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193. 便利な言葉

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 アナスタシアは、「フフフフフ、この人を医務室に連れてくわね!」
 と、言って、気絶したドレークをネムラム姉妹に担がせ、俺達の前からそそくさと消えた。

 多分、医務室で介抱というか、焼きを入れるのだろう。
 まあ、誰でも自分の汗を舐められて、その味の感想を言う奴なんか、グーパンの一つもお見舞いしてやりたくなるものだ。

 ネムラム姉妹なんか、この後、訪れるであろう惨劇を想像して号泣してしまってるし。

 とかやってると、1階エントランスの騒動を聞きつけ、冒険者ギルド長のブルースがやって来た。

「お前ら、何やってるんだ?」

「見てわかんねえーのかよ!
 魔王が、アムルー冒険者ギルドに殴り込みを掛けてきたんで、応対してんだよ!」

 ラインハルトは、ブルースに怒鳴りながら返答する。
 まあ、メアリーの見た目は、この世界の伝承に出てくる魔王(悪魔)と瓜二つなので仕方が無い。
 悪魔の角は、羊の角が定番なんだけど、この世界の人間には、鬼人族の角と悪魔の角の違いが分からないのであろう。

「お前、巨乳の姉ちゃんの後ろに、シロちゃんが居るの気付いてないのか?」

「へ?」

「へ? じゃないだろ? よく見てみろ!」

「アッ! 姉御!」

 やっと、ラインハルトはシロの存在に気付いたようだ。

 まあ、冒険者ギルドの扉の前で仁王立ちしているメアリーがデカすぎて、俺達を完全に隠していたのだけど。

「シロちゃん、その人達は味方だよな?」

 ブルースが、恐る恐るシロに質問する。

「味方です!」

「そうか。なら、安心した! で、セドリックは、今日は来てないのか?」

 俺は、シロの薄桜色のサクランボをガジガジする。

「アッ! ハイ。今日は来てません……」

 俺の心を読めるシロが、機転を聞かせて、居ないと言ってくれた。

「ん? ていうか、セドリックはシロ殿の胸の谷間の中にいるだろ!」

 空気が読めないメアリーが、余計な事を言ってきた。
 因みに、シロに神剣紅蜘蛛を打って貰ったメアリーは、再びシロの事を1周目と同じように、敬愛を込めてシロ殿と呼ぶようになっている。

 俺は、必死にシロのサクランボをカジする。

「アッ……ハイ。新しいペットのセドリックなら、胸の谷間の中にいます」

 シロは、そう言い、俺を胸の谷間から首筋を掴んで取り出してみせる。

「コイツの名前は、セドリックって言うのか?
 名前からして、エロそうなハツカネズミだな」

 ブルースが、俺の事をマジマジ見てくる。

「姉御の胸の谷間を寝床にするなんて、生意気なネズコーだな!」

 ラインハルトは、何だか羨ましそうな顔をして、俺のほっぺをチョンチョン小突く。

「セド兄は、何でハツカネズミになっちゃってるんだい?」

 妙に感の鋭いケンジだけは、俺がハツカネズミに変化してる事に完全に気付いているようだ。

「ケンジ! この子はご主人様じゃないからね!」

 シロが、ケンジを睨みながらに強めに注意する。

「シロ様、すみませんでした!」

 ケンジは、シロに注意された事にショックを受け、頭を床に擦りつけながら土下座した。

 そんな事が有りつつ、冒険者ギルドの扉の前で長話も出来ないので、ギルド長室に場所を移す。

「で、いつまでハツカネズミのフリをしてるんだ?」

 鑑定スキルを持ってるブルースが、俺に話し掛けてきた。
 俺は常時、隠蔽∞スキルでステータスを隠蔽しているが、俺が完全に信用してる身内のブルースやシロには、俺の本来のステータスを見えるようにしているのだ。

「ああ。他の冒険者達に、俺がアムルー冒険者ギルドに来た事を知られたくなかったからな」

 俺は、観念して、ブルースに告げる。

「やっぱり、セドリックだったのかよ!」

 なんか、ラインハルトがブヒブヒ言っている。
 多分、俺がシロの胸の谷間にいるのが羨ましいのだろう。

「で、何があった?」

 ブルースが、少しシリアスな顔をして、俺に聞いてくる。

「ああ。俺は命を狙われている」

 俺もシリアスな顔をして、ブルースに告げる。
 ブルースが、ハツカネズミのシリアスな顔を理解出来るか分からないけど。

「誰にだ?」

「黒髭だ」

「二つ名持ちか? しかし、聞いた事ない名だな?」

「アムルーダンジョンの第35階層にいる奴だ」

「一体、お前やシロちゃんも含めて、アムルーダンジョンはどうなってんだよ!
 さっき、チラッと、見かけた気絶してアナスタシアに運ばれてたオッサンも、その傍らにいた双子の嬢ちゃんも、そして角が生えてる巨乳のねーちゃんも、滅茶苦茶なステータスしてるじゃねえかよ!
 てか、第7階位魔法って何なんだよ!
 賢者でも、第6階位魔法までしか使えないんだぞ!
 しかも、その第7階位魔法が使えるオッサンをワンパンでノックアウトするって、アナスタシアもどうなってるんだ?」

 ブルースが、もう訳分からんと、髪?頭をむしっている。
 多分、若い頃から苦労ばかりしてるので、つるっピカに禿げてしまったのだろう。

 まあ、アナスタシアに関しては、1周目でドレークとネムラム姉妹にとどめを刺して殺しているから、俺的には全く驚かないんだけど。

「もう、いいや! お前に関しては、もう何も驚かない。
 あの第7階位魔法が使えるバンパイアのオッサンと、第6階位魔法が使える双子の幼女、それから巨乳の姉ちゃんは、お前の味方って事でいいんだな!
 そして、ミレーネさんか……セド血族ってステータスに書いてるから、その子も味方でいいよな!
 そんだけ強い仲間がいるのに、黒髭っ奴に敵わないのかよ?」

「ああ。黒髭は滅茶苦茶強い」

「本当に、アムルーダンジョンはどうなっちまったんだ……ん?
 って、その猫、ミーナだったのかよ!」

 ブルースが、今更ながら、猫になったミーナに気付き驚いている。

「今更にゃー?」

「エッ? 喋れるの? って、猫の勇者って、何だよ? そのステータス!」

 どうやら、驚くところは、みな同じらしかった。

「兎に角、そういう事だ!」

 俺は面倒臭いので、便利な言葉、『そういう事だ!』で、全ての説明を終わらせたのだった。

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