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193. 寮対抗格闘技大会(15)

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「ゲホッ!」

 ナオミの蹴りが、アリスの腹にヒットする。

 龍の力を得たナオミの技は、一つ一つがとても重そうだ。

 バコ、ドカ、ズコ、バコ、ズコ、バコ。

 ナオミの連続攻撃は止まらない。
 アリスはナオミに、タコ殴りされている。
 身体能力の差がここまで広がると、最早、打つ手が無いのか。
 ここまでボコボコにされるアリスを、初めて見た。

 今までのアリスの戦いは、結局の所、身内との戦いばかりだったのだ。
 前の世界も含め、ここまでやられた事は無いだろう。

 何せアリスは、前の世界では最強の名を欲しいままにしてきた紅龍だったのだ。
 アマイモンによると、ベルゼブブより格上のルシファーとタメを張ってたらしいし。

「龍と言っても、この程度か?
 黒龍様やクロノス様と、比べる事も おこがましい。
 この程度なら、南の大陸の赤龍も大した事無さそうね」

「妾はまだしも、ひいばあ様を侮辱するのは許せないのじゃ!」

 ナオミの挑発に、アリスが反応する。

「口だけは、一丁前ね!」

 ナオミは、攻撃を緩めない。
 ナオミの強烈な右アッパーが、アリスの腹にヒットする。

「ゲホッ!」

 アリスは、内蔵がやられたのか、口から大量の血を吐いた。
 アリスは俺と同様、龍の血をひいているので、超回復能力を持っている筈だが、それ以上にナオミの攻撃が止まらないのだ。

「クッ! 兄様すまぬ」

 アリスが突然、俺に謝ると、俺は一気に倦怠感に襲われた。
 どうやらアリスに、俺の魔素の殆どを吸い取られたようだ。

 アリスの身体から、いつものアリスとは違う色の魔素が大量に溢れ出している。
 いつもなら赤黒い魔素なのだが、今日の魔素は、金色に見える。

 というか、この魔素の感じには、覚えがある。
 これは、お母さん。そう、エリスの魔素そのものだ。

「兄様、すまぬが魔素を借りたのじゃ」

 アリスは そう言うと、ナオミの攻撃を避け、そしてそのまま回し蹴りを食らわした。

 ズザザザザザザーン!

 ナオミは、そのままモッコリーナの結界にぶつかり、地面に落ちる。

『どう考えても、俺の魔素とは違うだろ!』

 今、アリスが発してる魔素は、俺の魔素とは全然違う。
 俺の魔素は、アリスの禍々しい赤黒い魔素と、エリスの魔素が混ざった魔素なのだ。
 割合でいうと、アリスの魔素が3、エリスの魔素が7といった所か。

 なので実際、俺が作ったポーションは、エリスが作ったポーションに及ばない。

 アリスの言ってる意味が、全然解らない。

『ご主人、解説しましょうか?』

 突然、全知全能君が話かけてきた。

『頼めます?』

『了解です!』

 どうやら、全知全能君が解説してくれるらしい。

『元々、ご主人がこの世界に産まれ落ちた時は、エリス様とアリス様の魔素が混じりあった感じの魔素だったんですけど、ご主人がアリス様を召還し、アリス様が実体を持った事により、ご主人は純粋なエルフの王族の魔素だけを、アリス様は赤龍アリエッタ様の魔素だけを受け継いだのです』

『へっ? という事は、俺はもしかして、エリスポーションを作ろうと思えば作れる訳?』

『頑張れば可能ですね!
 しかしアリス様は、ご主人の召喚獣ですので、アリス様の魔素は、ご主人の身体の中で、ご主人の魔素とブレンドされた状態で保管されています』

『言ってる意味が、解らないんだけど?』

『簡単に言うと、今までアリス様は、ご主人の魔素から、自分の魔素だけを抽出して使っていたんですね!』

『なんだって!』

『「なんだって!」 て、そう言う事ですから!
 因みに、魔素タンクであるご主人の体自体は、産まれたままの状態なので、エルフ王族の血と、アリエッタ様の血が大きく崩れると、倦怠感が訪れる仕様になってますから!』

『そうなの?』

『そうです!』

 よく分からんが、俺自身は今までと変わらなような気がするのだが。

 俺の魔素は、アリスを召還した事により、エルフ王家の魔素になったらしいが、実際には、俺の体自体が それを受け付けていないという事か……。
 正直、面倒臭い体になったものだ。

 そしてアリスの現在の状況は、アリスが俺の魔素まで吸収してしまったという状況みたいだ。

「何が起こったの?」

 ナオミが、ビックリした表情をして、何とか起き上がる。

 アリスは、してやったりとした顔をして、
「今の攻撃など、妾の本来の力の100分の1程の力じゃぞ。
 今は、訳あって元の力が使えないのじゃが、今の攻撃が避けられ無いようじゃと、お主の主であるという、黒龍とクロノスも大した事なさそうじゃな!
 ワッハッハッハッハッ!」

 アリスは、先程の意趣返しなのか、黒龍とクロノスの事を、高笑いしながら侮辱した。

「クッ! 貴様ぁ!」

 ナオミは、怒りの形相でアリスに突撃する。

 その攻撃を、アリスは何事でも無いように、平然と体捌きだけで避ける。

「お主は、何故、剣を捨てたのじゃ?
 剣士としてなら、まだ勝機があったかもしれないが、剣を持たない お主に勝機など無い!
 本物の格闘家に素手で挑んだ時点で、お主の負けは決まっていたのじゃ!」

 アリスさんも酷な事を言う……。
 龍の手に変化してしまった、ナオミに剣を持つ事など出来よう筈もない。

「クロノス様から頂いた、この手を侮辱するな!」

 ナオミは、鬼の形相で激昂する。

「強くなるにも、色々有るという事じゃ!
 妾も人の姿の時は、本来、魔法使いじゃが、しかし、『神道異界流』を身に付ける事によって、ここまで強くなれたのじゃ!」

 アリスは、無い胸を反らしてナオミに自慢した後、反撃にでる。

 素早い動きで、ナオミの懐に入り込み、肘打ちの要領でトンファーで打撃を与え、ナオミがよろけた所に、逆の手に持ったトンファーの柄で、トンファーパンチをお見舞いする。

 これだけでは、アリスのラッシュは終わらない。

 ナオミが倒れる前に、ナオミの髪を掴み起き上がらせ、そのまま反転しながら回し蹴りを食らわせて吹っ飛ばす。

 そして、倒れているナオミの方を向いて、その場で右フックの動きをすると、その勢いでトンファーが回転し、トンファーから斬撃波が放たれ、ナオミに向けて猛然と襲いかかる。

 斬撃波は、倒れているナオミに直撃し、吹っ飛ばされたナオミは、地面に倒れ、そのまま意識を失った。

 それと同時に、
「勝者! フェアリー寮アリス選手!」
 審判の魔女さんにより、アリスの勝ち名乗りが、サブ会場に響き渡る。

「ウオオォォォォォォ!」

「アリスちゃんが、勝ったぞ!」

「あんな小さな女の子が、副会長のナオミに勝つなんて!」

「『神道異界流』、凄い流派だ!」

「俺も『神道異界流』習ったら、アリスちゃんのように強くなれるかな?」

「これからの魔法使いは、接近戦も出来ないといけないんじゃないのか!
 実際に今回の試合なんて、魔法全く使って無いし」

「俺も『神道異界流』習おっかな。
 アリスちゃんが、手取り足取り教えてくれるんだろ!」

 どうやら、アリスの勝利と共に、『神道異界流』の評価も高まっているようだ。

 アリスの長くて尖った耳が、ピクピク動いている。『神道異界流』が認められて嬉しそうだ。

 そんなご機嫌なアリスだったが、突然、ハッ! とし、数秒間固まった。

 アリスは何かを思い出したのか、冒険者バックになっている、ジャージのポケットに手を突っ込んで、何やら探し始める。

 そして、大量のビラを取り出し、アリスに声援をおくってくれていたギャラリー、一人一人にビラを配りだした。

 あのビラには見覚えがある。

 アレは、『神道異界流』の入会案内である。

 ヤリヤルを出る時に、ケンセイから渡されていたのだ。

 というか、道場は、ヤリヤルにしか無いのにどうする気だ……。

 アリスは、一通り『神道異界流』の入会案内を配り終えた後、サブ会場の中央付近に空中浮遊で浮かび上がり、演説を始めた。

「あーあー……お集まり皆様方、サリス魔法学校のフェアリー寮前で、『神道異界流』の道場を開きますのじゃ!
 強くなりたい者や、ダイエットしたい者、運動不足を解消したい者、誰でもウェルカムなのじゃ!
 入会金は、破格の3000マーブル、月謝は1000マーブルなのじゃ!
 皆様方、『神道異界流』を何卒、お願い致しますのじゃ!」

 アリスは、サリス魔法学校内に、『神道異界流』の道場を開くと宣言してしまった。

 しかし、これは色々と大丈夫なのか?

 サリス魔法学校内で、『神道異界流』の道場を開く事もそうだし、入会金と月謝が安すぎる。

 この事が、お金に がめついケンセイ師匠に知られたら、絶対に一波乱起きるぞ!
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