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265. 誰も知らない

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 攻略10日目、俺達は、370階層に突入にしている。

 出てくる魔物もSSS級ばかり。
 滅茶苦茶骨が折れる。

「ご主人様! 右の魔物は任せて下さい!」

「て、おい! 左の魔物の方が強そうだろ!」

「ご主人様は、死なないから頑張って下さい!」

「死なないから頑張れって、無理だろ!」

「僕は、普通に死んじゃうんです!
 ご主人様、僕が居なくて生きていけるんですか?
 洗濯も掃除も出来ないのに?」

 シロが痛い所をついてくる。
 確かに、俺は何もできない。
 というか、シロが居ない時は、普通にできていた。
 しかし、便利メイド、シロになれきってしまった今の俺には、できないのだ。

「取り敢えず、頑張ってみる……」

「右の魔物を倒したら、すぐに助けますから、それまで耐えて下さい!」

「分かった!」

 てな感じで、俺達は、ギリギリの所で戦っている。
 というか、何度か再起不能になっている。
 その度に、動けなくなった俺を、シロが糸で回収し、階段フロアーまで逃げ帰るのだ。

「キツい……。キツ過ぎる……」

「確かに、攻略済みのSSSダンジョンと全く違いますね……」

「ああ。敵の数が多すぎるし、よく分からんが、攻略済みのSSS級の魔物より強い気がする……」

「ダンジョンに漂ってる魔素の濃度が全然違いますからね」

 シロが指摘する。

「まあ、確かに、階段フロアーに結界が張ってないから、下層の濃い魔素が、上層にドンドン上がっていって、普通より強い魔物が生まれるんじゃないのか?」

「ブリトニー姉様が居た時は、楽でしたね……」

「フラグになっちゃうから、その名前を出すな!」

 俺は、シロにキツく注意する。

「まあ、でも、南の大陸で未攻略ダンジョンの攻略をすれば、ご主人様の戦闘技術はドンドン上がりますね」

「まあな。アムルーダンジョンではスライムを倒すだけで、簡単にレベルが上げれたからな」

 そう、俺は今まで楽をしていた。
 楽をしてたから強くなれなかった。
 そんなだから、肝心な所で、いつも負けてしまうのだ。

「ご主人様、大丈夫です!
 最後の最後に、1度だけ勝てれば、ご主人様の勝ちなんです!
 漢の高祖、劉邦のように!」

 また、シロが、大好きな歴史を絡めて諭してくる。

「一勝百敗将軍だな」

「そうです。100回負けても、最後に1度だけ勝てれば、成功なんです!」

 という事は、俺は、このまま100回も負けないといけないのか……。
 気が遠くなる。
 黒髭に何度も殺されたの、トラウマなのに。

「出来れば、もう殺されたくないんだけど」

「だったら強くなって下さい!」

 シロが、最もな事を言う。
 というか、簡単に言うな!
 俺は、進化する度に、lv.1になってしまうんだぞ!

「だから、早く始祖になって欲しいんですよ!」

「というか、始祖が最終形態なのか?」

 俺は気になり質問する。

「分かりませんけど、始祖で進化を止めればいいんじゃないですか?」

「じゃあ、今のままでもいいだろ?」

「バンパイアより、始祖の方が格好良く有りませんか?」

「確かに……」

 ーーー

 そんな感じで、更に10日後。

 俺達は、遂に、第400階層のラスボス部屋前に到達したのだった。

「ご主人様、やっとここまで来れましたね」

「やっとだな……」

「ラスボスは、4Sの魔物と思いますよ」

「俺達に勝てるのか?」

「二人で協力すれば、何とかいける気がしますけどね。
 だけど、敵は、ラスボスだけじゃ有りませんよ」

「SSS級が、5匹はいるな……」

「もしかしたら、4S下位の魔物も居るかもしれませんよ!」

「無理じゃね……」

 俺は、ここに辿り着くまでに、何度も死にかけている。
 というか、不死じゃなければ死んでいた。
 本当にギリギリの戦いだったのだ。

 ん?本来なら死んでたので、ギリギリは越えてるのか?
 まあ、兎に角、やっとの事でここに辿り着いたのだ!

「ご主人様。今迄のように、何度もチャレンジすればいいんですよ!」

「百敗一勝将軍だな。というか、俺はここに来るまでに100回以上死にかけてると思うんだが……」

 そう、俺達は、380階層位から、殺られに殺られまくった。
 だって、SSSの魔物が団体で襲ってくるんだもん。
 そんなの対処できる筈ないじゃん!

「なら、千敗一勝将軍を目指しましょう!」

「お前、アホなの?千敗一勝将軍なんて、目指すもんじゃないだろ!
 結果的にそうだったという事で、何で千敗目指さなきゃならないんだ!」

「確かに……。言われてみればそうですね。
 結果を意識し過ぎて、課程を蔑ろにしてました」

「そういう事なの?」

「分かりませんけど。漢の高祖、劉邦を越える『千敗一勝将軍』という称号がほしくて、そうなる為の課程を軽視してたのは確かです……」

「アホなの……」

「僕は、ご主人様に凄くなって欲しかったんです!」

 シロが、熱い目をして訴えてくる。

「千敗する事が、凄い事なのか?」

「劉邦は越えます!」

「それ、張り合う所じゃ無いと思うんだけど」

「だけど、英雄になるには、凄い逸話が必要なんです!」

 シロの圧が凄い。
 シロは、俺を、歴史に残るような英雄にしたいというか、育てたいのだ。

「劉邦の二番煎じの気がするけど……」

「この世界には、劉邦いないので問題無いです!」

「そうだな。いない人の事は、誰も知らないしな!
 だったら、百敗一勝将軍でいいんじゃない?
 誰も、劉邦知らないし」

「アッ……」

 俺の核心をついた言葉に、シロは言葉を失った。

 ーーー

 ここまで読んで下さりありがとうございます。
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