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89. 始まりの魔女

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「それでは、妾に乗っていくワン!」

 俺の首に巻き付いていたブリジアが、飛び降り、巨大な二股の銀狼に変身した。

 それを見ていたペロちゃんも巨大化する。

「凄いのじゃ!兄様のオナペットのブリジアさんが、巨大な狼になったのじゃ!
 あちらの世界の大妖怪で、妾のお友達だった九尾の狐と遜色ない程に圧倒的なのじゃ!」

 アリスが興奮して、巨大な銀狼になったブリジアの周りを、グルグル飛び回っている。

「この姿が、妾の本当の正体じゃワン!」

 何故か、シャンティ先生が手を合わせて拝んでいる。
 シャンティ先生は、アリスに対してもそうだが、神獣に対して畏敬の念を持っているようだ。
 だとしたら、ペロちゃんも神獣なのだが……
 シャンティ先生は、ペロちゃんに対しては呼び捨てだ。

「シャンティ先生! シャンティ先生のブリジアに対する態度とペロちゃんに対しての違いは何ですか?」

 俺はとても気になり質問してみる。

「ブリジア様は、今はそれ程有名では御座いませんが、その昔、世界を震え上がらせた伝説級の神獣様なので御座います。
 一説によると、西の大陸と南の大陸の100を超える城塞都市を焼き尽くしたと言われております!

 唯一、ブリジア様に襲われて被害を間逃れた『漆黒の森』にあるイヌヤマという城塞都市は、その当時、たまたま神獣であるケルベロスを餌付けしていたらしく、成獣したケルベロス3匹がかりで、ブリジア様を追い払うのがやっとだったと言われております!
 因みに、それを機会にイヌヤマではケルベロスを守り神として祀られるようになり、ケルベロス教が成立したと言われております。
 そして、ペロに対しての私の態度なんですが、ペロが3歳だった子供の頃から知ってるので、その時の上下関係から、私の方が上の立場で話させてもらっています!」

 成程……それにしても100を超える城塞都市を焼き尽くすなんて、ブリジアは相当な悪者だったようだ。
 そんなブリジアをオナペットにしてた、俺の前前世のゴトウ·サイトは、一体どんな奴だったんだ……

「ご主人様、何か考え込んでおるようじゃが、昔の話なのじゃ。
 その当時は、妾の飼い主であった始まりの魔女様に捨てられたと思って、自暴自棄になっていたのだワン。
 現在は、改心して、冒険者ギルド筆頭職員など、ボランティアとかたくさんやっているのだワン」

 そうか……今はブリジアが改心しているのは分かったが、ちょくちょくブリジアの話しから出てくる、始まりの魔女というのが少し気になる。
 これ程の神獣であるブリジアをペットにしていた始まりの魔女とは一体何者なのだ。
 俺の前前世のゴトウ·サイトの方が、ブリジアをオナペットにしているので、もっと大概なのだが……

「ブリジア、始まりの魔女って何者なんだ?」

「それは第485ダンジョンに行く、道中に教えるワン!
 他の者達も、妾とペロに別れて背中に乗るのだワン!」

「父様! 父様は妾に乗るのじゃ!」

 紅龍であるお子様サイズだったアリスも巨大化する。

「オイオイ、女の子が私に乗ってとか、言い方が良くないぞ!
 それに、父親の俺に言ったら近親相関のように聞こえるだろ!」

 アレックスは、真剣な顔をしてアリスに注意している。

 取り敢えず、俺以外の『犬の肉球』のメンバーはアリスに、それ以外のガリム王国の騎士さんと冒険者さん達は、ブリジアとペロちゃんに別れて、第485ダンジョンに向かって出発した。

「マスター! 早く帰ってきて下さいなのです!」

 姫が必死になって、ブリジアの家のプールの前で手を振っている。

 ブリジア達がある程度飛ぶと、今いた居場所が分かってきた。

 どうやらブリジアのお家は、ジュリの新しい剣が売っていたドワーフ王国のお店も入っていた高級デーパート、『ウルフデパート』ムササビ本店の屋上だったようだ。

「ご主人様。それでは約束通り、始まりの魔女様の話をするワン!
 始まりの魔女とは、この世界の創成に関わったといわれる魔女の事だワン!
 妾は、まだ普通の子狼だった時に、魔女様に拾われてペットとして育てられたのだワン!
 そして、ご主人様の前前世ゴトウ·サイトは、魔女様の弟子だったと言われているワン!」

 前前世の俺は、始まりの魔女と深い関わりがあったようだ。
 ブリジアの話しは、まだまだ続く。

「先程、シャンティが話していた通り、妾は、1400年前突然お隠れになった魔女様に捨てられたと思って、癇癪を起こし、世界中を消し炭にしたワン!
 途中で、同じく魔女様の料理人だったガリクソンに諭され、2人で魔女様を探す旅を始めたのじゃワン!

 結果は思わしくなく、全く魔女様の手掛かりが得られなくて諦めかけていた時、始まりの魔女の弟子を名乗るゴトウ·サイトが、何も前触れもなく突然現れたのだワン!」

 ブリジアは、その時の様子を思い出したのか、声のトーンが1段上がる。

「そのゴトウ·サイトも、魔女様だけが使える魔法やスキル、魔女様が製作した『スキルスッポンソード』を操って、ガブリエルを助けた後、役目を果たしたように呆気なく死んでしまったのだワン」

 ブリジアはその当時の事を思い出したのか、先程上がった声のトーンが極限まで低くなる。

「しかし、ゴトウ·サイトの死の間際、ゴトウ·サイトと最後まで行動を共にした、ゴトウ·サイトのお付のデーモンメイドであったメリルが、念話で始まり魔女と、ゴトウ·サイトが話していたとの証言があったのだワン!

 メリルの証言によると、ゴトウ·サイトは間違いなく魔女様が、ガブリエルを助ける為に召喚させた人物である事。
 この世界で、エルフの王族とダークエルフの王族が途絶えると世界が滅びる可能性がある事。
 そして、ゴトウ·サイトは、ガブリエルとエリスを救い、2度も世界を救った真の勇者である事が分かったのだワン!」

 再び、俺達を乗せて空を飛んでいるブリジアの声が、イキイキとし始めた。

「実際に、50年前の冒険者ギルドの威信を掛けた通称『666ダンジョン殲滅レイド』の前にも、魔女様は、後に南の大陸で勇者と呼ばれるようになったサトウ·シオタロウの召喚にも、アマイモンを通じてガブリエルに手を貸したんじゃないかと言われているワン!」

「ちょっと待て! サトウ·シオタロウは、ガブリエルがこの世界に召喚させた人物なのか!?」
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