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197. 精神と時の部屋
しおりを挟む「100年間?!しかも、飲まず食わずだって!!」
「ごめんなさい。間違えたわ」
俺は、アナスタシアの言い間違えに安堵する。
多分、100年じゃなくて、100日の間違いだろう。
まあ、100日でも相当だけど、100年よりはマシだ。
「飲まず食わずだけじゃなくて、不眠不休で100年ね!」
「そんなの無理! 1週間も食べ物も栄養も取らずに不眠不休で運動し続けたら、普通の人間は死んでしまうから!」
「だけど、セド君は不死身だから死なないでしょ?」
「死なないけど、また、骸骨になっちゃうでしょ!」
「フフフフス、冗談よ!」
アナスタシアが、口を押さえて笑っている。
これだから、ババアの冗談は……。
ババアは、歳を重ねる事に本気で言ってるか、冗談で言ってるのか分からない、度を越えたボケをかましてくるようになってくるのだ。
「ご主人様。これを使うんですよ」
シロが巨大な小屋を、魔法の鞄から取り出した。
小屋なのに巨大と言うと語弊があるが、ちょうど、人間2人が素振りが出来る程の小屋である。
「まさか、精神と時の部屋?」
「はい、そのまさかの精神と時の部屋の部屋です!
アナスタシアさんに言われて、セッセッと作りました!」
シロは、なんていう物まで作りだしてしまったのだ……。
まあ、修行と言ったら、ドラゴン〇ールの精神と時の部屋だが、そんな神の神殿最下層にあるシロモノまで自作できるようになってしまうとは……。
「こんなの誰だって作れますよ! 他の異世界もののラノベでも、変なお爺さんが1億年ボタンとかいう、精神と時の部屋みたいのを主人公にくれたりするじゃないですか!」
「確かに……」
どうやら、俺の地球の記憶の中にあるアニメやラノベの知識を、シロ的には実現可能で実在する普通の技術だと思っているようである……。
まあ、実際に作ってしまっているので、目の前に実在しているのだけど。
「でもって、これの凄い所は、時間設定を自由に決めれる所です!
例えば、100年を1時間にするとか、1000年を5分にするとか!
だけど、余りに無茶な設定をすると精神が壊れてしまうので注意して下さいね!」
まあ、精神と時の部屋という設定自体が無理が有るのだけど、時間縛りが無くなり自由に設定など出来たら、そりゃあ何か弊害が出てくるだろうな。
「それじゃあ、100年を1日にするのはどうかしら?」
「それくらいなら、問題無い筈です!」
アナスタシアの提案に、シロは何も問題が無いとOKを出した。
「取り敢えず、セド君とメアリーちゃんは、私に素振りを見せてみて!」
俺とメアリーは、アナスタシアに言われる通りに上段からの素振りを見せる。
「ウン。大体イイわよ! セド君は木刀を振り上げる時、右肩をもうチョット高く上げてみて!
メアリーちゃんは、振り下ろす時に、もっと脇をしめて!
そう、そんな感じ!
その感じを忘れないように、精神と時の部屋で、100年間休まずに素振りを続ける事!」
「本当に100年間も、素振りを続けないといけないのかよ?」
俺は、一応聞いてみる。
100年間も、素振りだけの生活なんて耐えられないし、現実的だとは思えないのだ。
「素振りは基本よ! 基本さえシッカリしてたら強くなるんだから!」
「ご主人様! ドラ〇ンボールや1億年ボタン以外にも、500年素振りを続けて剣聖になる話しとかも有ったでしょ!
今の時代の異世界ものは、修行をしてからチートを手に入れるのは基本なんですよ!」
シロが、一般的な人間の常識では無い、日本のアニメやラノベの常識を振りかざしてきた。
「まあ、そうだけど……もしかして、1億年とか、500年の修行とかと比べると現実的なのか……」
日本のアニメやラノベに毒されている俺は、思わず納得してしまいそうになる。
「セドリック……100年飲まず食わずの不眠不休での素振りなんて、流石に現実的では無いと思うぞ!」
地球のアニメとラノベを知らないメアリーが、常識的な事を言ってきた。
「メアリーちゃん。常識的な修行をしていても、人は強くはなれないのよ!」
アナスタシアが、我が子を鍛える為に崖から突き落とすライオンのような事を、メアリーの親でも親族でもないのに言ってきた。
「だけど……」
メアリーの心が揺らぐ。
「こんなの、セド君が居た日本という国では常識らしいわよ!
シロちゃんに、魔法の鞄のような時が止まる部屋を作れないかと相談してみたら、
『精神と時の部屋みたいな感じですね!
完全に時間を止まってる空間に生き物を入れると、魔法の鞄と同じで害が出てきますから、部屋の中を少しだけ時間を進むように細工すれば良いだけです!
精神と時の部屋は、地球のアニメやラノベでは良くある修行方法なので、実は、ご主人様の修行用にと試作品は作ってあるんですよね!』
とか、言ってたわよ!」
「な……なんと! 日本の常識だったのか!」
メアリーは日本と聞いて、一瞬で全て受け入れてしまったようだ。
メアリーまでヤル気になってしまったら、もうやるしかない。
それに、俺は知っているのだ。
精神と時の部屋で修行すると、滅茶苦茶パワーアップ出来る事を!
まあ、アニメやラノベの受け売りだけどね。
「それじゃあ、2人とも、時間をセットしますので、精神と時の部屋の中に入って下さい!」
シロが、俺とメアリーに精神と時の部屋に入るように急かしてくる。
どうやら時間のセットは、部屋の外側の扉のボタンで設定するようだ。
「言っときますけど、時間が経つまで扉は開きませんから!
もし途中で無理矢理、中から開けようとすると、次元の狭間に落ちて一生抜け出せれなくなるかも知れませんからね!」
なんか、精神と時の部屋の部屋に入る直前になって、シロが恐ろしい事を言ってきた。
「それじゃあ、セットしたんで扉を閉めますよ!」
シロが、最終確認をしてくる。
「ああ!」
「本当にいいですか?」
「いいぞ!」
「本当に?」
「いい!」
「本当に本当に?」
「くどい!」
「くどい!って、言い過ぎじゃないですか?」
「くどいから、くどいんだよ!」
「ご主人様、生意気ですよ!」
「お前が、クドクド五月蝿いからだろ!」
「僕が今、ご主人様の生殺与奪の権利を持ってるのに、分かって生意気言ってるのですか?」
「生殺与奪の権利って、ただ精神と時の部屋で修行するだけだろ!」
「精神と時の部屋で修行すると、精神が崩壊してしまうって相場が決まってるんです!
心が弱いご主人様なんか、直ぐに心が壊れてしまうんじゃないかと心配して、何度も確認とってたんじゃないですか!」
シロが涙目で訴えてくる。
少し、シロに悪い事を言ってしまった。
「悪い男の子には、お仕置です!
エイ!」
「えっ! アナスタシアさん! 1000年って!駄目ですよ!」
シロが、アナスタシアの突然の行動に慌てふためいている。
「それじゃあ、セド君、メアリーちゃん! 2人っきりで、頑張ってね♡」
アナスタシアは そう言うと、シロの制止を振り切り、精神と時の部屋の扉を、バタン! と閉めてしまった。
俺とメアリーは、扉が閉められてしまった精神と時の部屋の部屋の中で、お互いポカンと見つめ合う。
そして、
「「えぇぇぇぇぇぇーー!」」
俺とメアリーの素っ頓狂な叫び声が、素振りをするのがやっとの広さの、精神と時の部屋の中で虚しく聞こえた。
ーーー
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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