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88. 光る男
しおりを挟む俺とシロと、『鷹の爪』の面々は、現在、第33階層を目指し、アムルーダンジョンを下降している。
「凄いわね……第21階層まで来てるのに、魔物と一匹も遭遇しないなんて……」
アナスタシアが、いつでも戦えるように臨戦態勢を取りつつも驚いている。
「そう言えば、最近は見ないね」
シロは、軽い感じで答える。
「セドリック、やっぱ、お前凄かったんだな!」
ラインハルトも、ようやく俺の凄さが分かってきたみたいだ。
というか、ラインハルトは俺の事が怖くないのか?
俺にはタメ語で、シロには敬語だし。
まあ、俺の方がラインハルトより歳下だから当たり前だけど、それにしても、俺に対する態度と、シロに対する態度が違い過ぎだよな……。
「セド兄が凄いのは、昔からだし!」
そんなラインハルトに、ケンジが反論する。
「そうよね。セド君は、本当は何でも出来るのに、いつも本気を出してないように見えたわね」
アナスタシアは、ケンジと同様、俺を昔から過大評価している。
しかし俺は、スケルトンになる前の冒険者時代、ケンジの兄貴分として、もう一度、ケンジより強くなろうと頑張っていた。ケンジに追い付こうと、いつも必死だったのだ。
「セド兄は、本当は凄かったんだ!
いつも光ってたし!」
また、ケンジがおかしな事を言いだした。人間が光る訳ないだろ。電球じゃあるまいし。
「ケンジは、いつもそう言うよな。セドリックは光ってるって。
俺には、全く光ってるように見えなかったけどな」
「そう、いつも神々しく光ってたんだ! そしていつも俺を導いてくれたんだ!」
ケンジは、子供の頃から、俺を過大評価していたのだが、今日はいつにもまして訳の分からん事を言ってやがる。
導いてくれたって、俺はケンジの導師でも、ましてや師匠でも、何でもないんだぞ?
「まあ、ご主人様は勇者様ですからね! 光ってて当然ですね!」
そんな、訳の分からない事を言ってるケンジの言葉に、シロも賛同する。
まあ、包帯とったら、口の周りは金色に光ってるけどな。
「なる程ね。 本当は光属性の勇者だったから、ケンジには、セド君の事がいつも光って見えたという訳ね!
まあ、ケンジは、天才の部類に入ると思うから、人には分からないセド君の凄さに、最初から気付いたのかも知れないわね!」
なんか、アナスタシアまで、訳の分からない事を言いだした。
シロとケンジとアナスタシアは、俺の評価が高過ぎる。
俺は、冒険者時代、本当にケンジを越えようと必死だったんだぞ!
「所で、セドリック。お前が勇者だったって、本当なのかよ?」
ラインハルトが、サラッと、話を変えて聞いてきた。
「本当だ」
俺は、今更、嘘を言っても仕方が無いので、本当の事を言う。
「確か お前、今、バンパイアなんだよな?バンパイアで、勇者って、やっぱ変だよな……」
「それは、俺も思う」
そう、ハッキリ言ってやっぱり滅茶苦茶なのだ。闇の眷属のバンパイアなのに、光属性の勇者。
映画とかでも、人間に味方するバンパイアとかはよく居るが、バンパイア自体が勇者って、設定が破綻している。
俺は、太陽光に強いという事は分かってるが、多分、バンパイアの弱点である聖水とかも、俺には効かないのだろう。
だって、光属性のヒールでダメージ受けないし。
もしかしたら、バンパイアの弱点の定番である、十字架やニンニクや銀の弾丸とかも効かないかもしれない。
まあ、この異世界でキリスト教の十字架が有るか知らんけど。
「てか、お前、人間だった時も、ケンジが言うように光ってたって事は、勇者だったって事か?」
「ああ、俺は勇者である事を、どうやら自分自身でプロテクトしてたみたいだ」
「で、勇者だったのに、死んでスケルトンになってしまったと?」
「そんな感じだ……」
「お前、やっぱ抜けてるよな!」
ラインハルトが、失礼な事を言ってきた。
絶対、ラインハルトは、俺の事を舐めている。
そのうち絶対に、ガツンと分からせないといけない。
「コラ! ラインハルト! ご主人様は、抜けてるんじゃなくて、天然なの!」
シロが、ラインハルトに対してプンプンに怒っている。
抜けてるって言われるのも、天然って言われるのも、一緒のような気がするが、シロの中では僅かに違うのかも知れない。
「セド兄は、兎に角、昔から凄いんだよ!なんてったって、我が神、シロ様を成長させて、神に進化させたのだから!
神まで生んだセド兄は、やっぱり偉大で尊敬する兄さんなんだ!」
シロは、いつ神になったんだ。
ケンジの奴、暫く見ない間に、本気でヤバい奴になってしまったようだ……。
よく見たら、蜘蛛の家紋が入った着流しを着てるし。
本気に頭が痛くなってきた。
ケンジに色々な事を教えたのは、全て俺だ。
もしかして、こんなにケンジがヤバい奴になってしまったのは、俺の育て方が悪かったからか?
ケンジやアナスタシアとかと喋ってたら、色々と少しづつ昔の事を思い出してきたが、何か反省する事までも、沢山思い出してきてしまった。
基本、俺のケンジの育て方は、シロと一緒。
結構、邪険に扱い、暴言も吐いていた。たまに飴も与えるが、もしかしたらその接し方が良く無かったかもしれない。
ヤクザとか、怖い人がたまに優しくしたら、とても良い人に見えてしまうアレだ。
シロと最初に出会った時も、俺はシロの頭を木魚のようにポコポコ殴ってやったし。
その後、ちょっと優しくしたら、スグに、俺に盲目的に懐いてきたんだっけ……。
まあ、それがこの世界の調教の仕方らしいが、前の世界のヤクザのやり方と一緒とかって……一体、どんなだよ。
ーーー
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もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
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