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519. キムチのたくあん

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 なんやかんや有って、俺は、取り敢えず、イベリコ君を闇堕ちさせない事に成功した。

 金髪縦巻きロールを人身御供にして。

 まあ、金髪縦巻きロールも、敬愛する俺の役に立てて本望であろう。

 なんか、イベリコ君を立派な男にしようと張り切ってたし。良しと考える事にする。

「ご主人様、まだ問題は終わってませんよ!」

 シロが、すっ裸の俺の身体をマッサージしながら指摘してくる。
 どうやら、俺の頭の中を勝手に読んでたようだ。

「今ぐらい、ゆっくりしててもいいだろう!
 やっと、イベリコ君が闇堕ちする事を防いだんだから!」

「だから、ご主人様を労って、マッサージしてあげてるんでしょ!」

「お前、俺の下僕の癖して、最近、生意気だぞ!」

「すみません」

 よく分からないが、シロは素直に反省した。
 多分、シロ自身も、俺に対して偉そうな態度を取ってると感じてたのだろう。

「ご主人様が、お馬鹿過ぎるので、思わず口が出ちゃうんです……」

 シロが、また、俺の頭の中を読んだのか、言い訳してきた。

「バカじゃねーやい! 歴史とか得意なんだぞ!」

 俺は、カチンときて反論する。

「歴史だけですよね?」

「やっぱり、俺をバカにしてるな!」

「してません! 僕は、ご主人様に心酔してますから!」

「そしたら、証拠を見せてみろ!」

「何をすればいいんですか?」

「オ〇ニー見せて!」

「アホですか!」

「アホって言うな!アホという奴がアホなんだよ!」

「ご主人様、止めましょう。この争いに正しいゴールは無いです!」

「だな」

 こうして、俺とシロは、言い争いは止めた。
 だけど、シロは、しっかりと俺の前でオ〇ニーをしてくれた。

 シロは、なんやかんや言って、俺の言う事を聞いてくれるのである。

 見た目9歳児のシロにオ〇ニーさせるのは、鬼畜だって?

 シロは、魔物だから、人間の尺度で考えなくてもいいんだよ!アホ!

「ご……ご主人様ぁ……何…頭の中ブツブツ言ってるんですか……ァァアアァァ……」

「一々、俺が頭の中で考えてる事まで、反応するんじゃねーよ!」

 俺は、目の前でオ〇ニーしてるシロを蹴り飛ばしてやった。

「ご主人様ーー!もっと!」

「それは、止めとく」

「イケズーー!」

 シロが、俺を罵ってくる。

 シロが喜ぶから、俺は、シロに暴力振るうのであって、基本Sではないのである。


 そんな感じで、次の日の朝。
 女子貴族寮の玄関前。

 俺が玄関から出ると、女子貴族寮の門の前に、頭に小鳥を乗せたイベリコ君が、恥ずかしそうに立っていた。

「御機嫌よう」

 俺は、貴族令嬢の必殺技『御機嫌よう』で、取り敢えず、その場を切り抜けようとする。
 下手に、イチャモン付けられると面倒だし。また、闇堕ちされると面倒臭いのだ。

 それに、基本、イベリコ君は俺の事が嫌いだしね。

「オイ。今まで悪かったな……」

 なんか、イベリコ君の態度が今までと違う。

 しかし、俺は、イベリコ君と喋る事もないので、そのまま無視してその場を通り過ぎる。
『御機嫌よう』してるし、いいよね。

 しかし、

「ちょ、待てよ!」

 イベリコ君が、キムタクでも無いのに、『ちょ、待てよ!』とか、言ってきた。

 一応、イベリコ君も美形だが、頭に小鳥を乗せたふざけた奴に、『ちょ、待てよ!』は、使って欲しくない。

「何ですか!『ちょ、待てよ!』て、その言葉は、キムタクしか使っちゃダメなんですよ!」

 俺は、少しムキになって注意する。
 日本人なら、誰でも注意するだろ。

「エッ? キムタク? ちょ、何言ってんだか、分かんないんだけど?」

「また、『ちょ!』何度も、キムタクの真似するな!」

「だから、キムタクなんか、分かんねーよ!
 キムチとタクワンなら知ってるけど!」

「三木道三かよ!」

 日本時代レゲエ好きだった俺は、思わず突っ込んでしまう。

「三木道三って、お前、何言ってんだ?」

 イベリコ君が、本気に首を傾げてる。

「くっ、三木道三はマニアック過ぎたか……」

 とかやってると、

「ご主人様、一体、何やってんですか……」

 ここで、日本文化を知ってるというか、三木道三ネタを知ってるであろう、俺の記憶を全て知ってるシロが、騒ぎを聞きつけて玄関までやって来た。

「こいつが、三木道三スタイルを知らないんだよ!」

 俺は、涙目でシロに説明する。

「なるほど、道三スタイルの歌詞に出てくる、『キムタク大好きなんや、キムチとタクワンが!』のフレーズですね!」

「そう、それ!」

 俺は、やっと分かってくれる人が現れたと、大きく頷く。

「だけど、それ、普通の日本人も誰も知らないですから!
 三木道三が売れたのって、life time respectからですから、皆が知ってる道三スタイルは、道三スタイルでも、『道三スタイル01』なんですよ!」

「なんだそれ?」

「ご主人様が知ってるのは、三木道三が全国的に売れる前の、オリジナルの『道三スタイル』ですよ!」

「そうなの?」

「そうです! なので、『彼女は流行りのアムラー、眉毛剃り過ぎてちょっと危なー』の歌詞も、誰も知りませんね!」

「嘘だろ!俺、そこが一番好きだったのに!」

「嘘じゃないですよ! ご主人様は、少しマニアック過ぎる少年時代を過してたんですよ!
 誰も、小学生時代にナーキとか、中学生の時、アキソルとか、三木道三とか、トキワのミッションNo.5なんか聴いてませんし、CDも買いません!」

「そうなの?」

「そうですよ! 中学生の時、友達と初めてカラオケ行った時、ブギーマンのパチンコマン歌って、みんなに引かれてたでしょ!
 あの頃は、まだ、ジャパレゲなんて、本当にコアなファンしか、田舎では聴いてない時代だったんですからね!」

「だな……」

 俺は、当時の事を思い出し納得する。
 確かに、クラスの女子に滅茶苦茶引かれて、恥ずかしくなったのを覚えている。

「オイ、お前ら! 俺が話し掛けてるの、何で無視してるんだよ!」

 なんか、無視されてると思ったのか、イベリコ君が逆ギレしている。

「ハッ? お前が、キムタク知らないけど、キムチとタクワン知ってるとか言うから、こんなんなってるんだろうがよ!」

 俺は、今、リコリットである事を忘れて、男言葉でイベリコ君を怒鳴りつける。
 そもそも、ヨーロッパに住んでるイベリコ君が、キムチとタクワン知ってるって、おかしいだろ!

「なんで、俺が怒られるの……ただ、少し話したかっただけなのに……」

「貴様ーー! まだ何か言うか! キムタクと三木道三に謝れ! そして、キムチとタクワンにも!」

「まあまあ、ご主人様、ここは抑えて下さい。イベリコ君を追い詰めると、また、闇堕ちしちゃいますから」

 シロが、俺を諌めてくる。

「だな……どんだけコイツにムカついても、機嫌取らないといけないんだったんだな……」

 俺はプルプル震えながらも、イベリコ君の左頬に、右フックを繰り出してしまいそうな衝動を、必死に抑えるのだった。

 とか、いつもの感じでシロと漫才プレイをやってると、

「ダーリン、迎えに来てくれたの!」

 女子貴族寮の門の前に、金髪縦巻きロールを迎えに来ていたであろう、イベリコ君を見つけて、金髪縦巻きロールが、感動した面持ちで立っていた。

「やあ、ハニー! 君に会うのが待ちきれなくてね! 思わず、女子貴族寮まで迎えに来ちゃったよ!」

 やたらとキラキラした、少女マンガチックな顔に、突然イベリコ君が変わる。
 そして、金髪縦巻きロールの方を振り向き、俺の胸の中に抱きついて来いとばかりに、大きく腕を広げる。

 そこへ、金髪縦巻きロールは躊躇無く飛び込み、そして二人は見つめ合う。

「ダーリン、会いたかったわ!」

「ハニー、僕もだよ!」

 なんかよくわからんが、二人は自分達だけの世界に入ってしまった。

「コイツら、いつから相思相愛になったんだ?」

 俺は、シロに質問する。

「さあ? 昨日、放課後に2人きりで話し合ってたのは知ってますけど……」

「それにしても、金髪縦巻きロール……。イベリコ君の頭の上に小鳥がいる状態で、よく自分達の世界に入れるよな……」

「ちょうど良い塩梅の恋のキューピットかなんかと思ってるんじゃないんですか?」

「嘘だろ……だって、あの小鳥、イベリコ君の頭の上に、糞をする常習犯だろ?」

「恋は盲目ですからね。なんでも良いように見えるんですよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんです」

 てな訳で、

 イベリコ君と金髪縦巻きロールが、ラブラブの内は、この世界が滅亡する事はないであろう。

 少しイラッとするが、世界の為だと思えば、少しだけ我慢できるリコリットであった。

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