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35. 女騎士の矜恃

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 次の日、朝目覚めると、階段フロアーの床一面が真っ白に光り輝いていた。

 起きているのは、朝食の準備をしているクモしかいない。

「クモ、おはよう。
 この床って、誰がやったんだ?」

「おはようございます。ご主人様。
 この床は、クモが早起きして完成させたクモ」

 どうやら、クモの仕業だったようだ。
 クモは、秘密特訓が好きだ。

 いつも内緒で、特訓するのだ。

 俺が見せたエアーカッターも、次の日には完璧に自分のものにしていた。
 皆が寝静まった夜、一人で秘密特訓したのであろう。

 今回の床も、クモ的には普通の事だ。

 クモは、一人で夜中にコツコツ作業するのが好きなのだ。

 それが、皆の為になればなるほど、ヤル気を出すのだ。

 どれだけ努力家なのだ。

 しかし、これは俺への督促か?
 早く、クモのキッチンを作れと言う……

「今日から、クモのキッチン作りに取り掛かるからな!」

「嬉しいクモ。ご主人様好き」

 クモはいつものように、顔を真っ赤にしてモジモジしている。

 俺は、クモの頭をモフモフ撫でてやる。
 クモは、頭から湯気を出して沸騰しそうだ。

『二人っきりだと、ちょっと困るな……』

 クモは基本、大人しい。
 よっぽど、用が有る時以外は俺に喋りかけてこない。
 なので、クモが俺に喋りかけてくる時は、よっぽどの事が有る時なので、俺はキチンとクモの話を聞いてやる事にしているのだ。

 しかし、このままずっと、俺の前でモジモジされていられても……

「お~い! ビー子起きろよ!
 アナ先生も、起きて下さい!」

「ご主人様ぁ~眠いのよぉ~」

「クッ! 不覚。主であるエー君の従者でありながら、主のエー君より遅く目覚めてしまうとは……」

 ビー子と、アナ先生が目覚めたのは良いのだが、この毎朝行われるアナ先生の騎士ごっこは、どうにかならないのか……

「アナ先生は、いつも僕より起きるの遅いでしょ!
 一体、何なんですか?
 毎朝毎朝、その騎士っぽいくだりは必要なんですか?」

「何を言ってるのだ! エー君。
 私はレッキとした、騎士の家系に産まれた騎士の中の騎士だ!
 私の父親は、誇り高き 神聖フレシア王国の騎士団長だったのだぞ!」

 アナ先生は、前のめりで俺に凄んでくる。

「でもアナ先生、俺より早く起きる気、更々無いでしょ!
 そのアナ先生の首に付けてる、冒険者ブレスレットに備えつけてある、目覚まし機能を使ってないですもんね!」

「そ……それは……」

 アナ先生が、口篭る。
 やはりアナ先生は、早起きする気など更々なかったようだ。
 ただ、『クッ! 不覚!』のような、あちらの世界のラノベ特有の、女騎士のセリフが言いたいだけなのだ。

「分かりましたから、早く朝食を食べて下さい!」

「御意……」

 アナ先生は、テンションだだ下がりで、騎士風に返事をしたのだった。


 そして、朝食を食べた後、いつものようにダンジョン攻略を進める。

「キターーーー!」

 突然、アナ先生が叫び出す。

「どうしたんですか?」

「遂に取得したんだよ!」

「もしかして、アナ先生がとても欲しがっていた、『斬撃波』スキルを、ゲットしたんですか?」

「そうなんだよ! 今、頭の中で、天の声が響いたんだよね!
 {『斬撃波』スキルを獲得しました!}って!」

 アナ先生は、有頂天だ。

 騎士にとって、『斬撃波』スキルを使える事は、それだけでステータスなのだとか。

 前に、アナ先生に、長々と語られた事がある。

 何でも、大国同士の戦争では、最初に、前衛職の騎士が『斬撃波』を放つ事により、戦闘の狼煙を上げるのが、習わしとされているらしいのだ。

 フレシア王国の元騎士団長だった、アナ先生のお父さんも、王国主催の模擬戦争訓練では、いつも模擬戦の始まりを告げる『斬撃波』を放つ大役を、担っていたと言う事だ。

「ハア!」

 ズダダダダダダーン!

「トリャー!」

 ズダダダダダーン!

「ウリャー!」

 スダダダダダーン!

 アナ先生が、調子に乗って『斬撃波』を連発している。

 というか、そんなにアホみたいに『斬撃波』を放ったら、魔素切れを起こすのでは……

 案の定、10分後に、アナ先生は魔素切れによる倦怠感を発症し、『死にたい。死にたい』と、俺におんぶされながら、ブツブツ言っている。

 アナ先生が使い物にならなくなった後は、昔のフォーメーションに戻り、ダンジョン攻略をしたのだが、やはり前衛が居ると居ないとでは、大違いだとヒシヒシ感じる結果となった。

 アナ先生が居ないと、グイグイ進めないのだ。

 200階層を超えると、敵も強力だ。

 普通に『闘気』を込めた攻撃をしてくる敵まで登場してくる。
 そんな攻撃を、まともに受けたら大怪我では済まない。

 アナ先生が前衛にいてくれたら、そんな無慈悲な攻撃も、斬撃で弾き返してくれるのだ。

 ウチのパーティーには、索敵が得意のビー子がいるので、不意打ちの先制攻撃を受ける事がない。
 それでも猪突猛進してくる敵に対しては、俺とビー子による魔法による防御防壁と、クモが蜘蛛の巣を張る事で、アナ先生がリタイヤしても、何とか凌げているというのが正直な所だ。

「アナ先生! これからは、ちゃんとして下さいね!
 パーティープレイでは、一人の脱落のせいで、全滅する事だってあんるですからね!」

 俺は少しだけ強めに、アナ先生に注意する。

「クッ! 殺せ!」

 アナ先生は、魔素枯渇の倦怠感で自暴自棄になっていたのか、女騎士必殺のセリフを、珍しく狙わずに吐いた。

「殺しませんから! アナ先生は、ただひたすら苦しんで、反省して下さい!」
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