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57. サクラ姫は、お姉さんする
しおりを挟むその日は、もう遅いので、リーナは『銀のカスタネット』のパーティーハウスに泊まる事となった。
部屋は、たくさん有り余ってるからね。
一応、パーティーハウスの間取りを説明しとくと、1階は完全に、『銀のカスタネット』以外も使える共用スペース。
1階エントランスの右端の区間は、ナナミさんが経営してる宿屋になってて、早速、俺達に、マールダンジョン最深到達記録を抜かされた『ドラゴンズアイ』の皆さんが、男女別で2部屋も利用してくれていた。
ナナミさんは、ウハウハ。しかも、『ドラゴンズアイ』の皆さんは、56階層に繋がる転移扉も頻繁に使ってくれてるようで、ナナミさんは笑いが止まらい。
何もしないで、研究費が湯水のように湧き出る無限機関を作り出した訳だから無理もない。
1回転移扉を使うだけで、10万マールってぼったくりだろ!
『ドラゴンズアイ』が、俺達の持つ最深到達記録を抜こうと思えば思うほど儲かる仕組みになってるのだ。
でもって、肖像画が飾ってる2階踊り場の左側の部屋は、ナナミさん個人の研究室。
俺達でさえ、入れてくれないし……
まあ、機密事項もたくさんありそうだから、しょうがないか。
ナナミさんって、基本、何考えてるか分かんないし、謎多き女性だからね。
まあ、見た目、子供に見えちゃうドワーフだけど。
そして、踊り場の右端の部屋は、俺達『銀カスタネット』の共有スペース。
キッチンや、リビングや、お風呂とかがある。
3階は、部屋がたくさん有り、俺と、サクラ姫と、アマンダさんの部屋も全て3階に有る感じだ。
ナナミさんは、ご飯とお風呂に入る以外は、研究室に籠ってるので、3階に自室は無い。
ん?みんな婚約者だから、一緒に寝ないのかって?
婚約者だから、一緒に寝ないんだよ。
結婚前に一緒に寝ようものなら、王様にぶち殺されるっちゅーの!
リーナは、俺のベッドの中に潜り込もうとしてきたが、サクラ姫に捕まって、サクラ姫の部屋で一緒に寝たらしい。
本当に、サクラ姫は、リーナのお姉さんしてるのだ。同じ歳なのに。
でもって、次の日。
折角、リーナが、王都近郊に来たのだから、リーナを王都に案内する事にした。
アマンダさんの特注の家紋が入ったビキニアーマーも出来てる頃だからね。
「凄~い! 凄~い! これが王都?!」
リーナは、ピョンピョン飛び跳ねて、初めて見る王都に大興奮。
まあ、俺も、ちょっと前まで大興奮してたけど。
「最初は、ナナミさんのお爺さんがやってる武器屋に行くぞ!
ナナミさんのお爺さんの武器屋は、限られた凄腕冒険者しか知らない、通好みの店なんだぞ!」
俺は、知ったかして、リーナに説明する。
「ナナミさんのお爺ちゃんって! お兄ちゃんの凄い刀を作った人でしょ!」
「そうだな」
リーナは、俺が実家に帰った時、父親と十一文字権蔵について、少し話してたの聞いてたようだ。
だけど、権蔵爺さんの店に近付くにつれて、言葉が少なくなってくる。
華やかな王都の裏側。権蔵爺さんの店は、お大通りから遠く離れた貧民街に有るのだ。
柄が悪そうな奴もいっぱい居るし。建物も掘っ立て小屋ばかりになってきて、貧民街独特の異臭もするし。
リーナは、余っ程、怖くなってきたのか、俺の腕に、ギュッと抱きついて怯えてる。
「俺が居るから、安心しろよ」
「お兄ちゃん……」
なんか、妹に頼られて嬉しくなってしまう。
俺は、いつでも妹に頼られるお兄ちゃんでありたいのだ。
俺の可愛いリーナに、ちょっかい出す奴は、誰であろうと、ぶん殴ってやる気構えである。
まあ、実際は、何も怖がる事などないのだけど。
マールダンジョンを出た時点で、いつの間にか、サクラ姫の護衛の者達が集まって来て、王都に入った頃には、サクラ姫の護衛が10人に増えてたし。
危ない人達は、俺達が来る前に排除されてる筈だしね。
それに、ナナミさんとアマンダさんって、王都でかなり有名なんだよね。
2人と二つ名持ちだし。しかも『棍棒ぶっ叩き魔法使いナナミ』と、『狂戦士アマンダ』だよ。
2人とも物騒過ぎる二つ名持ちだから、誰もナナミさんとアマンダさんに、喧嘩など売ってこないし。
ナナミさんに限っては、権蔵爺さんと、貧民街に住み始めた頃。その幼過ぎる見た目のせいで、相当、悪い大人に絡まれたらしいけど、その杖にしか見えない棍棒で、全員ぶっ飛ばしたみたいだし。特に、貧民街の者達は、ナナミさんには絶対に関わらないようにしているとか。
ナナミさんって、基本、容赦無いし。
自分の興味無い者達には、無表情でぶっ叩くから、本当に知らない者から見ると殺人マシーンに見えるらしい。
でもって、権蔵爺さんの店に到着すると、何故か豪華な馬車が止まっていた。
何事だと思って店の中を見てみると、丁度、権蔵さんが兵士に拉致される所に遭遇してしまった。
「おっ! ナナミと 婿殿か! 丁度、良い所に来た!こやつらをどうにかしてくれんか!」
どういう状況?兵士は、マール王国の兵士に見えるし? 権蔵爺さん、何かやらかしたのか?ドワーフだから、酒飲んで暴れたとか?
俺が思案してる合間にも、権蔵爺さん大好きなナナミさんは、その杖にように見える十一文字金剛権蔵棍棒を振り上げる。
「ナナミさん! ちょっと待って! 一応、兵士の皆さんに状況を聞いてみよう!
というか、サクラ姫の護衛の人なら、何か知ってるんじゃないのか!」
現在、サクラ姫は、髪を魔法で茶髪に変えてるので、権蔵爺さんの店に居る兵士達は、サクラ姫が王家の人間と気付いてない。
俺が店の外へ目をやると、すぐにサクラ姫の護衛がやって来て、今の状況を俺達に説明してくれる。
話を要約すると、こうだ。
マール王都の貧民街に、元武蔵野国三賢人が1人、坂田権蔵が店を構えてると知ったマール国王が、散々、城に来るようにと権蔵爺さんに命じてたのだが、それを権蔵爺さんは、ずっとブッチしてたようなのだ。
でもって、痺れを切らしたマール国王が、最終手段として、権蔵爺さんを拉致して、無理矢理、城に連れて行こうとしてた所だったらしい。
まあ、マール国王としては、元武蔵野国三賢人だった程の凄腕の鍛冶師を、野に下ったままにしておくが惜しいと思ったのだろう。
なので、権蔵爺さんに爵位を授けて、マール王国の為に、働いて貰おうと画策していたようである。
「行こう! お爺! 貰える物は貰っておこう。多分、爵位を貰えれば領地かお金を貰えると思う」
ナナミさんが、権蔵爺さんに説得に掛かる。
というか、ナナミさんは、マール王国から貰った領地とお金を自分の研究費にする気満々である。
「あの……多分。ナナミさんも個人的に爵位が授けられると思いますよ」
サクラ姫が、補足する。
確かに、魔法の収納袋や、転移扉を作れる人物を、王国がほっとく訳がない。
ハッキリ言うと、権蔵爺さんと、ナナミさんは棚から牡丹餅的逸材なのだ。
本当に、何故、武蔵野国が、こんな逸材を手放したか分からない。
まあ、それ以上に、このイカレ爺さんと孫は、想像を越える問題児という事なのかもしれない。
まあ、人斬りサイコに、自分の最高傑作の刀をあげちゃうくらいのイカレジジイだしね。
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