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191. 死に戻り4

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 暗転。

「ハイ! どうぞ! これでご主人様は、人間だった時の心を取り戻せますね!」

 シロが、俺に始祖の指輪を手渡そうとしている。

「ハッ!?」

 どうやらシロが、始祖の指輪の精神耐性(特大)をリジェクトした場面に戻れたようだ。

「俺は、やっと死ねたのか……」

 俺は、死ねた事に安堵する。
 そして、心が緩み安心した途端に、ついさっきまで行われていた恐ろしく凄惨で悲惨な、人の所業とは思えない残酷な拷問と恥辱の悪夢を思い出し、自然と涙が溢れ、壊れたブリキの玩具のようにガクガクと震え出す。

「ご主人様……まさか、死に戻り?」

 俺の異変に気付いたシロが、すぐに俺の頭の中を読み、そしてその過去を見て絶句する。

「そんな恐ろしい事が……」

 流石のシロでも、驚いている。

 汚らしい海賊共にオカマを掘られ、生きたまま喰われた一周目の凄惨な人生を軽く越える、最も残酷で悲惨な周回だったのだ。

「もうやだ……もう、俺は死にたくない……第35層には、絶対に戻らない……」

 俺はハツカネズミに変化して、シロの胸の中に逃げ込み、ガクガク震えながら丸くなる。

「ご主人様……」

 数週間後、

「ご主人様、アムルー城塞都市に着きましたよ」

 シロが、久しぶりに話し掛けて来た。

 どうやらいつの間にか、アムルー城塞都市に戻って来ていたらしい。
 俺は、この数週間、寝ても覚めても、第35階層で経験した想像を絶するような悲惨で残酷な悪夢にうなされて、夢とも現実とも思われない世界で、ずっと朦朧としていたのだ。

「ああ……」

「ここまで逃げて来たら、流石の黒髭海賊団も追って来れないですよ!」

「黒髭?!」

 俺は、黒髭の名前を聞いただけで、オシッコをチビり、歯が鳴る程に体がガクガク震え出す。

「ご主人様! 何度も言いますが、僕の胸の中でオシッコしないで下さいよ!」

 シロがブツブツ言いながらも、俺を胸の中から摘み出し、胸の谷間についたオシッコをタオルで拭き取ってから、オシッコまみれの俺を濡れタオルで綺麗に拭き、また、胸の中に戻してくれた。

 俺は、これからの人生、ずっとシロのチッパイの中で過ごすのだ。
 シロの胸の中に居たら、黒髭に見つからない。
 シロなら、何があっても俺を護ってくれるし、絶対に裏切らない。

「ハイハイ。僕がご主人様を、ずっと護ってあげますからね!
 僕は器用ですから、冒険者をしなくても職人としても生きていけますから!
 知らない街で、一緒にひっそりと暮らしましょうね!
 ご主人様は、生まれ故郷のアムルー城塞都市からも離れたいのでしょ!」

 俺の頭の中を読めるシロには、何でも筒抜けだ。
 俺は一刻も早く、アムルー城塞都市から、違う、アムルーダンジョンから、もっと正確に言えば、第35階層、黒髭から離れたいのだ。

 アムルーダンジョンにいる間は、黒髭海賊団がいつ襲ってくるか不安で、毎日震えてシロの胸の中で小さく丸まって怯えていた。
 俺は、アムルーダンジョンから脱出できた事で、少しだけ平静を取り戻し喋れるようになったのだ。

「質問ですけど、ご主人様が住みたい理想的な場所って有りますか?」

「アムルーダンジョンから、出来るだけ離れた辺境の街」

 俺は、即答する。

「でも、僕が作った商品を売り捌くだけのキャパが有る街がいいてすね!
 余りに小さな街だと、僕が作った商品の価値が分かって貰えませんから!」

 シロは、とても嬉しそうだ。
 というか、とてもワクワクしてるのを感じる。
 シロの陶器のような真っ白な肌が、高揚して、少し赤みを帯びてきている。

「アッ! 見えてきましたよ! アムルー冒険者ギルドです!
 ご主人様、アムルー城塞都市を離れるなら、ギルド長のブルースさんにも、ちゃんとお別れの挨拶をしないといけないですよ!」

 シロが、まるで俺の母親のように注意してくる。

「分かってる……」

 本当は、アムルー冒険者ギルドにも顔を出したくない。
 できるだけ、俺の痕跡を消したいのだ。

 もし、黒髭達が、アムルーダンジョンへ通ずる階段を見つけて、アムルーダンジョンを攻略し、アムルー冒険者ギルドに訪れたら、絶対に俺の居場所を聞き出す筈なのだ。

「だけど、これが今生の別れになるのかも知れませんよ?」

 そうだな……そしたらケンジとも、別れの挨拶をした方が良いかもな……。

「そうですね。折角、仲直りできたのに、そのまま何も言わないで消えるのは、有り得ないというか、不義理というか、酷い事だと思いますよ。
 折角、精神耐性(特大)の呪縛から解放されて、本来の小心者で清い心を取り戻したんですから、人情とかそういうのを大切にしていきましょうね!」

 シロは、魔物の癖に、最近、人間のような事を言ってくる。
 人肉食べる癖に。

「だから、それはネムラム姉妹が爵位待ちのバンパイアで、腕を食べても再生してくると分かってたからですよ!」

 突然のシロの仰天発言に、シロの隣を歩いていたネムラム姉妹が、ギョッとした顔をして顔を見合わせている。

 ネムラム姉妹からしたら、シロは独り言を言う怪しい魔物。
 だって、さっきから、シロは、俺の頭の中を勝手に読んで話していたのだから。

 そんなシロが、突然、自分達の腕を食べたとか独り言を言ってるのだ。恐怖しかないだろ。

 ネムラム姉妹が、黙って、シロから距離を取り、父親のドレークの影に隠れたのは言うまでもない事だった。

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