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82. 白虎
しおりを挟む俺達はヨネンさんの案内で、ウルフデパートの2階にあるドワーフ王国直営店を見た後、1階にあるドワーフ王国直営店の高級店舗の方に到着した。
「流石に高級店舗の方は、店構えも違いますね……」
俺はドワーフ王国の店舗の前で、絶句する。
ドワーフ王国直営店は、濃いめのシックな茶色の木造造りで、壁や柱の全てに豪華な彫刻が彫られているのだ。
「この柱や壁の彫刻は全て、今は亡き天才芸術家ドン·ドラニエルの作品なんですよ!
ドン·ドラニエルは、このモフウフの街を愛し、モフウフ地下宮殿に定住していたので、モフウフではドン·ドラニエルの作品をたくさん見ることができます!」
俺が前の世界にいた時には、絶対に足を踏み入れる事が出来ない領域である。
そんな領域に、オーナー自ら案内してもらえる身分になるとは……
世界樹のドライアドである、アド様様である。
「こちらのフロアーでは、上級の中でも上位の武器や防具を手に取って見る事ができます!」
どうやら、お店に入って直ぐの部屋は、いわゆる上級の上の武器や防具が売ってるフロアーであるらしい。
商品を見ている客は、見るからに高ランクの冒険者や、モフウフ王宮に使える騎士など、身なりの良い者ばかりで、エーバルに居るような荒くれ冒険者など、1人もいない。
それから良く観察すると、客一人一人にドワーフ族の店員がお供に付き、商品の説明をしているようである。
俺なら、こんな高級店で知らない店員に付いて回られたら、商品を見る所では無くなってしまうであろう。
「やっぱり凄いわね! 流石、ドワーフ王国直営店のモフウフ支店ね!
日本刀レプリカのラインナップが、半端ないわね!」
アナ先生が、みるからに日本刀の様な片刃の刀をマジマジ手に取って見ている。
「ここはハラダ家のいる『漆黒の森』の王都ですからね!
日本刀の需要が多いんですよ!
それに最高の武器職人とも言われていたドン·ドラニエルの本拠地だった場所ですからね!
ドン·ドラニエルが最初に日本刀レプリカを打ったのは、今は亡き大魔王ゴトウさんの要望から始まったと言われています。
ゴトウさんと、試行錯誤して日本刀レプリカを作り出し、ゴトウさんが亡くなった後も研鑽を重ねて、最高級の日本刀レプリカを亡くなるまで作り続けました」
ヨネンさんは、話しながら近くに置いてあった日本刀を手にとった。
「ドン·ドラニエルの初期の作品は、ゴトウ様や姫様の為に打っていた刀なので、一般的な刀の大きさなのですが、後期になるとハラダ家に頼まれて、このように長めで重さがあり頑丈な刀を打つ様になります。
それがハラダ家の流派、ジゲン流に適した形状だと言われております。
勿論、頑丈と言っても斬れ味が落ちる訳ではございません。
ジゲン流は一撃必殺の流派、初太刀から全力で敵に打ち込みます。
全ての攻撃が全力なので、どうしても刀が傷みやすいという訳ですね!
なので、アナさんに合うのは、もっと細身の……そうですね!
こちらの刀なんか良いんじゃないですか?」
ヨネンさんはそう言うと、俺達を連れて、もう一つ奥のフロアーに歩き出す。
そこのフロアーは、さっきのフロアーとは全く毛色が違う。
全ての商品が、ショーケースに入れられているのだ。
そして、そのショーケースに入った武器や防具の値段も一桁違う。
全てが5000万マーブルオーバーなのだ。
「こちらのフロアーの商品は、全て聖級の商品になっています!」
ヨネンさんは、説明しながら一鞘の日本刀レプリカを手にとる。
「これは、ドン·ドラニエルの高弟の一人、オイドン·トラデアルが打った、聖級の上物、刀の言い方で言えば上業物ですね。
銘を『白虎』と言います。
コレなんかアナさんの戦闘スタイルに会うと思いますよ!」
ヨネンさんが、手に取った細身の刀『白虎』をアナ先生に手渡した。
「エッエッ! これってドワーフ三刀鍛の一人、オイドン·トラデアルの『白虎』ですよね!」
『白虎』を渡されたアナ先生の手が震えている。
「そうですよ。約200年前に活躍した剣神ハラ·ユリが使ったと言われる刀ですね!」
「どうして、そんな物が売られているんですか?
ハラ家が所蔵してるんじゃなかったんですか?」
「『白虎』はドワーフ王国が、その当時 剣神であったハラ·ユリ様に貸出していた物です。
ハラ·ユリ様が亡くなった後に、返してもらっただけですよ!」
「貸出って、そんな事が可能なんですか?」
アナ先生が、ビックリしている。
「『白虎』程の上業物になりますと、お高いですからね。
当時の剣神であられたハラ·ユリ様でも現金で買うにはお高かったようですね!」
そう言えば、『白虎』には値段が付いていない。
他にもチラホラ値段がついてない、刀や防具があるが、値段が付けれないような値段であるのか……
「ヨネンさん、因みに値段ってお幾らなんですか?」
俺は興味本位で値段を聞いてみる。
「『白虎』は、性能もさておき、剣神ハラ·ユリが使っていた事もあり有名な刀ですからね!
名が知れ渡っている有名料も合わせて、3億マーブル程でしょうか!」
「さ……3億マーブルですか……」
俺は驚きおののく。
「ハイ! 3億マーブルです!
有名な『白虎』が、3億マーブル位ですと、買いたいというお客様がたくさんおいでになりますよ!」
「3億マーブルで、買い手がたくさんいるんですか?」
「勿論、おいでです!
しかし、『白虎』は、どれだけ金額を積まれてもお売りしませんけどね!
『白虎』は、オイドン·トラデアルの遺言で、『白虎』を使いこなせる者にしか売ってはいけない契約になっておりますので!
お金持ちが、鑑賞用に家に飾っておくとかはもっての外なのです!」
アナ先生はヨネンさんの話を聞き、益々緊張してしまったようである。
『白虎』を持つ手が、先程よりも早く小刻みに震えているのだ。
「ヨネンさん! 『白虎』を返します!」
アナ先生は慌てて、『白虎』をヨネンさんに突き返えそうとする。
ヨネンさんは それを華麗にスルーして、話を続ける。
「私はアナさんになら、この200年間誰にも売らなかった『白虎』を売っても良いかと思ってるんですが」
「エエェ……私に……」
アナ先生は驚愕して、『白虎』を落としそうになる。
「ハイ! アナさんは、魔法剣士ですよね!
『白虎』は、魔法と相性が良いと言われておりますので。
そして、世界樹のダンジョンを攻略した魔法剣士のアナさんでしたら、『白虎』を持つに相応しい実力だと思いますよ!」
「あの……ヨネンさんて、私の実力が分かっていますか?」
「一応、私も400年生きておりますので、それなりに人を見る目はあると思いますよ。
実際に、剣神だったハラ·ユリ様より魔法剣士のアナさんの方が、『白虎』との相性は良いと思いますが」
アナ先生が、身震いしながら俺の顔を見る。
アナ先生は、とても『白虎』が欲しそうだ。
目が『白虎』を欲しくてたまらないと、訴えている。
『白虎』は多分、ヨネンさんが認めた人物以外は売らない、ほとんど非売品の名刀である。
その本来非売品の『白虎』が、買えるチャンスなのだ。
これは、お金が無くても買うしかないシチュエーションだよね……
「分かりました! アナ先生、『白虎を』買っちゃいましょう!」
「エー君! 大好きだよ!」
アナ先生に抱きつかれ、俺の逸物がそそり立つ。
「毎度、ありがとうございます!」
ヨネンさんが、頭を下げながらニヤリと笑ったように見えたのは、きっと気のせいであろう。
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