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53. 蜘蛛丸

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「姐さん駄目ですよ! 第4階層と第5階層を繋ぐ階段の前なんかにいたら!
 冒険者達が、姐さんにビビって、第5階層にいけないと震えていやしたぜ!」

 S級パーティー『鷹の爪』の団長ラインハルトが、第5階層の階段の前で休憩していたシロを見つけて、話し掛けてきた。

「姐さん? もしかして、僕の事?」

「姐さんといったら、シロさんしかいないじゃないですか!」

 ラインハルトが、馴れ馴れしくシロに話し掛けてくる。

「僕が、ラインハルトのお姉さんになった覚えは無いんだけど……」

「ヤダなー! 本当のお姉さんの訳ないじゃないですか!
 手下が、主人を呼ぶ時、姐さんと言うのが冒険者の習わしなんですよ!」

「ラインハルトって、僕の手下だったの?」

「まあ、あっしは姐さんの手下だと思ってますけどね!」

「アムルーダンジョン最強の冒険者パーティー『鷹の爪』の団長が、そんなんでいいの?」

「まあ、最強って言っても、冒険者の中だけであって、
 あっしらは、本物の強者って奴を知っていやすからね!」

 ラインハルトは、ニヤリと、シロの顔を見る。

「確かにね。アムルーダンジョンにも、魔王がいたし、強者はたくさんいるかもね!」

「またまた、姐さんの主様の、骨の旦那が魔王様でしょ!」

「違うよ! ご主人様は勇者で、魔王は他にいるんだよ!」

「またまた、金色のスケルトンが勇者の訳ないじゃないですか!」

「みんなそう言うけど、本当にご主人様は勇者なんだけどな……だけど、ご主人様と別に、魔王がいるのは本当だよ!」

「姐さんがそう仰るなら、骨の旦那とは違う、魔王が本当にいるのでしょう」

 ラインハルトも、何とか納得してくれたみたいだ。

「ラインハルト達も気を付けた方がいいよ。アイツら僕達と違って人族にも容赦なさそうだったからね」

「人族って、その魔王とやらは、人を襲うので?」

 急に、ラインハルトの顔が真剣になる。
 それは、アムルー冒険者ギルド最強パーティー、『鷹の爪』団長としての顔だ。

「ミーナさんっていうB級冒険者知ってる?」

「知ってやすぜ! 最近、骨の旦那と姐さんを必死で捜してやしたから!
 あっしらの所にも、どうやって、姐さんの装備をゲットしたか聞きに来ましたし……。
 もしかして、ミーナが魔王に殺られたんで?」

「魔王じゃなくて、魔王の手下にね!
 ていうか、ミーナさんは死んでなくて、僕らの仲間になってるよ!」

「そうでやしたか、ミーナの奴、上手くやりやがって!」

 何故か、ラインハルトが悔しそうな顔をしている。

「それで、ミーナさんが猫になっちゃって、ミルクが必要なんだよね」

「なんですと……その魔王の手下に、ミーナの奴、猫にされたんですかい?」

「まあ、そんな所……。
 で、ミルクの次いでに、別に欲しい物があるんだけど、いいかな?」

 シロは、面倒臭いので、そのままラインハルトの勘違いに乗る事にした。

「魔王の奴……なんて鬼畜な奴らなんだ……。」

 どうやら、ラインハルトは同じアムルー冒険者ギルド所属のミーナが猫にされた事を、相当怒っているようだ。

 本当は、ご主人様が、ミーナを猫にしたのだが、まあ、いいか! と思うシロであった。

「それは置いといて、今回頼むもの言ってイイかな?」

「そうでしたね! チョット待って下さいね!」

 ラインハルトは、急いで魔法のカバンからノートを取り出し、メモを取る準備をした。

「今回は、そうだな……新鮮なミルクが欲しいから、生きた乳牛と、胡椒。それから、オリーブ油とニンニクと鳥肉とビールを用意出来るかな?」

「オリーブ油とニンニクと鳥肉とビールは、すぐに用意出来やすが、生きた乳牛と胡椒は、時間が掛かりやすぜ」

「ミスリルスライムの死骸を渡すと言ったら?」

「任して下せい! アムルー城塞都市中を駆け回って、すぐにでもかき集めてきやす!」

「チョット待って! 私も新しい服が欲しいわ!」

「拙者も、カッコイイ着流しが欲しいです!」

 ラインハルトの後ろに居た、アナスタシアとケンジも自分の欲しい物を言い出した。

「お前らは次でいいだろ!」

 ラインハルトは、2人の話を遮ろうとする。

「ラインハルトだけ狡いわ! ミスリルスライムの死骸を使って、フルメイルの鎧を作る気なんでしょ!」

「そうだ! 団長だけ狡いぞ!」

 アナスタシアとケンジが、ラインハルトに抗議する。

「シロ様、ミスリルスライムの死骸はいいですから、私に新しい服を作って下さいませ!
 ほら、もう、デザインは考えてきているのです!」

 アナスタシアは、自分の魔法の鞄の中から、新作の服のデザインが描かれた紙を取り出してきた。

「拙者も、白地で、背中に蜘蛛の刺繍を施された着流しが欲しいです!」

 ケンジも、何故か土下座して、シロにお願いする。

「分かったよ! みんなのお願いは全部かなえるから、すぐに、僕の頼んだ物を用意して!」

「「「御意!」」」

 ラインハルトとアナスタシアとケンジは、片膝を付いて返事をした。

「アッ! そうだ。ケンジは何で蜘蛛の刺繍がいいの? 普通、自分の家の家紋とかを刺繍するんじゃないの?」

「拙者の愛刀は、シロ殿に作って貰った『蜘蛛丸』ですから、着流しも蜘蛛で統一したいのです!」

「ケンジの刀、『蜘蛛丸』って銘なの?」

「ハイ! 拙者自ら、アムルー冒険者ギルドで、シロ殿が製作した刀を、『蜘蛛丸』と宣伝しておりますから!」

「恥ずかしいから、止めて欲しいんだけど!
 もしかして、ラインハルトの大剣にも、恥ずかしい名前が付いてるの?」

「あっしの大剣の名前は、『アラクネソード』と名付けていやす!」

 ラインハルトは、よく聞いてくれたとばかりに、嬉しそうに答える。

「そ……そうなんだ……もしかして、アナスタシアも、僕が作った服に、決して名前なんか付けてないよね?」

 シロは、ジト目をしながら、アナスタシアに質問する。

「だ……大丈夫ですよ! 私は付けてませんよ!
 そんな無粋な事、いたしませんわ!」

 アナスタシアは、額から冷や汗を流しながら答える。
 実際は、『白蜘蛛紫羽織』という、仰々しい名前が付いているのだが、それはアナスタシア自身が付けた名前じゃないのだ。

「えっ? お前、」

「サー! 早く行きますわよ!」

 アナスタシアは、ラインハルトが喋るのを遮り、ラインハルトとケンジの首根っこを掴んで、第4階層に向かって走りさったのだった。


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