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298. 会議は続く、されど進まず
しおりを挟む「それでは騎士叙任式を始めます」
無駄に威厳があるブリテン女王アンが宣言する。
それと同時に、アンの隣に居たアナスタシアが、鞘から見覚えがある剣を抜き、アンに手渡した。
「聖剣エクスカリバー……」
「ハイ! アナスタシアさんが、ブリテン王国の至宝聖剣エクスカリバーを借りて来てくれました!」
「ブリテン王国の至宝を借りて来た?」
意味が分からない。
貸してたのを、借りて来た。
ただ、返して貰っただけじゃないのか?
「ハイ。聖剣エクスカリバーは、訳あって、アトレシア大陸のハルマン王家に貸し出されていたという事でしたので!」
「ブリテン王国の至宝なのに、また、ハルマン王家に返さないといけないのか?」
「ハルマン王家に貸し出ししてるのは、始祖様であるアルトリア·ペンドラゴンの意志ですので!」
よく分からないが、色々事情があるのだろう。
俺は、ブリテン王国の人間じゃないから、知ったこっちゃないけど。
「セド君。片膝着いて、顔を下げるのよ」
アナスタシアが、小声で俺に話し掛けてくる。
そんぐらい知ってるわい!
メアリーと騎士ごっこした事あるし。
「ご主人様。アナスタシアさんには、思った事、口にださないんですね」
俺の頭の中を読めるシロが、一々指摘してくる。
アナスタシアは、俺の子供の頃から良くしてくれるお母さんみたいな人で、俺の初恋の女性。
そんな人に、「そんぐらい知ってるわい!」とか、汚い言葉使えるかよってんだよ!
「ご主人様にも、まともな心があるんですね!」
「俺は、どう見ても常識人だろ!」
「セド君。五月蝿いわよ!今は、騎士叙任式の最中なのよ! 」
アナスタシアに怒られた。
少し凹み、おとなしく片膝をついて頭を下げる。
「貴方を、円卓の騎士に任命します」
アンは、無駄に威厳な雰囲気を醸しだしながら、聖剣エクスカリバーの剣の平で、肩を3回叩く。
続けて、同じように、シロとミレーネの肩も聖剣エクスカリバーで3回叩いた。
シロとミレーネは、とても嬉しそうだ。
歴史好きなシロは、ただ、アーサー王の円卓の騎士に憧れてただけだと思うが、ミレーネは涙を浮かべ喜んでいる。
多分、今迄、差別されて生きて来た事を、色々思い出したのであろう。
まあ、ブリテン王国に所属していたドレーク海賊団が、一番の差別の元凶だったんだけど。
それを助けてくれたのが、メアリーアン海賊団で、そのお頭だったアンが、今やブリテン王国の女王になってしまったのだ。
ミレーネ的には、少し複雑な気分なのかもしれない。
「全て、始祖様のお導きのお陰でございます」
どうやら、俺が頭の中で考えてた事が、念話でミレーネに流れていたらしい。
早く、念話のコントロールを覚えなければと思う、今日この頃であった。
そうこうしてると、
「終わったら、とっとと席に座るのニャ!」
どこからか、ミーナの声が聞こえてきた。
アンとアナスタシアは、いつの間にか円卓の自分の席に座っている。
「ミーナの声が……。幻聴か?」
「僕も、どこかからミーナさんの声が聞こえました!」
シロも、どうやらミーナの声が聞こえたらしい。
しかし、ミーナの姿は、どこにも見当たらない。
「ここに居るニャ!」
猫の勇者ミーナが、円卓の上に出現する。
どうやらミーナは、円卓の椅子に座っていて、俺達には見えなかっただけだったようだ。
俺は生意気なミーナを睨みつけながら、空いてる席に座る。
「これで、アン女王の円卓の騎士が、全員揃ったわね!」
アナスタシアが、満足気味に涙目になりながら、一人でウンウン頷いている。
アナスタシアも、結構歳だから、涙脆くなっているのだろう。
勝手に、アンの事を孫かなんかと勘違いして、感極まっているのかもしれない。
「ご主人様の鈍感さも、ここまで行くと病気ですね……」
何故かシロが、俺の心を読んで呆れている。
アナスタシアが、孫のような年頃のアンを見て涙目になってる事と、俺の鈍感さは何も関係ないだろ!
というか、俺は鈍感じゃないんだけど!
「そうですね」
シロは、全く感情を込めずに肯定した。
ーーー
「それでは、円卓会議の開始を、ここに宣言します!」
無駄に威厳が有り過ぎるアン女王が、聖剣エクスカリバーを天に掲げ、円卓会議の開始を宣言した。
そしてすごすごと、聖剣エクスカリバーをアナスタシアに返却した。
どうやら聖剣エクスカリバーは、円卓会議の開始の宣言に必要なので、貸出し中のハルマン王家から今だけ返却して貰っただけのようだ。
「ご主人様、後、円卓の騎士を任命する時にも使ったじゃないですか!」
「それな!」
優秀なシロが付け加える。
てな訳で、粛々と会議が執り行われる。
俺は、ブリテン王国と十字軍の戦争は、正直興味がないので上の空。
きっと、シロが聞いていてくれるだろう。
だって、シロはブリテン王国と十字軍の戦いに参加する事に乗り気だし。
円卓の騎士に選ばれた事が、とても嬉しそうだし。
そもそもブリテン王国の男爵になってしまったので、国の為に戦わなければならない義務が発生してしまっているのだ。
「会議は踊る、されど進まず」
「ご主人様、何言ってるんですか?
会議は順調に進んでますし、誰も踊ってないですよ?」
「ただ、言ってみたかっただけだよ!」
シロは、全然分かってない。
俺は、思った事を口に出したい病なのだ。
「そうですね。確かに昔は、突然、『人肉食いてぇーー!』とか、『脳ミソ食べてぇーー!』とか、叫んでましたもんね!」
「それ、今更言う? 俺にとって、滅茶苦茶黒歴史なんだけど……」
「ご主人様も、実を言うと、人肉好きなんですよね!」
「あの時は、スケルトンで、種族的な欲求が抑えられなかっただけだ!
本来の俺は、人肉になんか興味ねーし!」
「でも、あの時、一度でも人肉食べてたら止められなくなってしまったと思いますよ!」
「食べてたらな! しかし、俺は一度も人肉を口にしなかった!」
「お前ら、何の話をさっきからしてるんだ?
人肉食べたいとか、食べなかったとか、サイコ野郎かよ!」
アン女王の双子の妹メアリーが、俺とシロの言い争いを、怪訝な顔をして注意してくる。
「メアリーの癖に、俺に注意してくるとは生意気な」
なんか、アホな筈のメアリーが、大国ブリテン王国の姫様になったせいで、頭が良さそうに見えてくる。
「ご主人様、頭が良さそうに見えるのは気のせいですよ!」
「確かに……」
人間の、性格はそんなに直ぐに変わるもんじゃない。
というか、変わったように見える奴が、すぐ近くに二人いる。
ラインハルトとケンジだ。
二人とも、騎士やら侍やらに、妙に憧れを持っていた。
そして、その憧れの騎士の中の最上級、円卓の騎士に任命されたのだ。
二人ともアトレシア大陸というか、ダンジョン内の小さなコロニーで育った。
それが、異世界である第35階層に来て、大国ブリテン王国までやって来たのだ。
見るもの全てが、壮大で巨大。
ブリテン王国なんてちっちゃな島国なのだが、アマイモンの箱庭であったアトレシア大陸より全然大きかったりする。
そんな巨大な王国の円卓の騎士になったのだ。
テンションが高くなり過ぎて、おかしな事になってしまっている。
「まあまあ、メアリー君。そんなに怒らないでくれたまえ!
セドリック君も、そんなに悪気があった訳ではないのだよ!」
ラインハルトが気持ち悪い喋り方で、何か言っている。
円卓の騎士になったので、それ相応な喋り方をしないといけないと思っているようだ。
「セドリックお兄様は悪くないのでございまする!
セドリックお兄様の言葉は、全て威厳に満ちて、絶対に間違いがないのでございまする!」
アホなケンジが、いつも以上にアホになっている。
こんなアホアホな奴らを揃えて、そもそも会議など出来るのか?
というか、ただ、アンとアナスタシアが、今後の予定と作戦を言ってるだけのような気がするが……。
きっと、気のせいだ。
一応、円卓会議なので、議論をぶつけあっていると信じよう。
間違っても、上司が部下に、今後の作戦を説明してるだけではないのだ。
ーーー
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