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11. 作戦通り
しおりを挟む俺達は、ゴブリンに攫われていた女達を、村まで送り届ける事になった。
ここまでは、作戦通りだ。
これで、俺達が人間の世界に住む為の足掛かりができた。
女達に聞いた話によると、女達は近くの2つの村の出身者のようだ。
今回攫われてきた女達は、タチ村出身。
そして、前回攫われてきた女達がチチ村の出身者のようである。
しかし、タチ村の出身者の話だと、チチ村は、前回のゴブリンの襲撃により、村人全員ゴブリン共に皆殺しにされていて、もう誰も住んでいない廃村になっているとの事であった。
それを聞いたチチ村出身の女達2人は、その場で泣き崩れ号泣してしまった。
この世界では、よくある事だ。
俺達は、ありふれた慰めの言葉しかかけれない。
俺は取り敢えず、攫われていた女達を10人全員を【鑑定】する。
ゴブリンに孕まされていないか調べる為だ。
孕まされていたら、この場で外科手術をして取り除く。
俺の賢者魔法をもってすれば、腹をカッ捌いた後、直ぐに賢者ヒールを掛ければ、傷を残さず元通りに治す事ができるのだ。
【鑑定】で調べて見ると、7人の女が既にゴブリンに孕まされていた。
ゴブリンの性欲恐るべし。
ゴブリンに孕まされると、僅か1週間で赤ちゃんが産まれる。
ゴブリンに種付けされると、あっという間にお腹の中で赤ちゃんが育っていってしまうのだ。
俺は、麻痺魔法を掛け、その場で女達のお腹をカッ捌いて、ゴブリンの赤ちゃんのような物体を取り出し、すぐにお腹に賢者ヒールを掛けていく。
1人に掛かる時間は、およそ3分。
あっという間に、7人の外科手術が終わった。
「有難うございます!」
俺は女達に、何度も何度も泣きながら頭を下げられる。
話を聞く所によると、タチ村の襲撃は夜中に行われたようで、女達は全員、寝ている間にゴブリン達に攫われていたらしい。
昨日の襲撃には、ゴブリンメイジも参加していたので、もしかしたらスリープの魔法も併用して、村人達に気付かれないように女達を攫ってきたのかもしれない。
そこで俺が提案する。
「村の皆さん方が、お姉さん達がゴブリン達に犯されてる所を見ていなかったのであれば、お姉さん達はゴブリンに襲われる前に僕達に助けられた事にすればいいんじゃないですか?」
俺は前世の経験上、ゴブリンの巣穴で助けられた女達は、無事に家に帰れたとしても、近所の人達や家族達から蔑まれて、悲惨な人生を送ることになる事を知っている。
しかし、村の者達が見て居ないのであれば、証拠がない。
もし、ゴブリンに犯されていないと嘘を言っても、後からゴブリンの赤ちゃんが産まれてしまえば、バレてしまう。
だが今回の場合、俺の賢者魔法により、ゴブリンを妊娠していた女達の中絶手術は完璧に成功しているのだ。
「そう言って貰えると助かります」
タチ村出身の女達は、俺達に何度も何度も頭を下げて感謝の言葉を述べてくる。
俺は前世で賢者だった時には、これ程まで感謝された事が無かったので、どうして良いのか分からない。
マリーとニコを見てみると、
二人とも、初めて人に感謝された事が嬉しかったのか、何故か、女達と一緒になって涙を流しながら、「本当によがったですぅ~」とか、やっているし。
マリーとニコは、今まで、雄ゴブリン達に蔑まれながら生きてきたので、褒められる事に馴れていないのだろう。
取り敢えず俺達は、タチ村に女達を送り届ける事になった。
ゴブリン共に滅ぼされてしまったチチ村出身の二人の処遇は、タチ村に行ってから決めようと思う。
チチ村出身者の内1人は、自分達が住んでた村がゴブリンに滅ぼされたと聞いてから、気が触れてしまったのか、さっきからずっと笑い続けているのだ。
俺達はタチ村があるであろう、森の東側を進む。
「カイトちゃん、その赤ちゃんって、もしかして雌ゴブリン?」
森を歩いていると、俺の近くに人がいないのを見計らって、マリーが小声で話しかけてきた。
「そうだ。この子は俺達が育てる」
俺も小声でマリーに答える。
「カイト、名前はもう決めたの?」
ニコも、俺に近ずいてきて聞いてきた。
「そうだな……」
俺は、赤ちゃんの名前を考える。
「この子、カイトちゃんと一緒の黒髪だよね!」
マリーが楽しそうに、赤ちゃんのほっぺをぷにぷにしながら話す。
「黒髪だから、クロエなんてどうかな?」
続けてニコが、赤ちゃんの名前を提案する。
「クロエか。見たままんだが、意外と可愛い名前だな!」
「それじゃぁ、クロエで決まりね!」
ニコが速攻で、赤ちゃんの名前を決めてしまった。
俺はクロエを背中におんぶして、森を進む。
森では、定期的に魔物が俺達を襲ってくる。
実は、森の危険をアピールする為に、わざわざ【魔力感知】を使って、魔物がいる所を通り、倒しながら進んでいたりする。
「私達だけでは、絶対この漆黒の森を抜ける事は出来ませんでした!」
タチ村のリーダー格の赤髪の女性が、俺にお礼を言いながら話しかけてきた。
どうやらマリーやニコより、俺の方が話しやすいようだ。
エルフ族の中には、自分達を高貴な一族だと思っている者達もおり、そういう者達は、人間を蔑んでいたりするのだ。
マリーとニコは、本当はエルフではないので、全く人間を蔑んではいないのだけどね。
どうやら赤毛女の話によると、俺達の住んでいた森は『漆黒の森』と言うらしい。
薄々、そうじゃないかと思っていたのだが、これで完全に、俺達が現在いる場所を理解した。
漆黒の森は、クワトロ王国の西の辺境に位置する巨大な森だ。
一説によると、漆黒の森の中心にはエルフ族の王国があるのではと言われている。
しかし、漆黒の森はとても巨大で強力な魔物の住処になっている為、誰もそのエルフの王国を見た事がない。
たまに、漆黒の森からエルフが現れるので、そんな噂が流れているのだ。
現在、クワトロ王国や他の国にいるエルフ達は、殆ど、『静寂の森』と言われる大陸中央に位置する森の出身者達だ。
その者達から言わせれば、『漆黒の森』のエルフの噂は迷信で、エルフは『静寂の森』にしか居ないと言っている。
まあ、エルフでもない俺には、どうでも良い話なのだが。
そうこうしている内に、俺達は『漆黒の森』を抜ける。
どうやらタチ村は、前に人間を感知した人口200人程の村だったようだ。
俺達は草原を歩いて行き、木枠で囲まれた村の入口に到着した。
俺達に気付いた見張りの若者が、村の入口から慌てて走り寄ってきた。
「クレアさん! 無事だったんですか!」
その若者は、赤毛女に興奮しながら話しかける。
「大丈夫です! ゴブリンに襲われる寸前のところで、この方達に助けられたのです!」
赤毛女クレアに、俺達は紹介される。
「それはどうも有難うございます!」
若者は俺達に向かって、何度も何度もお礼を言う。
「クレアさん、お父様が心配されています!
早く屋敷に帰って安心させて下さいませ!」
どうやら、若者の感じからして、このクレアという赤毛女は、この村の実力者の娘のようである。
「そうね! お父様に私達の無事を報告して、マリーさん、ニコさん、カイトさんのお礼をしないといけないわね!」
俺達は、若者に誘導され、村の中で一際大きな御屋敷に案内された。
屋敷に入ると、そこではゴブリンに攫われた娘がいる者達や、村の男達が集まって、娘達を救い出しに行くかどうかを会議をしている最中であったようで、突然、ゴブリン達に攫われた筈のクレア達が現れた事により、みな驚き、歓喜の渦が広がった。
「お父様! この方達が、私達が襲われそうになった所を、危機一髪の所を救ってくれた命の恩人達です!」
クレアの紹介に、クレアの父親と思われる人物が俺達に頭を下げながら何度も何度もお礼を言ってくる。
「私はこのタチ村の村長で、クレアの父親のトマソンと申します!
この度は、娘と、村に住む娘達を救って頂き、大変感謝しております!
出来る限りのお礼はするつもりなので、なんなりと御要望下さいませ!」
『ヨシ! 上手くいった!』
俺は、心の中でほくそ笑む。
ゴブリンに攫われたのが、村長の娘だったクレアが含まれていたのもツイていた。
これで、うまいこと言って、この村に居座ってやるのだ!
俺は、マリーとニコと違って元人間だ。
まあ、今も人間だけど。
人間だった俺には、洞穴生活はキツ過ぎるのだ。
マリーとニコの復讐を成し遂げ、ゴブリン達からクレアを助け出した事により、人間の世界で生活する為の拠点を作る足掛かりまで出来た。
そうだな。
トマソンには、この村にある空き家とお金を少々貰って、『漆黒の森』で狩りでもしながら暮らせばいいかな。
凶悪の魔物だらけの『漆黒の森』で狩りを続ければ、レベルも上がるし。
そして勿論、大人になって実力を身に付けたら、必ず、俺を裏切って殺した奴らへの復讐も、忘れずにやるつもりだ。
俺の恨みが晴れる事など、絶対に無い。
何せ、殺された後、再びゴブリン共に殺されかけたのだ。
俺が【幻惑】スキルを咄嗟に使っていなかったら、2度続けて確実に死んでいた。
その後、マリーとニコに出会わなかったら、俺はそのまま醜悪なゴブリン共の巣穴で餓死して死んでいただろう。
俺は、たまたま運が良かっただけなのだ。
偶然と偶然が重なり、たまたま生き残る事が出来た。
そして、俺の不幸の始まりとなった、俺を裏切り、嵌めて俺を殺した元仲間の冒険者達は、絶対に許さないと心に決めている。
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