192 / 568
191. 死に戻り4
しおりを挟む暗転。
「ハイ! どうぞ! これでご主人様は、人間だった時の心を取り戻せますね!」
シロが、俺に始祖の指輪を手渡そうとしている。
「ハッ!?」
どうやらシロが、始祖の指輪の精神耐性(特大)をリジェクトした場面に戻れたようだ。
「俺は、やっと死ねたのか……」
俺は、死ねた事に安堵する。
そして、心が緩み安心した途端に、ついさっきまで行われていた恐ろしく凄惨で悲惨な、人の所業とは思えない残酷な拷問と恥辱の悪夢を思い出し、自然と涙が溢れ、壊れたブリキの玩具のようにガクガクと震え出す。
「ご主人様……まさか、死に戻り?」
俺の異変に気付いたシロが、すぐに俺の頭の中を読み、そしてその過去を見て絶句する。
「そんな恐ろしい事が……」
流石のシロでも、驚いている。
汚らしい海賊共にオカマを掘られ、生きたまま喰われた一周目の凄惨な人生を軽く越える、最も残酷で悲惨な周回だったのだ。
「もうやだ……もう、俺は死にたくない……第35層には、絶対に戻らない……」
俺はハツカネズミに変化して、シロの胸の中に逃げ込み、ガクガク震えながら丸くなる。
「ご主人様……」
数週間後、
「ご主人様、アムルー城塞都市に着きましたよ」
シロが、久しぶりに話し掛けて来た。
どうやらいつの間にか、アムルー城塞都市に戻って来ていたらしい。
俺は、この数週間、寝ても覚めても、第35階層で経験した想像を絶するような悲惨で残酷な悪夢にうなされて、夢とも現実とも思われない世界で、ずっと朦朧としていたのだ。
「ああ……」
「ここまで逃げて来たら、流石の黒髭海賊団も追って来れないですよ!」
「黒髭?!」
俺は、黒髭の名前を聞いただけで、オシッコをチビり、歯が鳴る程に体がガクガク震え出す。
「ご主人様! 何度も言いますが、僕の胸の中でオシッコしないで下さいよ!」
シロがブツブツ言いながらも、俺を胸の中から摘み出し、胸の谷間についたオシッコをタオルで拭き取ってから、オシッコまみれの俺を濡れタオルで綺麗に拭き、また、胸の中に戻してくれた。
俺は、これからの人生、ずっとシロのチッパイの中で過ごすのだ。
シロの胸の中に居たら、黒髭に見つからない。
シロなら、何があっても俺を護ってくれるし、絶対に裏切らない。
「ハイハイ。僕がご主人様を、ずっと護ってあげますからね!
僕は器用ですから、冒険者をしなくても職人としても生きていけますから!
知らない街で、一緒にひっそりと暮らしましょうね!
ご主人様は、生まれ故郷のアムルー城塞都市からも離れたいのでしょ!」
俺の頭の中を読めるシロには、何でも筒抜けだ。
俺は一刻も早く、アムルー城塞都市から、違う、アムルーダンジョンから、もっと正確に言えば、第35階層、黒髭から離れたいのだ。
アムルーダンジョンにいる間は、黒髭海賊団がいつ襲ってくるか不安で、毎日震えてシロの胸の中で小さく丸まって怯えていた。
俺は、アムルーダンジョンから脱出できた事で、少しだけ平静を取り戻し喋れるようになったのだ。
「質問ですけど、ご主人様が住みたい理想的な場所って有りますか?」
「アムルーダンジョンから、出来るだけ離れた辺境の街」
俺は、即答する。
「でも、僕が作った商品を売り捌くだけのキャパが有る街がいいてすね!
余りに小さな街だと、僕が作った商品の価値が分かって貰えませんから!」
シロは、とても嬉しそうだ。
というか、とてもワクワクしてるのを感じる。
シロの陶器のような真っ白な肌が、高揚して、少し赤みを帯びてきている。
「アッ! 見えてきましたよ! アムルー冒険者ギルドです!
ご主人様、アムルー城塞都市を離れるなら、ギルド長のブルースさんにも、ちゃんとお別れの挨拶をしないといけないですよ!」
シロが、まるで俺の母親のように注意してくる。
「分かってる……」
本当は、アムルー冒険者ギルドにも顔を出したくない。
できるだけ、俺の痕跡を消したいのだ。
もし、黒髭達が、アムルーダンジョンへ通ずる階段を見つけて、アムルーダンジョンを攻略し、アムルー冒険者ギルドに訪れたら、絶対に俺の居場所を聞き出す筈なのだ。
「だけど、これが今生の別れになるのかも知れませんよ?」
そうだな……そしたらケンジとも、別れの挨拶をした方が良いかもな……。
「そうですね。折角、仲直りできたのに、そのまま何も言わないで消えるのは、有り得ないというか、不義理というか、酷い事だと思いますよ。
折角、精神耐性(特大)の呪縛から解放されて、本来の小心者で清い心を取り戻したんですから、人情とかそういうのを大切にしていきましょうね!」
シロは、魔物の癖に、最近、人間のような事を言ってくる。
人肉食べる癖に。
「だから、それはネムラム姉妹が爵位待ちのバンパイアで、腕を食べても再生してくると分かってたからですよ!」
突然のシロの仰天発言に、シロの隣を歩いていたネムラム姉妹が、ギョッとした顔をして顔を見合わせている。
ネムラム姉妹からしたら、シロは独り言を言う怪しい魔物。
だって、さっきから、シロは、俺の頭の中を勝手に読んで話していたのだから。
そんなシロが、突然、自分達の腕を食べたとか独り言を言ってるのだ。恐怖しかないだろ。
ネムラム姉妹が、黙って、シロから距離を取り、父親のドレークの影に隠れたのは言うまでもない事だった。
ーーー
ここまで読んで下さりありがとうございます。
面白かったら、お気に入りにいれてね!
3
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる