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212. ジャンキーの雄叫び

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 傷心のシンタローさんと、一緒にトイレから出ると、姫が1人で待っていた。

「マスター! 心配したのです!
 あまりにトイレから出て来るのが遅かったので、踏み込もうかと思っていた所なのです!」

 姫が涙目で俺の胸に飛び込んで来た。

 トイレから出て来るのが遅ければ、普通、ウンコだとは思わないのか……

 ウンコしている最中に、「マスター!」とか、叫ばれながら男子トイレに飛び込まれたら、微妙な空気になってしまう。

「姫、これからは、俺がトイレから中々出て来ない場合は、誰か男の人を呼んで確認して貰ってくれるか」

「ハイなのです!」

 姫は元気良く返事をする。

 俺は取り敢えず、姫の頭をモフモフ撫でてやった。

「アッ! それから『鷹の爪』の団長さんは、大吉爺さんの息子さんらしいぞ!」

「そうなのですか!
 挨拶が遅れて申し訳ないのです!
 ガブリエル·ツェペシュなのです」

 珍しく、姫の方から挨拶した。
 姫は、ゴドウ族以外には誰に対しても冷たいのだが、どういう訳か大吉爺さんにだけは懐いていたのだ。
 しかし、大吉爺さんの身内にまで優しいとは……

 姫は幼少期から面倒を見てもらっていたブリトニーに対してでも、最初に会った時には、ある程度しか心を開いていない気がしていたのだが、シンタローさんに対しては、殆ど初対面に近い感じの筈なのに、完全に心を開いているように見受けられる。

 違いはなんだ?
 シンタローさんの内から湧き出る魅力なのか?
 3頭身の状態のシンタローさんに、そんな魅力など、これっぽっちも感じないのだが……

 もしかしたら日本人の血が関係しているのかも。

 姫は、初めて俺に会った時も、俺が【魅了】を使う前から、『白馬の王子様が助けに来てくれた!』と、感じていたと言っていた。

 普通に考えれば、変態オナニー野郎にしか見えない筈なのにだ。

 実際に、初見でのブリトニーの俺に対する評価は、変態オナニー野郎だった。

 やはり姫は、何故だか知らないが、日本人に惚れやすい体質なのかもしれない。

「こちらこそ、挨拶が遅れて申し訳ございません。
 私は、原田大吉の息子、原田慎太郎でございます!」

 シンタローさんは、片膝をついて、形式上の臣下の礼をとる。

 姫は、当たり前の様にシンタローさんの頭をヨシヨシし、シンタローさんに回復魔法をかけた。

 すると、シロー爺さんの拳骨により3頭身に縮んでしまっていたシンタローさんの体が、元の8等身の体に戻った。

「おおぉぉぉー、こいつは凄い!
 これはシャンティーさんの回復魔法や、エリスさんのポーション並の効果があるのではないですか!
 流石は、我らの姫様だ!
 姫様もエリスさんのように、ポーションを作れば凄く儲かると思いますよ!
 というか、姫様が作ったポーションを『鷹の爪』に売って下さいませ!
『鷹の爪』は、現在、エリスさんのポーションを普通の販売価格の3倍の値段で買わされているのです!
 普通は、大口で買うと安くなるのが普通なのに、逆に高くするとか酷いですよね!
 その事についてシャンティーさんに抗議したら、『文句言うなら5倍の値段にするよ! 』と、逆に脅される始末です」

 先程も、シャンティーさんに、「アンタ達『鷹の爪』には、エリスのポーションを卸さないわよ!」と、脅されていた気がしたが、尚且つ、市場価格のの3倍の値段で買わされていたとは……
 シンタローさん可哀想すぎる。

「シンタローさん、既に姫はポーションを製作しているのですが、シャンティーさんにより、俺達の身内の者が使用する分と、俺達が経営しているダンジョンの景品としてしか、世に出したら駄目だと、約束させられているんです……
 俺としては、シンタローさんに売っても良いのですが、そんな事したら、俺もシャンティーさんに殺されてしまいます」

「……そうか、既にシャンティーさんに……」

 シンタローさんが、ガックリと膝を落とす。

 少しいたたまれないが、このままにしておく訳にもいかないので、ガックリとしているシンタローさんに肩を貸しながら集合場所に戻ると、姫はスタスタと既に集合していた『鷹の爪』のメンバーの方に歩いて行き、メンバー全員に何も言わずに回復魔法をかけた。

「うおおおぉぉぉーー!
 す……凄いぞ! 普通の高級ポーションや回復魔法では、完全回復まで1週間はかかるシローさんの拳骨が、エリスさんのポーション並に、一瞬で治ってしまったぞ!」

 何やら『鷹の爪』のメンバー全員が盛り上がっている。

「チッ」

 シャンティーさんが、舌打ちを打っている。

 多分、後からエリスさんのポーションを、高値で売りつけるつもりだったのだろう。

 シャンティーさんは、どこまで腹黒なのだ……

「「「姫様、有難うございます!」」」

 姫は、一瞬にして、『鷹の爪』のメンバー全員を虜にしたみたいだ。

「それでは、装備の点検もトイレも終わったようですので、そろそろダンジョンに移転しましょうか」

 ギルド職員のシロー爺さんが、そう言いながら移転用魔方陣に魔石をセットする。

「「「オオオーーー!!」」」

『鷹の爪』のメンバー達が、雄叫びを上げる。

 どれだけ、冒険大好きなのだ……

 よく見ると、エリスさんとアンちゃん、それから『三日月旅団』のムーン3姉妹も一緒になって拳を突き出し、雄叫びを上げていたのだった。
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