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103. 盟約

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『シルバーウルフ』はギルドランキング2位のいわゆる、大手ギルドという奴だ。

 総勢1200人、人数だけならナンバー1のギルドだ。

 しかし、本当に強いのは一軍だけで、それ以外は大した事はない。

 手当り次第に、新米冒険者をスカウトしては、過酷なギルドポイントのノルマを与え、少しでもギルドランキングを上げようと画策している。

 新米冒険者も、それが解っているのだが、大手ギルドに所属できるという誘惑からか、入団希望者は後を絶たない。

 そして『犬の尻尾』が潰した『ホワイトウルフ』なのだが、『シルバーウルフ』が冒険者ギルドで主導権を握る為に創設されたギルドだ。

 ギルドの申請に団長と副団長を冒険者ギルドに届けでないといけないのだが、『ホワイトウルフ』の場合、姫が『ホワイトウルフ』の団員を全て、闘気で圧殺してしまったので、繰越の別の団員による、新団長、新副団長を当てる事もできない。
 バハオウも、『ホワイトウルフ』に仮入団せずに『シルバーウルフ』として、手伝っていた為、実質団員が一人も居なくなり、『ホワイトウルフ』の復活は完全に不可能になってしまった。

『シルバーウルフ』としては、ギルドランキング10入り目前であった傘下である『ホワイトウルフ』を潰され、『犬の尻尾』に実益も、面子も潰された格好になってしまったのだ。

 そして、その実益と面子を潰した『犬の尻尾』が『ホワイトウルフ』が潰れた代わりに、ギルドランキング10位にランキングしてきたのだ。
『シルバーウルフ』としては、腸が煮えくり返り到底認める事ができない事案である。
 それに『犬の尻尾』をこれ以上放置してたら、他のギルドに舐められる。

 仮にも『シルバーウルフ』は、ランキング2位の大手ギルドなのだ。

 傘下の『ホワイトウルフ』が新鋭の『犬の尻尾』に潰された事で、人数だけ多いだけのヘタレギルドだという陰口も街で聞こえるようになってきている。

 それを打破する為にも『シルバーウルフ』は、『犬の尻尾』を完膚なきまでに叩き潰さないといけない状況にまで、追い込まれているのが実情なのだ。

 ーーー

「ガリクソン! 首尾はどうなっておるのじゃ!」

 モフウフの街から、歩きで30分程の距離にある城塞都市ペロンの最上級ホテルの一室で、銀髪、狼の耳、二股の尻尾が生えた、狼耳族と思われる妖艶な美人が、名前はガリクソンだが、筋肉隆々の大男にこれから始まるであろう、ギルド同士の戦争の首尾を聞いている。

「ハッ! 団長!斥候によると、『犬の尻尾』がアジトとしているという牛魔王が管理しているB級ダンジョン第83ダンジョンは、いつも通りに稼働しているようでございます!
 結界が張ってある、ミノタウロス牧場を運営しているという92階層まで、最高ランクがAクラスの魔物しか生息しておりませんので、2軍や3軍でも攻略可能となっております!
『犬の尻尾』の主要メンバーは、最下層を根城にしているとバハオウから情報を得ていますので、そのままミノタウロス牧場の結界を【一撃】で破壊していき、一気に最下層まで進軍し、『犬の尻尾』一派を、数の力で殲滅する作戦を立てております!
 問題があるとしてたら、牛魔王です。
 間違いなく『犬の尻尾』と繋がっている筈ですので、一緒に潰してしまうのが良いかと思われます!」

「で、『犬の尻尾』の戦力はどうなっておるのじゃ!」

「ハッ! 最大戦力は、バハオウを倒した。剣王ブリトニー·ロマンチックでございます!」

「バハオウは同じ剣王に、何故負けたのじゃ?」

 銀髪の妖艶な女は、二股の尻尾を振りながら、不思議そうにガリクソンに尋ねる。

「ブリトニー·ロマンチックは一時期、漆黒の森で暴れまくっていた、『血みどろの悪童ブリトニー』という二つ名を持っていたソロの冒険者です。
 13歳の時には、闘気も使えないのにS級の魔物を殴り倒していた言われています!
 余りの強さに、漆黒の森の王の目に留まり、若干14歳で、エリート中のエリートと言われる、漆黒の森の近衛騎士に抜擢されました。」

「それがどうした?同じ剣王で優越が変わる理由になるのか?」

 銀髪の女は、モフモフの片耳をコテンとさせて、ガリクソンに問う。

「変わりまする! ブリトニーは剣ではなく、拳でS級の魔物を殴り殺していたのです! ブリトニーは剣王であって、同時に拳王でもあるのです!
 剣を本格的に覚えたのは、近衛騎士になってからです!
 それまでは、無闇にデカいだけの木刀を格好いいという理由だけで振り回していただけだと言われています!」

「そうなのか……
 それ以外はどんな奴がおるのじゃ?」

「漆黒の森の元姫、ガブリエル·ツェペシュですね!」

「んッ? 漆黒の森の王族は、昔は凄かったが、最近のは、魔素総量が多いだけで、まともに魔法が使える者などいなかった筈じゃが?
 昔の王族の強さなら、北の大魔王などに遅れをとらなかったであろうにのう」

「それが、『犬の尻尾』の団長でもある、始まりの魔女の弟子という者が現れ、何らかの方法でガブリエルに魔法を使えるようにしたらしいのです!」

「始まりの魔女の弟子じゃと!
 始まりの魔女に弟子などおらぬ!
 そ奴は、始まりの魔女の名を利用する偽物じゃ!」

 銀髪の妖艶な美女は、突然怒り出し、怒声を上げた。

「し……しかし、不死の魔女ブリジア様!
 その始まりの魔女の弟子を名乗るゴトウ·サイトは、始まりの魔女の結界から現れたと言われています!
 実際に、1000年以上破られる事が無かった、始まりの魔女の結界が破られていたとの報告も挙がっておりますので……」

「あ……あの結界が破られていたのか?
 妾《わらわ》が、どうしても破る事ができなかったあの結界を……
 確かに、始まりの魔女と漆黒の森のダークエルフには、相互保護の盟約がある。
 ダークエルフに漆黒の森を管理をさせる代わりに、ダークエルフを末代まで守護するという盟約じゃ!
 その盟約を守る為に、始まりの魔女は、そのゴトウ·サイトという、始まりの魔女の弟子を名乗る男を、ダークエルフの正統血族であるガブリエルを護らせる為に、送り込んだという事なのか……」
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