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16. スタンピード
しおりを挟む辺りは、一面の荒野。
やたらと、魔物とかいう妖怪が現れ、塩太郎一行に襲いかかってくる。
「チキショー! どんだけ妖怪が居やがるんだよーー! 殺しても殺しても湧いて出やがる!」
西の大陸に向かう道すがら、塩太郎が、刀を振りながらブツクサ言う。
「仕方が無いでしょ! ここは何千ものダンジョンが乱立する南の大陸。どこかのダンジョンで、スタンピードでも起こってんでしょ!」
シャンティーが、事も無げに言う。
「スタンピード?」
塩太郎は、知らない。
異世界物語のお約束、スタンピードを。
どんな物語でも、序盤に一回は起こり、主人公が無双するイベントである。
「ええ。未攻略ダンジョンから魔物が溢れて、地上に溢れだすのよ」
シャンティーが、端折って説明する。
「大変じゃねーかよ!」
塩太郎は、焦る。
だって、あの紫タコ侍レベルの魔物が、地上に溢れてきたら大変だから。
幕末日本なら、人類滅亡するレベルである。
「ここは、ダンジョンが乱立する南の大陸だから、よくある事よ。
実際、どこの街も、スタンピードに備えて城壁を構える城塞都市にしてるし、それなりの兵力を備えてるから、私達が気にする必要なんて何も無いわ!」
「だったらいいか!」
塩太郎は知らない。
普通の異世界物語では、スタンピードなんて頻繁に起こらないという事を。
この大陸が、ダンジョンが乱立する冒険者の天国と言われる南の大陸だから、頻繁にスタンピードが起こる事を。
そして、流石に、スタンピードが発生したのを確認したら、最寄り街の冒険者ギルドに連絡しないといけない事を。
幕末出身の塩太郎は、知らなかった。
だけれども、
「しかし、これは流石に、近くの街とかに連絡しなくていいのか?」
日本出身で、真面目な所もある塩太郎は、一応、シャンティーに提案してみる。
「アンタ、分かってんの! 私達は、ガブリエルに見つからないように、街を避けて西の大陸に向かってんの!
街なんかに入ったら、本末転倒じゃない!
南の大陸にある冒険者ギルドは、全てガブリエルの息が掛かってるんだからね!
なんで、好き好んでガブリエルに私達の居場所を教えないといけないのよ!」
「それは、そうかもしれんけど、本当に大丈夫なのか?
アイツとか、相当、ヤバそうだけど……」
塩太郎は、スタンピードの発生源であろう、魔物が押し寄せてくる中心の方を指差す。
「ゲッ! アイツは、オーガジェネラル……。
まさか、スタンピードが起きてるのって、SSSSS未攻略ダンジョン?!」
なんか、シャンティーが焦り出した。
「ヤッパ、不味かったか?」
「不味いわよ! SS程度までなら兎も角、SSSSS未攻略ダンジョンのスタンピードを収める事が出来る人間なんて、限られてんのよ!」
「どういう事?」
「『犬の尻尾』が、出張ってくるわ!」
「それって、ヤバいのか?」
「ヤバい! ヤバい! ヤバいに決まってんでしょ!
『犬の尻尾』のガブリエルは、黒龍や赤龍に次ぐ最強の一角に数えられてんのよ!
そして、右腕のブリトニー・ゴトウ・ロマンチックと、左腕のアン・ゴトウ・ドラクエルも、本来なら最強の一角に数えられてもおかしくないんだけど、ガブリエルが名を連ねてるから辞退してんの!
そして、ガブリエルのペット、ケルベロスのペロも、黒龍、赤龍に次ぐ実力の神獣で、ブリトニー達と同じく、最強の一角に名を連ねるのを辞退してるの!」
「最強、最強って、最強がどんだけ居やがるんだよ! ていうか、最強がなんぼのもんじゃい!
俺は、今迄、最強という奴らを、全員斬ってきた最恐の人斬りだぜ!」
塩太郎は、対抗心を燃やし胸を張る。
「アンタ、アホ? ガブリエルは、本当に次元が違うのよ!
今のアンタじゃ、到底勝てる訳ないんだから!」
「やってみないと、分かんねーだろうがよ!」
「というか、私はガブリエルなんかと会いたくないの!
というか、エリスも殺させる訳にはいかないし、アンタも奪われたくないんだから!」
「お前……もしかして、俺の事が好きなのか?」
「断じて違う! 私が好きなのは、エリス!」
「お前……そっちの気があるのかよ?」
「ち……違うから! 私がエリスを好きなのは確かだけど、エリスの魔力が好きなの!」
「魔力が好きって、アル中みたいなもんか?」
「全然、違う!」
シャンティーが、前のめりで突っ込んできた。
「あのね。エリスの魔力は特別製なの!
豊潤というか、甘いというか、魔素総量も多く、世界中の精霊を虜にしてるんだから!
お陰で、殆どの有名な精霊は、エリスと契約したがり、そして、その殆どの精霊と契約するだけの魔素総量を持ってるのが、エリスが精霊アイドルと言われてる所以よ!」
「成程、エリスの魔力は阿片みたいなものなんだな?」
塩太郎は、幕末時代の知識で置き換える。
「阿片が何か知らないけど、兎に角、現在は、精霊魔術師 冬の時代と言われてる位なんだから!
なんてったって、殆どの大物精霊達が、こぞってエリスと契約してるから、残りは、二流、三流の精霊しか残ってないの。
精霊にとっても、エリスと契約する事がステータスになってるんだからね!」
なんか知らんが、シャンティーが無い胸を張って、エッヘンとしてる。
自身が、エリスと契約してるのを、もしかして誇っているのか?
「それはいいが、なんかヤバい奴が近付いてきてるみたいだぞ!
俺の両まつ毛が、全力でピクピクしてやがる」
塩太郎は、高速でピクピク動いてる、自分のまつ毛を指差す。
「何それ? もしかしてギャグ?」
「ギャグじゃねーよ! 俺はこれで何度も命を救われて来たんだ!」
「ていうか、どんだけまつ毛長いのよ!
それに、いちいち目が隠れるから、両目で高速ウインクしてる変態にしか見えないのよ!」
とか、話してるうちに、ドンドン空気が澱んで来て、辺りも薄暗くなって来る。
そして、薄暗かった空に浮かぶ雲の一部分が、徐々に赤く染まって来ると、
「な……なんか、ヤバそうだぞ! て?! えぇぇぇーー!!」
塩太郎が目にしたのは、上空に浮かぶ、燃え盛った直径30メートルはあろう、巨大な隕石が、自分達の方に向かって堕ちてきている所だった。
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