上 下
298 / 568

298. 会議は続く、されど進まず

しおりを挟む
 
「それでは騎士叙任式を始めます」

 無駄に威厳があるブリテン女王アンが宣言する。
 それと同時に、アンの隣に居たアナスタシアが、鞘から見覚えがある剣を抜き、アンに手渡した。

「聖剣エクスカリバー……」

「ハイ! アナスタシアさんが、ブリテン王国の至宝聖剣エクスカリバーを借りて来てくれました!」

「ブリテン王国の至宝を借りて来た?」

 意味が分からない。
 貸してたのを、借りて来た。
 ただ、返して貰っただけじゃないのか?

「ハイ。聖剣エクスカリバーは、訳あって、アトレシア大陸のハルマン王家に貸し出されていたという事でしたので!」

「ブリテン王国の至宝なのに、また、ハルマン王家に返さないといけないのか?」

「ハルマン王家に貸し出ししてるのは、始祖様であるアルトリア·ペンドラゴンの意志ですので!」

 よく分からないが、色々事情があるのだろう。
 俺は、ブリテン王国の人間じゃないから、知ったこっちゃないけど。

「セド君。片膝着いて、顔を下げるのよ」

 アナスタシアが、小声で俺に話し掛けてくる。
 そんぐらい知ってるわい!
 メアリーと騎士ごっこした事あるし。

「ご主人様。アナスタシアさんには、思った事、口にださないんですね」

 俺の頭の中を読めるシロが、一々指摘してくる。
 アナスタシアは、俺の子供の頃から良くしてくれるお母さんみたいな人で、俺の初恋の女性。
 そんな人に、「そんぐらい知ってるわい!」とか、汚い言葉使えるかよってんだよ!

「ご主人様にも、まともな心があるんですね!」

「俺は、どう見ても常識人だろ!」

「セド君。五月蝿いわよ!今は、騎士叙任式の最中なのよ! 」

 アナスタシアに怒られた。
 少し凹み、おとなしく片膝をついて頭を下げる。

「貴方を、円卓の騎士に任命します」

 アンは、無駄に威厳な雰囲気を醸しだしながら、聖剣エクスカリバーの剣の平で、肩を3回叩く。

 続けて、同じように、シロとミレーネの肩も聖剣エクスカリバーで3回叩いた。

 シロとミレーネは、とても嬉しそうだ。

 歴史好きなシロは、ただ、アーサー王の円卓の騎士に憧れてただけだと思うが、ミレーネは涙を浮かべ喜んでいる。

 多分、今迄、差別されて生きて来た事を、色々思い出したのであろう。
 まあ、ブリテン王国に所属していたドレーク海賊団が、一番の差別の元凶だったんだけど。

 それを助けてくれたのが、メアリーアン海賊団で、そのお頭だったアンが、今やブリテン王国の女王になってしまったのだ。

 ミレーネ的には、少し複雑な気分なのかもしれない。

「全て、始祖様のお導きのお陰でございます」

 どうやら、俺が頭の中で考えてた事が、念話でミレーネに流れていたらしい。
 早く、念話のコントロールを覚えなければと思う、今日この頃であった。

 そうこうしてると、

「終わったら、とっとと席に座るのニャ!」

 どこからか、ミーナの声が聞こえてきた。
 アンとアナスタシアは、いつの間にか円卓の自分の席に座っている。

「ミーナの声が……。幻聴か?」

「僕も、どこかからミーナさんの声が聞こえました!」

 シロも、どうやらミーナの声が聞こえたらしい。
 しかし、ミーナの姿は、どこにも見当たらない。

「ここに居るニャ!」

 猫の勇者ミーナが、円卓の上に出現する。
 どうやらミーナは、円卓の椅子に座っていて、俺達には見えなかっただけだったようだ。

 俺は生意気なミーナを睨みつけながら、空いてる席に座る。

「これで、アン女王の円卓の騎士が、全員揃ったわね!」

 アナスタシアが、満足気味に涙目になりながら、一人でウンウン頷いている。
 アナスタシアも、結構歳だから、涙脆くなっているのだろう。

 勝手に、アンの事を孫かなんかと勘違いして、感極まっているのかもしれない。

「ご主人様の鈍感さも、ここまで行くと病気ですね……」

 何故かシロが、俺の心を読んで呆れている。
 アナスタシアが、孫のような年頃のアンを見て涙目になってる事と、俺の鈍感さは何も関係ないだろ!
 というか、俺は鈍感じゃないんだけど!

「そうですね」

 シロは、全く感情を込めずに肯定した。

 ーーー

「それでは、円卓会議の開始を、ここに宣言します!」

 無駄に威厳が有り過ぎるアン女王が、聖剣エクスカリバーを天に掲げ、円卓会議の開始を宣言した。

 そしてすごすごと、聖剣エクスカリバーをアナスタシアに返却した。
 どうやら聖剣エクスカリバーは、円卓会議の開始の宣言に必要なので、貸出し中のハルマン王家から今だけ返却して貰っただけのようだ。

「ご主人様、後、円卓の騎士を任命する時にも使ったじゃないですか!」

「それな!」

 優秀なシロが付け加える。

 てな訳で、粛々と会議が執り行われる。

 俺は、ブリテン王国と十字軍の戦争は、正直興味がないので上の空。
 きっと、シロが聞いていてくれるだろう。

 だって、シロはブリテン王国と十字軍の戦いに参加する事に乗り気だし。
 円卓の騎士に選ばれた事が、とても嬉しそうだし。

 そもそもブリテン王国の男爵になってしまったので、国の為に戦わなければならない義務が発生してしまっているのだ。

「会議は踊る、されど進まず」

「ご主人様、何言ってるんですか?
 会議は順調に進んでますし、誰も踊ってないですよ?」

「ただ、言ってみたかっただけだよ!」

 シロは、全然分かってない。
 俺は、思った事を口に出したい病なのだ。

「そうですね。確かに昔は、突然、『人肉食いてぇーー!』とか、『脳ミソ食べてぇーー!』とか、叫んでましたもんね!」

「それ、今更言う? 俺にとって、滅茶苦茶黒歴史なんだけど……」

「ご主人様も、実を言うと、人肉好きなんですよね!」

「あの時は、スケルトンで、種族的な欲求が抑えられなかっただけだ!
 本来の俺は、人肉になんか興味ねーし!」

「でも、あの時、一度でも人肉食べてたら止められなくなってしまったと思いますよ!」

「食べてたらな! しかし、俺は一度も人肉を口にしなかった!」

「お前ら、何の話をさっきからしてるんだ?
 人肉食べたいとか、食べなかったとか、サイコ野郎かよ!」

 アン女王の双子の妹メアリーが、俺とシロの言い争いを、怪訝な顔をして注意してくる。

「メアリーの癖に、俺に注意してくるとは生意気な」

 なんか、アホな筈のメアリーが、大国ブリテン王国の姫様になったせいで、頭が良さそうに見えてくる。

「ご主人様、頭が良さそうに見えるのは気のせいですよ!」

「確かに……」

 人間の、性格はそんなに直ぐに変わるもんじゃない。
 というか、変わったように見える奴が、すぐ近くに二人いる。

 ラインハルトとケンジだ。

 二人とも、騎士やら侍やらに、妙に憧れを持っていた。
 そして、その憧れの騎士の中の最上級、円卓の騎士に任命されたのだ。

 二人ともアトレシア大陸というか、ダンジョン内の小さなコロニーで育った。
 それが、異世界である第35階層に来て、大国ブリテン王国までやって来たのだ。

 見るもの全てが、壮大で巨大。
 ブリテン王国なんてちっちゃな島国なのだが、アマイモンの箱庭であったアトレシア大陸より全然大きかったりする。

 そんな巨大な王国の円卓の騎士になったのだ。
 テンションが高くなり過ぎて、おかしな事になってしまっている。

「まあまあ、メアリー君。そんなに怒らないでくれたまえ!
 セドリック君も、そんなに悪気があった訳ではないのだよ!」

 ラインハルトが気持ち悪い喋り方で、何か言っている。
 円卓の騎士になったので、それ相応な喋り方をしないといけないと思っているようだ。

「セドリックお兄様は悪くないのでございまする!
 セドリックお兄様の言葉は、全て威厳に満ちて、絶対に間違いがないのでございまする!」

 アホなケンジが、いつも以上にアホになっている。
 こんなアホアホな奴らを揃えて、そもそも会議など出来るのか?

 というか、ただ、アンとアナスタシアが、今後の予定と作戦を言ってるだけのような気がするが……。

 きっと、気のせいだ。

 一応、円卓会議なので、議論をぶつけあっていると信じよう。

 間違っても、上司が部下に、今後の作戦を説明してるだけではないのだ。

 ーーー

 ここまで読んで下さりありがとうございます。
 面白かったら、お気に入りにいれてね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

処理中です...