上 下
198 / 568

197. 精神と時の部屋

しおりを挟む
 
「100年間?!しかも、飲まず食わずだって!!」

「ごめんなさい。間違えたわ」

 俺は、アナスタシアの言い間違えに安堵する。
 多分、100年じゃなくて、100日の間違いだろう。
 まあ、100日でも相当だけど、100年よりはマシだ。

「飲まず食わずだけじゃなくて、不眠不休で100年ね!」

「そんなの無理! 1週間も食べ物も栄養も取らずに不眠不休で運動し続けたら、普通の人間は死んでしまうから!」

「だけど、セド君は不死身だから死なないでしょ?」

「死なないけど、また、骸骨になっちゃうでしょ!」

「フフフフス、冗談よ!」

 アナスタシアが、口を押さえて笑っている。
 これだから、ババアの冗談は……。
 ババアは、歳を重ねる事に本気で言ってるか、冗談で言ってるのか分からない、度を越えたボケをかましてくるようになってくるのだ。

「ご主人様。これを使うんですよ」

 シロが巨大な小屋を、魔法の鞄から取り出した。
 小屋なのに巨大と言うと語弊があるが、ちょうど、人間2人が素振りが出来る程の小屋である。

「まさか、精神と時の部屋?」

「はい、そのまさかの精神と時の部屋の部屋です!
 アナスタシアさんに言われて、セッセッと作りました!」

 シロは、なんていう物まで作りだしてしまったのだ……。
 まあ、修行と言ったら、ドラゴン〇ールの精神と時の部屋だが、そんな神の神殿最下層にあるシロモノまで自作できるようになってしまうとは……。

「こんなの誰だって作れますよ! 他の異世界もののラノベでも、変なお爺さんが1億年ボタンとかいう、精神と時の部屋みたいのを主人公にくれたりするじゃないですか!」

「確かに……」

 どうやら、俺の地球の記憶の中にあるアニメやラノベの知識を、シロ的には実現可能で実在する普通の技術だと思っているようである……。
 まあ、実際に作ってしまっているので、目の前に実在しているのだけど。

「でもって、これの凄い所は、時間設定を自由に決めれる所です!
 例えば、100年を1時間にするとか、1000年を5分にするとか!
 だけど、余りに無茶な設定をすると精神が壊れてしまうので注意して下さいね!」

 まあ、精神と時の部屋という設定自体が無理が有るのだけど、時間縛りが無くなり自由に設定など出来たら、そりゃあ何か弊害が出てくるだろうな。

「それじゃあ、100年を1日にするのはどうかしら?」

「それくらいなら、問題無い筈です!」

 アナスタシアの提案に、シロは何も問題が無いとOKを出した。

「取り敢えず、セド君とメアリーちゃんは、私に素振りを見せてみて!」

 俺とメアリーは、アナスタシアに言われる通りに上段からの素振りを見せる。

「ウン。大体イイわよ! セド君は木刀を振り上げる時、右肩をもうチョット高く上げてみて!
 メアリーちゃんは、振り下ろす時に、もっと脇をしめて!
 そう、そんな感じ!
 その感じを忘れないように、精神と時の部屋で、100年間休まずに素振りを続ける事!」

「本当に100年間も、素振りを続けないといけないのかよ?」

 俺は、一応聞いてみる。
 100年間も、素振りだけの生活なんて耐えられないし、現実的だとは思えないのだ。

「素振りは基本よ! 基本さえシッカリしてたら強くなるんだから!」

「ご主人様! ドラ〇ンボールや1億年ボタン以外にも、500年素振りを続けて剣聖になる話しとかも有ったでしょ!
 今の時代の異世界ものは、修行をしてからチートを手に入れるのは基本なんですよ!」

 シロが、一般的な人間の常識では無い、日本のアニメやラノベの常識を振りかざしてきた。

「まあ、そうだけど……もしかして、1億年とか、500年の修行とかと比べると現実的なのか……」

 日本のアニメやラノベに毒されている俺は、思わず納得してしまいそうになる。

「セドリック……100年飲まず食わずの不眠不休での素振りなんて、流石に現実的では無いと思うぞ!」

 地球のアニメとラノベを知らないメアリーが、常識的な事を言ってきた。

「メアリーちゃん。常識的な修行をしていても、人は強くはなれないのよ!」

 アナスタシアが、我が子を鍛える為に崖から突き落とすライオンのような事を、メアリーの親でも親族でもないのに言ってきた。

「だけど……」

 メアリーの心が揺らぐ。

「こんなの、セド君が居た日本という国では常識らしいわよ!
 シロちゃんに、魔法の鞄のような時が止まる部屋を作れないかと相談してみたら、
『精神と時の部屋みたいな感じですね! 
 完全に時間を止まってる空間に生き物を入れると、魔法の鞄と同じで害が出てきますから、部屋の中を少しだけ時間を進むように細工すれば良いだけです!
 精神と時の部屋は、地球のアニメやラノベでは良くある修行方法なので、実は、ご主人様の修行用にと試作品は作ってあるんですよね!』
 とか、言ってたわよ!」

「な……なんと! 日本の常識だったのか!」

 メアリーは日本と聞いて、一瞬で全て受け入れてしまったようだ。

 メアリーまでヤル気になってしまったら、もうやるしかない。
 それに、俺は知っているのだ。
 精神と時の部屋で修行すると、滅茶苦茶パワーアップ出来る事を!
 まあ、アニメやラノベの受け売りだけどね。

「それじゃあ、2人とも、時間をセットしますので、精神と時の部屋の中に入って下さい!」

 シロが、俺とメアリーに精神と時の部屋に入るように急かしてくる。
 どうやら時間のセットは、部屋の外側の扉のボタンで設定するようだ。

「言っときますけど、時間が経つまで扉は開きませんから!
 もし途中で無理矢理、中から開けようとすると、次元の狭間に落ちて一生抜け出せれなくなるかも知れませんからね!」

 なんか、精神と時の部屋の部屋に入る直前になって、シロが恐ろしい事を言ってきた。

「それじゃあ、セットしたんで扉を閉めますよ!」

 シロが、最終確認をしてくる。

「ああ!」

「本当にいいですか?」

「いいぞ!」

「本当に?」

「いい!」

「本当に本当に?」

「くどい!」

「くどい!って、言い過ぎじゃないですか?」

「くどいから、くどいんだよ!」

「ご主人様、生意気ですよ!」

「お前が、クドクド五月蝿いからだろ!」

「僕が今、ご主人様の生殺与奪の権利を持ってるのに、分かって生意気言ってるのですか?」

「生殺与奪の権利って、ただ精神と時の部屋で修行するだけだろ!」

「精神と時の部屋で修行すると、精神が崩壊してしまうって相場が決まってるんです!
 心が弱いご主人様なんか、直ぐに心が壊れてしまうんじゃないかと心配して、何度も確認とってたんじゃないですか!」

 シロが涙目で訴えてくる。
 少し、シロに悪い事を言ってしまった。

「悪い男の子には、お仕置です!
 エイ!」

「えっ! アナスタシアさん! 1000年って!駄目ですよ!」

 シロが、アナスタシアの突然の行動に慌てふためいている。

「それじゃあ、セド君、メアリーちゃん! 2人っきりで、頑張ってね♡」

 アナスタシアは そう言うと、シロの制止を振り切り、精神と時の部屋の扉を、バタン! と閉めてしまった。

 俺とメアリーは、扉が閉められてしまった精神と時の部屋の部屋の中で、お互いポカンと見つめ合う。

 そして、

「「えぇぇぇぇぇぇーー!」」

 俺とメアリーの素っ頓狂な叫び声が、素振りをするのがやっとの広さの、精神と時の部屋の中で虚しく聞こえた。

 ーーー

 ここまで読んで下さりありがとうございます。
 面白かったら、お気に入りにいれてね!
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...