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189. 寮対抗格闘技大会(11)
しおりを挟むサブ会場の試合の方も、シンディ選手の棄権により、ナオミ選手の勝ち抜きが決まっていたらしい。
まあ、ゴッデス寮同士の戦いだったので、次のアリスとの対戦の為にも、消耗しないでおくのは、良い作戦だと思う。
「次のメイン会場の試合ですが、ケルベロス寮のエロチック選手の棄権により、ケルベロス寮のブリトニー選手の勝ち抜けになりました!
サブ会場の試合は、ケルベロス寮のアン選手と、ケルベロス寮のタハラ選手の試合になります!」
どうやら、屋台が忙しいブリトニー達は、エロチックさんの棄権を最初から運営に伝えておいたようである。
というか、ブリトニーとなど、よっぽどのモノ好き以外は誰も戦いたくないだろう。
アンちゃんは、どうやら同じケルベロス寮同士の戦いになるのだが、しっかり試合はするようである。
「とりぁ~! そりゃ~!」
ケルベロス寮のタハラ選手が、必死に、アンちゃんに向けて魔法攻撃を仕掛けているが、アンちゃんの大盾に ことごとく阻まれてしまっている。
アンちゃんは、暫くタハラ選手の魔法攻撃を受け続けていたが、タハラ選手が魔素切れを起こす前に、タハラ選手の背後に超高速で移動して、首筋をトン!と、チョップしてタハラ選手の意識を刈り取った。
いわゆる、手刀での一撃とか、首トンとかいう技であろう。
漫画やアニメの技だと思っていたが、どうやら、実際に出来る技だったらしい。
流石は、アンちゃんである。
ここまでの試合は、順当に終わり、遂にシード選手のクロフォードと姫の登場である。
「メイン会場、ゴッデス寮ロールス選手対、同じくゴッデス寮クロノス選手!
サブ会場は、フェアリー寮ネム選手対、ケルベロス寮ガブリエル選手の試合になります!」
「ウオォォォォォォ!」
待ちに待った主役の登場に、会場のギャラリーから歓声が上がる。
「すみません! 今、ゴッデス寮のロールス選手から棄権の申し出がありましたので、ゴッデス寮のクロノス選手の勝ち抜きが決まりました!」
「ブゥー-------!」
運営のお姉さんのアナウンスを聞いた観
衆から、激しいブーイングが巻き起こる。
無理もない。楽しみに待ちわびてた去年の覇者の試合が、急遽お預けになったのだ。
ゴッデス寮同士の試合になるので、みんな、こうなる事は解っていたと思うが、いざ試合が無くなると、ブーイングの一つもしたくなるというものだ。
メイン会場の試合が中止になる事が分かると、一気に、サブ会場のネム王子と姫の試合を見ようと人が流れる。
「ネム王子! 頑張れよ!」
「姫様ぁー!」
ネム王子と、姫を応援する声援が、サブ会場を揺らす。
ネム王子は、女性だけではなく男性にも人気があるようだ。
それも、眉毛の濃い角刈りの男性が多いのは、気のせいか?
『カワウソの牙』のスイセイにも、気に入られてたし……。
どうやら、ネム王子はあちら側の人間にも人気がありそうだ。
「それでは、試合始め!」
審判の魔女さんの始まりの声で、試合が始まった。
完全なる格上の姫は、相手の様子を伺うとかでもなく、何もせずに つっ立っている。
まあ、ネム王子も俺の親戚なので、姫に殺される事は無いだろう。
「それでは行きますよ!」
ネム王子が、剣に闘気を纏わせ、姫に襲いかかる。
姫は、ネム王子の激しい斬撃を、事もなく易々と躱す。
姫の体捌きは、剣の達人を軽く凌いでいるのだ。
姫は、400年前にベルゼブブに殺された俺の仇を討つ為に、40年前まで、血の滲むような修行をし続けていたのである。
ネム王子も天才だが、姫は更にその上を行く天才なのだ。
その天才である姫が、360年の間、休まずに修行し続けたのだ。
たかが、10数年生きただけのネム王子が、姫に勝つ事など有り得ない。
姫は、余裕でネム王子の攻撃を躱し続ける。
「余裕ですね……」
「……」
ネム王子の問い掛けに、姫は無言だ。
そして、数秒後、
「右手だけ使いましょう」
多分、俺の親戚のネム王子の攻撃を避けるだけなのは、可哀想と思ったのか、姫は右手だけで相手をする事に決めたようだ。
「ありがとうございます」
ネム王子は、姫に一礼してから、剣を振りかぶって攻撃を仕掛ける。
姫はその攻撃を、右手で払い除ける。
「ウオオォォォォォォ!」
「漆黒の森の姫さん、ネム王子の剣を素手で払い除けたぞ!」
姫が、ネム王子の激しい斬撃を、涼しい顔で素手で払い除けた事に衝撃を受けたのか、ギャラリーが盛りあがっている。
産まれた時から、当たり前のように身体に闘気を張り続けている姫にとっては、何て事ないことなのだが、サリス魔法国家では凄い事に映るらしい。
ここが南の大陸なら、ケルベロス教の僧侶とかが、素手で剣を持った相手と戦う事など普通の事なので、誰も驚かないのだが、ここは魔法の国、サリス魔法国家なので珍しく感じるのだろう。
ネム王子は、続けざまに攻撃を続けるが、その攻撃の全てを、姫は右手だけで受け止める。
ネム王子の剣にも、結構練られた闘気が纏っていると思うが、姫のそれとは質が違いすぎるのだ。
「もっとやれると思ってたんですけどね……」
今まで、それ程努力をしなくても、勇者の末裔の血のお陰で、それなりに何でも出来てしまっていたネム王子の、初めての挫折だったかもしれない。
「貴方の年齢なら、まあまあですよ」
姫なりの気づかいだろう。
いつもだったら言葉など返さないで、重力魔法でぺっちゃんこだ。
というか、姫がちゃんと戦う事自体が珍しい。
「それでは、最後に僕が放てる最高の一撃を受けて下さい!」
そう言うと、ネム王子が、剣を鞘にしまった。
多分、『一撃』を放つのだろう。
姫は無防備に、ネム王子の攻撃を待っている。
「一撃!」
ネム王子は叫びながら、姫に斬りつける。
しかし、ネム王子の渾身の一撃を、姫は、人差し指と親指で摘んでみせた。
そして、軽く捻る。
パキッ!
ネム王子の剣は、まるで板チョコのように割れてしまった。
「ま……参りました!」
ネム王子は、負けを認めて土下座する。
「ウオオォォォォォォ……!」
「漆黒の森の姫さん、指で剣を折っちまったぞ!」
「ガブリエル·ゴトウ·ツゥペシュ、その強さ、噂に嘘偽り無し!」
「キャァー! 姫様ぁ~!」
暫くの間、姫を称える歓声が、サリス魔法学校中に響き渡る。
まあ、姫なら当然であろう。
何せ、姫は、正真正銘、本物の最強の一角なのだから!
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