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13. リベンジ
しおりを挟むリアムは天空城の裏口から出て、久しぶりに『帰らずの森』に向かっている。
左目の魔眼のお陰か、ラスボスのゴーレムは俺に反応しない。
今日、初めて気が付いたのだが、どうやら『帰らずの森』のダンジョン内の魔物は、全て大賢者エルグレオが造ったゴーレムであるようだ。
ダンジョン内を、【不可視】スキルを使ってもいないのに、素通りできてしまった。
そしてそのまま、『帰らずの森』へと続く階段を上がる。
久しぶりの『帰らずの森』だ。
少しだけ、心が昂る。
2年前の俺は、全く『帰らずの森』の魔物に力が及ばなかった。
しかし、今の俺は違う。
大賢者エルグレオの記憶により、強力な魔法が使えるようになっているのだ。
しかしながら『帰らずの森』は、その名の通り、一度足を踏み入れたら帰れないと言われている難攻不落の森。
時代時代の歴代勇者が、大賢者エルグレオの遺産を求めて、何度も攻略を試みたが、その全ての勇者が命を落としたといわれている勇者殺しの森。
今の俺の実力で、『帰らずの森』の魔物と対抗できるか不安ではあるが、俺は試してみたくてたまらないのである。
もう、日陰暮しは嫌だ。
陽の当たる場所に出たい。
俺は、暗殺者リアム·トゥルーズではなく、大賢者リアム·トゥルーズになりたいのだ!
そして、遂に、階段を上がりきり、『帰らずの森』に、一歩踏み出した。
今日の俺は、【不可視】スキルを使っていない。
案の定、『帰らずの森』の覇者、フォレストドラゴンに、気付かれてしまう。
しかしながら、俺は全く慌てない。
極限まで練り込んだ魔力を、身体全体に薄く覆う。
これで、準備は出来た。
俺の見立てでは、これで大丈夫の筈だ。
フォレストドラゴンは、俺に猛然と襲いかかって来る。
俺は苦もなくヒラリと避ける。
遅い。
フォレストドラゴンのスピードが、2年前に対峙した時よりも滅茶苦茶遅く感じる。
俺の思惑通り。
俺の魔力総量は、大賢者エルグレオに比べて滅茶苦茶少ない。
まあ、今の時代の魔法使いと比較したら、かなり多い部類なのだが、大賢者を目指す俺としたら滅茶苦茶少ないのだ。
実際、上級魔法一発放つだけで、魔力切れを起こしてしまうし……。
そして編み出したのが、体の身体能力を底上げするブーストだ!
元々ある魔法だが、この魔法は、魔力を体の外に打ち出す魔法でないので、体の中の魔力が全く減らない。
この魔法なら、魔素総量が少ない俺でも使いたい放題。
尚且つ、俺にはトゥルーズ家直伝の暗殺術がある。
そして、このトゥルーズ家直伝の暗殺術と、ブーストは滅茶苦茶相性がいいのだ!
超高速で、敵の背後をとり、毒針で一突き。
魔法使いというより、武道家のような動きだが、魔力を節約するにはこの方法しかない。
たまに魔法を使えば、魔法使いぽく見えるであろう。
兎に角、強くなって有名になる事が大事なのだ!
それが、大賢者と呼ばれるようになる為の第一歩なのだから。
目を凝らすと、フォレストドラゴンのステータスが見える。
これが、大賢者エルグレオの魔眼の能力だ。
大賢者エルグレオの魔眼の能力は、鑑定眼。
その鑑定眼を、エルグレオが、異世界のRPGゲームのステータス画面のようにアレンジして使いやすくしている。
この世界には、レベルの概念が無いし、魔物の能力を数値化する事もしない。
エルグレオは、魔物の能力を数値化する事により、その強さを計り、確実に仕留める事で、大賢者と呼ばれるまでになったのだ!
フォレストドラゴンlv.85
称号『帰らず森の覇者』
攻撃力2200
防御力1200
素早さ205
知能36
HP3600
MP2700
スキル:ファイアーブレス
魔法:火魔法
急所:逆鱗(顎下に有る一つだけ裏返った鱗)
まあ、目の前で対峙しているフォレストドラゴンのステータスはこんな感じだ。
因みに、俺のステータスはこんな感じ。
リアム·トゥルーズlv.15
称号:暗殺者、大賢者の意志を継ぐ者
攻撃力92
防御力80
素早さ320
知能12600
HP75
MP820
スキル:暗殺、解錠、各種ポーション精製、鑑定眼、錬金
完全に、フォレストドラゴンに劣っている……。
ステータスだけを見れば、俺がフォレストドラゴンに勝てる要素は全く見つからないが、俺のとっておきの魔法、ブーストの能力は一味違うのだ!
元々、この世界にも身体強化魔法はあったのだが、属性は一つだけしか付けれなかった。
例えば、体を固くするだけとか、素早さを上げるだけとか、火魔法耐性を上げるだけと、いった感じだ。
しかし、俺のブーストは違う。
身体能力の全てを5倍に底上げして、全属性魔法の耐性を上げてくれるのだ!
そして、身体能力の全てを5倍にした俺のステータスが、こんな感じ。
リアム·トゥルーズlv.15
称号:暗殺者、大賢者の意志を継ぐ者
攻撃力92→460
防御力80→400
素早さ320→1600
知能12600
HP75
MP820
スキル:暗殺、解錠、各種ポーション精製、鑑定眼、錬金
これでも、フォレストドラゴンのステータスには、大分劣るが、俺にとってはこれで十分。
素早さの数値が上がれば、全てOK!
要は、敵の攻撃が当たらなければ良いのだ。
そして、俺には一撃必殺の毒針がある。
普通の冒険者の場合、少しづつHPを削っていって敵を倒さなければならないが、俺の場合は、一突きすれば終わりだ。
俺は天空城で、魔力総量底上げの修行をしていた時も、トゥルーズ家に伝わる暗殺の修行もしっかりとこなしてきた。
今の俺に、フォレストドラゴンに負ける気などしない。
フォレストドラゴンが、必死に攻撃を仕掛けてくるが、ブーストが掛かった俺には、フォレストドラゴンの攻撃が、コマ送りのスローモーションにしか見えない。
フォレストドラゴンが、必殺のファイアーブレスを放ってくるが、命中しなければ、お祭りとかで火を吹く大道芸人と同じだ。
俺はフォレストドラゴンの懐に、余裕に入り込み、喉下にある逆鱗を毒針で一突きする。
グオォォォォォォォォォォォ……。
『帰らずの森』の覇者フォレストドラゴンは、最後に雄叫び上げて絶命した。
俺は、一度殺されそうになった難敵フォレストドラゴンを、呆気なく倒す事に成功した。
目の前に、再び半透明のステータス画面が現れて、レベルアップを告げてくる。
どうやらレベルが、15から19に上がったようだ。
流石は『帰らずの森』の覇者、フォレストドラゴン。
一匹倒しただけで、レベルが4つも上がった。
レベル上げの為に、ここにいる全てのフォレストドラゴンを、倒してしまいたくなる衝動が抑えきれなくなる。
しかし、天空城の主である今の俺の立場で考えると、フォレストドラゴンは、俺の家を守ってくれている番犬のようなものである。
ここで俺が、根絶やしにする訳にはいかない。
取り敢えず、倒したフォレストドラゴンを魔法の鞄に放り込み、エリナと隣のオバチャンが住む村に向かった。
ーーー
2年前は、『帰らずの森』の中央付近から村まで2日間は掛かっていたのに、ブーストのお陰で、たった1時間で村に着いたリアムは、その変わり果てた光景に絶句する。
「どういう事だ……」
村の家は全て破壊されており、人っ子一人居ない廃村になっていたのだ……。
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