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252. 影渡り
しおりを挟む俺達は、順調に未攻略ダンジョンの下層に向かっている。
そして、250階層に到着した時点で、
「今から修行を始めるニャ!」
やっと、ハラダ·ハナの修行が始まるようだ。
とは言っても、完全実践形式。
ただ単に、ハラダ·ハナが前に出て、出てくる魔物を倒すだけ。
しかしながら、この未攻略ダンジョンの250階層の魔物は強過ぎる。
何せ、普通にSSS級とか、SSSS級とかの魔物が出てくるのだ。
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
「違うニャ! もっと、こうニャ!」
ブリトニーが、ハラダ·ハナの剣筋を見て、悪い所を指摘する。
「違う! ズバッ! ズバッ! ズバッ! ニャ!」
感覚的過ぎて、何を言ってるか分からない。
「こうですか?」
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
「そうニャ! 少しだけ良くなったニャ!」
剣姫ハラダ·ハナには、ブリトニーの感覚的な言葉が分かるらしい。
流石は天才同士。
俺とシロは、そんなハラダ·ハナとブリトニーの修行を見守るだけ。
下手に戦いに参加でもしようものなら、魔物に殺られてしまう可能性も有るのだ。
「ご主人様……。南の大陸って凄いですね……」
「ああ……レベルが違う」
俺もシロも戦いには、それなりに自信があった。
しかし、ハラダ·ハナを見て、本当の天才の凄さを分からされた。
ケンジも天才だと思っていたが、ハラダ·ハナと比べれば霞んで見えてしまう。
流石は、剣の神に愛されていると言われる、剣姫の称号を持つ少女。
全てにおいて、格が違う。
無駄の無い洗練された動き。
魔物と戦っているというより、あまりに軽やか過ぎて、剣舞を舞っているようにしか見えない。
軽そうに見えるが、鋭く、速く、最適な軌道を描くので、面白いように、スパン! スパン! と、魔物を斬り裂いていくのだ。
「違うニャ! ズレたニャ! 2ミリ上なのニャ!」
ブリトニーが、最早、何を言ってるのか分からない。
俺から見ると、魔物を真っ二つにしてるのに、何が2ミリ上なのか分からないのだ。
「またニャ! 何で出来ないのニャ!」
ブリトニーが、怒り出す。
「だから、こうニャ!」
どうしても勘弁ならなかったのが、ブリトニーが前に出て、未攻略ダンジョンに来てから初めて剣を抜いた。
スパン!
ブリトニーが斬った魔物の上半身が、下半身から滑り落ちる。
ズドン!
遅れて、切り口から血が、ブシュー! と飛び散る。
確かに違う。
まず、第一にスピードが違う。
ハラダ·ハナの剣筋は、何とか見えるが、ブリトニーの剣筋は全く見えなかった。
それから、真っ二つになった魔物のずり落ち方。
全く抵抗が無く、スルリとずり落ちるのだ。
計算されつくされた角度。
鋭角過ぎず、鈍角過ぎず。
上半身と下半身が絶妙な感じで、スライドして滑り落ちるのだ。
きっと、斬られ魔物は、自分に何が起こったか分からない筈だ。
気づいた時には、地面にキスしているのだから。
「どうニャ? 分かったニャ?」
「頑張ります!」
まあ、ハラダ·ハナ的には、頑張るとしか言えないわな。
だって、次元が違うし。
ブリトニーの剣筋は、メアリーが精神と時の部屋で1000年続けた上段からの一撃と、同じそれ。
ブリトニーは、全く闘気を纏わず魔物を斬り裂いたが、本気で闘気を込めれば、メアリーの上段からの一撃と同じくらいの威力になる筈だ。
というか、体に闘気を纏っているSSSS級の魔物を、闘気無しで斬り裂くなんて、それ自体セオリーを無視しているのである。
基本、闘気を纏う敵には、闘気無しでは絶対に倒せないという不変の理を、ブリトニーは苦もなく破っている。
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
「違う! 違う! 違うニャ!」
ハラダ·ハナの剣筋を見て、ブリトニーは、一々ダメ出しをする。
結構、スパルタだ。
ズバッ!
「1ミリズレたニャ!」
ズバッ!
「今度は、3ミリ!」
ズバッ!
「何やってるニャ! 5ミリズレたニャ!」
俺達とは、目指してる場所が違う。
「こんな世界も有るんですね……」
「ああ。敵を一撃で倒してる時点で、オレ的には100点なんだけどな……」
こんな感じで、今日1日の修行が終わった。
結局、ハラダ·ハナは、一度もブリトニーが納得する剣筋で魔物を斬る事が出来なかったのだった。
「それじゃあ、昨日の階層に戻るのニャ!」
「ん!?」
「アッ! そうニャ……お前達、冒険者ブレスレット持って無かったのね……。なら仕方が無いニャ……【影渡り】スキルをあげるのニャ!」
「【影渡り】スキル? スキルを上げる?」
「ハナ、先に昨日泊まった階層に移動するのニャ!」
全く意味が分からない。
昨日の場所に行くには、半日掛かるだろ?
とか、思ってると、ハラダ·ハナは、階段を下りて行った。
「一人で行かせて良かったんですか?」
「大丈夫ニャ! 階段に張ってある移転装置で、移転しただけニャ!」
何と、この世界では移転が、案外身近に行われてるようである。
「じゃあ、俺達も移転すればいいんですね!」
「出来ないニャ! 冒険者だけが使える移転装置を使ってるので、冒険者ブレスレットが無いと移転出来ないのニャ!」
「そうなんですか……なら、俺達は、この階層で野営すればいいんですね」
「そんな訳無いニャ! シロとポークビッツは、私のモノなのニャ!
寝る時、絶対必要なのニャ!
だから、特別に、ゴトウ族でもないのに、【影渡り】スキルを与えたのニャ!」
「スキルの讓渡なんて、普通、出来るんですか?」
「【族長】スキルを持ってれば可能なのニャ!
兎に角、見本を見せるから、真似するのニャ!」
ブリトニーは、そう言うと、自分の影の中に沈んで、シロの影の中から出てきた。
「こんな感じニャ! 私とシロとポークビッツだけにパスを繋いだのニャ!
3人専用の【影渡り】スキルなのニャ!」
なんか、ブリトニーに凄過ぎるスキルを貰ってしまった。
しかし、これは、一生、ブリトニーに隷属しないといけない事を意味するのでないか……。
だって、何時でも何処でも、影を渡って俺達の元に来れてしまうのだろ?
隙を見て逃げ出すつもりだったが、これでは何処に逃げたとしても、ブリトニーに捕まってしまう……。
「ご主人様……」
シロが、俺の思考を読んで心配している。
「心配するなシロ。俺はブリトニーを、そんなに嫌いじゃない。
どちらかというと好きな方だ。
だって、美人だし、オ〇パイ吸わせてくれるしな!」
「ヤッパリ、ご主人様の行動原理ってエロだけなんですね……」
シロは、呆れた顔をして納得した。
ーーー
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