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14. 聖剣を持つ男

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 塩太郎は、無駄に強過ぎるエリスの精霊達に護られながら、3週間前に訪れた階段のある部屋の前に到着した。

「この部屋、さっき貸してあげたS級の冒険者ブレスレットがないと入れないからね!」

 シャンティーが、一々、説明してくる。

「何、言ってやがる! 俺はここから来たんだぜ!」

 塩太郎は、何気にブレスレットを外して、シャンティーに渡し、扉を開け部屋に入ろうとする。

 ドンッ!

 塩太郎は盛大に、透明な壁に頭をぶつけた。

「痛っ! 本当じゃねーか!」

「だから、言ったでしょ! フロアーボスを倒したら、階段がある部屋の上下階を、冒険者ブレスレットで結界を張るルールなの!
 因みに、この結界は、勇者か聖剣でしか斬ること出来ないから!」

 シャンティーは、まるで誰かに解説するかのように、説明してくる。

「ん?! コレ、斬れるものなのか?」

「会心の一撃を連発できる、ヤバイ奴らなら、斬れるわよ!」

「成程ね。そしたら試しに斬ってみるか!
 俺、こう見えて、剣の腕には自信があるかんな!」

 塩太郎は、腕をグルグル回し、ヤル気になっている。

「例えアンタでも、会心の一撃を連発出来ないでしょ!
 剣豪でもないんだし!」

「だから、お前、舐めてんのか?
 俺が、剣豪じゃないって?  俺は相当強い侍なんだけど?」

 塩太郎は、剣豪じゃないと何度も言われて、イラつく。

「あーー面倒臭い。だから、私は職業のこと言ってんだって!」

「俺の職業は、れっきとした侍で、柳生新陰流と、神道無念流の免許皆伝だっちゅーの! どう考えても、剣豪の部類じゃねーか!」

「ハイハイ。分かりましたよ。そしたら、剣豪さんの腕前を見せて下さいね!」

 シャンティーは、ハイハイ言いながら、軽く受け流す。

「チッ! 信じてやがらねーな!
 じゃあ、火縄銃をも打ち返す、俺の実力見せてやんよ!」

 塩太郎は、集中して居合の構えを取る。

 そして、

 スパン! と刀を斜めに振り抜き、そして、そのまま何事でもないように、カチンと、鞘にしまう。

「やっぱ、無理じゃない!」

 シャンティーは、そのまま破壊されずに残っている結界を見て、それ見た事かと話し掛けてくる。

「何、言ってやがる? 手応えは、しっかりあったぞ?」

 パキン!

 塩太郎が言い終わる間も無く、階段フロアーに張ってあった結界が割れる。

「エッ!? 嘘でしょ……結界が割れたの……。
 S級ブレスレットで張った結界は、剣豪スキルの『一撃』と、聖剣が2つ合わさって初めて斬り裂く事が出来るのよ!!」

「ほれみろ! やっぱり俺は、剣豪だろ?」

 塩太郎は、したり顔で胸を張る。

「アンタ! その刀見せなさいよ!」

「エッ? いいけど、お前、そのちっこい体で持てるのか?」

「持てないから、鞘から出して持ってろ!!」

 シャンティーは、自分の鞄の中から眼鏡のようなものを出して、まじまじ、塩太郎の愛剣 村正を見る。

「やっぱり! これ、聖剣じゃないの!」

 シャンティーは、驚愕している。

「聖剣って、これ、その辺の武器屋に売ってるただの村正だぞ?」

「あんたね! 人をたくさん殺し、魔力を溜め込んだ日本刀は、この世界では聖剣になると言われてんのよ!
 実際、ハラダ家が所有する政宗は、この世界に持ち込まれた当時はただの刀だったけど、20年経った後《のち》、いつの間にか聖剣になってたという伝説もあるのよ!
 それなのに、この世界に持ち込まれて、1ヶ月もしない内に、聖剣になるなんて、普通、有り得る事なの……。
 というか、アンタ、今、会心の一撃を放ったわよね!
 それ、普通、剣豪じゃないと放てないスキルだから!」

「なんか良く分からんけど、俺の村正が、たくさん人間の血を吸ってるのは確かだし、必殺の居合切りは、巨大な岩を真っ二つにした事も有るからな!」

 塩太郎は、鼻高々に言い放つ。

「ガブリエルが、異世界から助っ人を呼び寄せようとしてるという噂を聞いてたけど、聖剣まで持って来てるとは聞いてなかったわよ!
 これ、ちょっと不味いわね……。
 早く、塩太郎を『犬の肉球』に入れてしまわないと、ガブリエルが奪い返しにくるかもしれないわね……」

 なんか、シャンティーが、1人でブツブツ言っている。

「シャンティーちゃん。これからどうするの?」

 エリスが心配して、シャンティーに話し掛ける。

「直ぐに、西の大陸に戻るわよ!
 塩太郎の冒険者登録は、南の大陸のその辺の冒険者ギルドでやれば良いと思ってたけど、南の大陸は、ガブリエルの縄張り。
 どこに、間者が居るか分からないものね!」

 シャンティーは、そう言うと、すぐにS級冒険者ブレスレットを使って階段フロアーに結界を張り直し、そして、塩太郎の肩に止まり、階段を上るように指示を出す。

「着いたわよ!」

 階段を上がると、なんか、シャンティーが、ドヤ顔で塩太郎に話し掛けてくる。

「着いたわよ!って、ただ、階段上っただけだろうがよ!」

「何、言ってんの! 1階階段フロアーに転移したと言ってんの!
 もう1つ階段が有るでしょ! そこを上がんなさいよ!」

 シャンティーが、偉そうに指示を出してくる。

「て! 本当だ。もう1つ階段がある。ここは紫色タコ野郎が居た部屋じゃないのか?」

「だから、冒険者ブレスレットで、1階階段フロアーに転移したって言ってんでしょ!
 転移も知らないって、本当に、アンタ、異世界大好き日本人?」

「俺は、れっきとした日本人だっちゅーの!」

 塩太郎は、ブツブツ言いながらも、シャンティーに言われるまま、階段を上る。

 そして、階段の先にあった扉を開けると、そこには、

「嘘だろ……あれほど苦労したのに、こんな簡単に出られるなんて……」

 青空高い、緑の大地が広がっていたのだった。

 ーーー

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