍アリエッタは、思いっきり、デッカイ蜥蜴とディスられているのに、なんだか気分が良さそうだ。
 まあ、南の大陸から飛び立つ前に、塩太郎をボコボコに殴ってるから、気も晴れてるのかもしれない。

「アリエッタ! 塩太郎は、結構、モノになりそうでしょ!」

 シャンティーも、機嫌が良さそうに、アリエッタに聞く。

「そうじゃな。根性だけなら、この世界一かもしれんな。
 フフフフフ。なにせ、妾に面と向かって、蜥蜴の尻尾女と言ってきた男は、今まで一人として居ないのじゃからな」

 アリエッタは、何が楽しいのか、笑っている。

「ケッ! 勝手に笑ってやがれ! こちとら、気合いが入った長州男児じゃい!
 どんな奴にも喧嘩は売るし、例え、負けると分かってる喧嘩でも、自分が正しいと思えば、誰にでも売るんだよ!」

 塩太郎は、師、吉田松蔭の辞世の句を体現して生きたいと、常日頃から思っている。

『かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂』

 正しいと思った事は、何があってもやり遂げる。
 それが、令和日本人なら論争にもならない、西洋のずんぐりむっくりした龍が、本当に龍なのか?デッカイ蜥蜴なのか?の、下らない論争であったとしても。

 塩太郎的に、己が知ってる格好良い龍が、ズングムックリの赤龍アリエッタとは、どうしても認められないのだ。
 だって、江戸っ子の火消しが背中に彫ってる龍のモンモンが、アリエッタのようなズングムックリした蜥蜴じゃ格好付かないし。

 そして、そんなどうでもいい己の信念を突き通す為に、塩太郎は、どう考えてもヤバ過ぎるアリエッタに、喧嘩を売る結果になってしまったのだ。

 まあ、完全に塩太郎が、師匠の吉田松蔭の言葉を履き違えているだけなのだけど。

 まあ、それぐらいイカレてないと、魑魅魍魎が巣食う幕末京都で、人斬り稼業などできないのだけどね。

「塩太郎ちゃんが言ってるのって、黒龍ちゃんみたいな龍の事を言ってるんだよね?」

 ボーと、話を聞いていたエリスが、突然、喋りだす。

「し……塩太郎ちゃんって……俺、子供じゃねーし。
 もう塩太郎君でいいから、呼び方、元に戻しやがれ!」

 エリスは、18歳の少女にしか見えないが、実際は458歳で、塩太郎の婆ちゃんより、年上のババアだ。

 本来、エリスからみたら、塩太郎は赤ちゃんみたいなものなので、塩太郎ちゃんと呼ぶのは正しい事かもしれない。
 確かに、塩太郎の婆ちゃんも、塩太郎の事を、塩太郎ちゃんと呼んでいた。
 だがしかし、見た目、自分より年下に見えるエリスに、ちゃん付けで呼ばれると、ブルッと、悪寒が走るのだ。

 戦闘中とかに、塩太郎ちゃんとか呼ばれでもしたら、思わず気が抜けて、敵に殺られてしまう可能性だってあるのだ。

「成程ね! 塩太郎が言ってるのは、黒龍みたいな奴の事を言ってるのね!
 確かに、アレは格好良いけど、黒龍の事を褒めるのは、西の大陸じゃ禁句よ!
 アイツは、西の大陸では、忌み嫌われた存在だから!」

 シャンティーが、エリスの言葉に乗っかる。

「黒龍? そいつは、蛇みたいな格好良い龍なのか?」

 ちゃん付け の件はスルーされたけど、塩太郎は、日本というか、東洋の龍に、姿形が似てる龍が居ると聞いて、興味が湧く。
 というか、ズングムックリのアリエッタじゃなくて、塩太郎が知ってる日本の龍を早く見て、お口直しならぬ、お目治ししたい気分だからだ。

「黒龍は、東の大陸の黒龍王国の王様。異世界からやって来た龍ね!」

 シャンティーが、端折って説明する。

「俺と同じで、異世界からやって来た龍?しかも、王様だと!!」

 塩太郎は、知らなかったのだ。
 異世界物語では、召喚されて来た勇者が、召喚した王国の姫と、魔王を倒してから結婚して、よくその国の王様になってしまう事を。
 はたまた、俺TUEEE勇者が、異世界でハーレムを作って異種族とS〇Xしまくる話が、よく有る話だという事を。
 もっと言うと、チート能力を持った異世界主人公は、王様にも、魔王にも、ヤリチンにも、なんにでもなれる事を。
 幕末出身の塩太郎は、勿論、知らなかったのである。

 そんな異世界あるあるは置いといて、シャンティーが黒龍についての説明を続ける。

「 400年前、西の大陸と東の大陸が戦争をしてた当時、東の大陸のとある大国が、停滞する戦争を終わらす為に、異世界から黒龍を召喚してしまったのよ!
 当然の事ながら、無理矢理召喚されて来た黒龍は怒り狂い、自分を召喚した国を、一瞬で滅ぼし、それだけでは飽き足らずに、私達が住む西の大陸にも攻めて来たの!」

「まあ、怒って当然だわな。いきなり、知らない世界に放り出されたら、誰だって怒るだろ!」

 塩太郎も、異世界のダンジョンの下層に、いきなり飛ばされた事を、今でも根に持ってる。
 それもあって、ガブリエルの元に行かなかっのも、理由の一つだったりする。

「でもって、怒り狂って、西の大陸まで攻めて来た黒龍を、東の大陸まで、再び追い払ったのが、私達、『犬の肉球』と、アリエッタ。そして、アリエッタの友達の大賢者モッコリーナを合わせた、所謂、勇者パーティーよ!」

 シャンティーは、エッヘンと無い胸を張る。

「スゲーじゃん! やっぱ、バッタモンのアリエッタと違って、本物の格好良い龍は違うよな!
 しかも、たった一匹で、『犬の肉球』と、プラス2人?を相手にして、倒されなかったって事だろ?」

 塩太郎は、興奮気味に捲し立て、黒龍を称える。

「妾の方が、どう見ても、黒龍より愛くるしくて可愛い龍じゃろ!
 あんなおぞましい蛇みたいな体、気持ち悪いだけじゃろが!」

 アリエッタが、黒龍に対抗意識を燃やしてるのか、話に入ってきた。

「俺は、蜥蜴のような龍じゃなくて、蛇みたいな龍が好きなんだよ!」

「塩太郎……蛇みたいな黒龍が好きって、お主……もしかして同性愛者なのか?」

 何を勘違いしたのか、アリエッタが驚愕している。

「同性愛者って……そもそも俺は、黒龍が、オスって事も知らねーよ!」

 塩太郎は、ウワバミのように、食入り気味に突っ込んだ。

 ーーー

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