193 / 222
193. 寮対抗格闘技大会(15)
しおりを挟む「ゲホッ!」
ナオミの蹴りが、アリスの腹にヒットする。
龍の力を得たナオミの技は、一つ一つがとても重そうだ。
バコ、ドカ、ズコ、バコ、ズコ、バコ。
ナオミの連続攻撃は止まらない。
アリスはナオミに、タコ殴りされている。
身体能力の差がここまで広がると、最早、打つ手が無いのか。
ここまでボコボコにされるアリスを、初めて見た。
今までのアリスの戦いは、結局の所、身内との戦いばかりだったのだ。
前の世界も含め、ここまでやられた事は無いだろう。
何せアリスは、前の世界では最強の名を欲しいままにしてきた紅龍だったのだ。
アマイモンによると、ベルゼブブより格上のルシファーとタメを張ってたらしいし。
「龍と言っても、この程度か?
黒龍様やクロノス様と、比べる事も おこがましい。
この程度なら、南の大陸の赤龍も大した事無さそうね」
「妾はまだしも、ひいばあ様を侮辱するのは許せないのじゃ!」
ナオミの挑発に、アリスが反応する。
「口だけは、一丁前ね!」
ナオミは、攻撃を緩めない。
ナオミの強烈な右アッパーが、アリスの腹にヒットする。
「ゲホッ!」
アリスは、内蔵がやられたのか、口から大量の血を吐いた。
アリスは俺と同様、龍の血をひいているので、超回復能力を持っている筈だが、それ以上にナオミの攻撃が止まらないのだ。
「クッ! 兄様すまぬ」
アリスが突然、俺に謝ると、俺は一気に倦怠感に襲われた。
どうやらアリスに、俺の魔素の殆どを吸い取られたようだ。
アリスの身体から、いつものアリスとは違う色の魔素が大量に溢れ出している。
いつもなら赤黒い魔素なのだが、今日の魔素は、金色に見える。
というか、この魔素の感じには、覚えがある。
これは、お母さん。そう、エリスの魔素そのものだ。
「兄様、すまぬが魔素を借りたのじゃ」
アリスは そう言うと、ナオミの攻撃を避け、そしてそのまま回し蹴りを食らわした。
ズザザザザザザーン!
ナオミは、そのままモッコリーナの結界にぶつかり、地面に落ちる。
『どう考えても、俺の魔素とは違うだろ!』
今、アリスが発してる魔素は、俺の魔素とは全然違う。
俺の魔素は、アリスの禍々しい赤黒い魔素と、エリスの魔素が混ざった魔素なのだ。
割合でいうと、アリスの魔素が3、エリスの魔素が7といった所か。
なので実際、俺が作ったポーションは、エリスが作ったポーションに及ばない。
アリスの言ってる意味が、全然解らない。
『ご主人、解説しましょうか?』
突然、全知全能君が話かけてきた。
『頼めます?』
『了解です!』
どうやら、全知全能君が解説してくれるらしい。
『元々、ご主人がこの世界に産まれ落ちた時は、エリス様とアリス様の魔素が混じりあった感じの魔素だったんですけど、ご主人がアリス様を召還し、アリス様が実体を持った事により、ご主人は純粋なエルフの王族の魔素だけを、アリス様は赤龍アリエッタ様の魔素だけを受け継いだのです』
『へっ? という事は、俺はもしかして、エリスポーションを作ろうと思えば作れる訳?』
『頑張れば可能ですね!
しかしアリス様は、ご主人の召喚獣ですので、アリス様の魔素は、ご主人の身体の中で、ご主人の魔素とブレンドされた状態で保管されています』
『言ってる意味が、解らないんだけど?』
『簡単に言うと、今までアリス様は、ご主人の魔素から、自分の魔素だけを抽出して使っていたんですね!』
『なんだって!』
『「なんだって!」 て、そう言う事ですから!
因みに、魔素タンクであるご主人の体自体は、産まれたままの状態なので、エルフ王族の血と、アリエッタ様の血が大きく崩れると、倦怠感が訪れる仕様になってますから!』
『そうなの?』
『そうです!』
よく分からんが、俺自身は今までと変わらなような気がするのだが。
俺の魔素は、アリスを召還した事により、エルフ王家の魔素になったらしいが、実際には、俺の体自体が それを受け付けていないという事か……。
正直、面倒臭い体になったものだ。
そしてアリスの現在の状況は、アリスが俺の魔素まで吸収してしまったという状況みたいだ。
「何が起こったの?」
ナオミが、ビックリした表情をして、何とか起き上がる。
アリスは、してやったりとした顔をして、
「今の攻撃など、妾の本来の力の100分の1程の力じゃぞ。
今は、訳あって元の力が使えないのじゃが、今の攻撃が避けられ無いようじゃと、お主の主であるという、黒龍とクロノスも大した事なさそうじゃな!
ワッハッハッハッハッ!」
アリスは、先程の意趣返しなのか、黒龍とクロノスの事を、高笑いしながら侮辱した。
「クッ! 貴様ぁ!」
ナオミは、怒りの形相でアリスに突撃する。
その攻撃を、アリスは何事でも無いように、平然と体捌きだけで避ける。
「お主は、何故、剣を捨てたのじゃ?
剣士としてなら、まだ勝機があったかもしれないが、剣を持たない お主に勝機など無い!
本物の格闘家に素手で挑んだ時点で、お主の負けは決まっていたのじゃ!」
アリスさんも酷な事を言う……。
龍の手に変化してしまった、ナオミに剣を持つ事など出来よう筈もない。
「クロノス様から頂いた、この手を侮辱するな!」
ナオミは、鬼の形相で激昂する。
「強くなるにも、色々有るという事じゃ!
妾も人の姿の時は、本来、魔法使いじゃが、しかし、『神道異界流』を身に付ける事によって、ここまで強くなれたのじゃ!」
アリスは、無い胸を反らしてナオミに自慢した後、反撃にでる。
素早い動きで、ナオミの懐に入り込み、肘打ちの要領でトンファーで打撃を与え、ナオミがよろけた所に、逆の手に持ったトンファーの柄で、トンファーパンチをお見舞いする。
これだけでは、アリスのラッシュは終わらない。
ナオミが倒れる前に、ナオミの髪を掴み起き上がらせ、そのまま反転しながら回し蹴りを食らわせて吹っ飛ばす。
そして、倒れているナオミの方を向いて、その場で右フックの動きをすると、その勢いでトンファーが回転し、トンファーから斬撃波が放たれ、ナオミに向けて猛然と襲いかかる。
斬撃波は、倒れているナオミに直撃し、吹っ飛ばされたナオミは、地面に倒れ、そのまま意識を失った。
それと同時に、
「勝者! フェアリー寮アリス選手!」
審判の魔女さんにより、アリスの勝ち名乗りが、サブ会場に響き渡る。
「ウオオォォォォォォ!」
「アリスちゃんが、勝ったぞ!」
「あんな小さな女の子が、副会長のナオミに勝つなんて!」
「『神道異界流』、凄い流派だ!」
「俺も『神道異界流』習ったら、アリスちゃんのように強くなれるかな?」
「これからの魔法使いは、接近戦も出来ないといけないんじゃないのか!
実際に今回の試合なんて、魔法全く使って無いし」
「俺も『神道異界流』習おっかな。
アリスちゃんが、手取り足取り教えてくれるんだろ!」
どうやら、アリスの勝利と共に、『神道異界流』の評価も高まっているようだ。
アリスの長くて尖った耳が、ピクピク動いている。『神道異界流』が認められて嬉しそうだ。
そんなご機嫌なアリスだったが、突然、ハッ! とし、数秒間固まった。
アリスは何かを思い出したのか、冒険者バックになっている、ジャージのポケットに手を突っ込んで、何やら探し始める。
そして、大量のビラを取り出し、アリスに声援をおくってくれていたギャラリー、一人一人にビラを配りだした。
あのビラには見覚えがある。
アレは、『神道異界流』の入会案内である。
ヤリヤルを出る時に、ケンセイから渡されていたのだ。
というか、道場は、ヤリヤルにしか無いのにどうする気だ……。
アリスは、一通り『神道異界流』の入会案内を配り終えた後、サブ会場の中央付近に空中浮遊で浮かび上がり、演説を始めた。
「あーあー……お集まり皆様方、サリス魔法学校のフェアリー寮前で、『神道異界流』の道場を開きますのじゃ!
強くなりたい者や、ダイエットしたい者、運動不足を解消したい者、誰でもウェルカムなのじゃ!
入会金は、破格の3000マーブル、月謝は1000マーブルなのじゃ!
皆様方、『神道異界流』を何卒、お願い致しますのじゃ!」
アリスは、サリス魔法学校内に、『神道異界流』の道場を開くと宣言してしまった。
しかし、これは色々と大丈夫なのか?
サリス魔法学校内で、『神道異界流』の道場を開く事もそうだし、入会金と月謝が安すぎる。
この事が、お金に がめついケンセイ師匠に知られたら、絶対に一波乱起きるぞ!
3
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
女神に冷遇された不遇スキル、実は無限成長の鍵だった
昼から山猫
ファンタジー
女神の加護でスキルを与えられる世界。主人公ラゼルが得たのは“不遇スキル”と揶揄される地味な能力だった。女神自身も「ハズレね」と吐き捨てるほど。しかし、そのスキルを地道に磨くと、なぜかあらゆる魔法や武技を吸収し、無限成長する力に変化。期待されていなかったラゼルは、その才能を見抜いてくれた美女剣士や巫女に助けられ、どん底から成り上がりを果たす。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる