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涙を流しながら言葉を発する大きな影。
「このヤロウ共、やっと出てきやがったか」
刺々しい言葉を幼げな声が表現する、小さめの影。
「……オマエらは?」
「おいおい、わっし達を忘れたってのかぁ?
もっとも、一緒に目の前に現れるのは初めてだがな」
影に目が慣れ、次第に顔を認識できるようになると、ワキミズは驚きの声を上げる。
「お、オマエらは――墓場のタキシードと、学園に乗り込んできたチビ!」
ミツクは声を荒げようとしたが、そこをタキシードが制する。
「自分はホレットと申します。アナタ達を探していました。さ、案内してください」
「案内?」
「わっしたちを、門まで案内しろって言ってんだよ」
ミツクは三人を威圧し、脅し始めたが、これに応じるハクではなかった。
「なんでそちら様らがウチのオタカラのことを知っている?
どこから嗅ぎつけたかは知らんがそんな話には付き合ってはおられんな」
二人の間を強引にかき分け、帰ろうとするハク。そしてそれに続くワキミズとエミィ。
「そうですか……」
ホレットは身長に見合った長い腕をヌッと動かし、エミィの襟首を掴む。
「それでは、この少女がどうなってもイイというんですね?」
「エミィちゃんッ」
ワキミズは動揺して声を上げ、その声にミツクは喜ぶ。
「おぉ!
ホレホレ、どうするんだ?」
「イケナイ……
ワキミズさん、部長、逃げ……て……」
掴み上げられ、足は地から離れる。首には全体重がかかり、如何にも苦しげな声を上げるエミィは、気丈にも自分より二人のことを心配していた。
すると、次の瞬間であった。どこから取り出したのか、部長は木刀でエミィを掴み上げているホレットの腕、前腕の尺骨(しゃっこつ)部分を打った。鈍い音と共に拘束の手は緩み、エミィはその場に尻もちをつく。
「オマエラ、この場はそれがしがなんとかする!
逃げろ!」
促されるまま、ワキミズはエミィを立たせ、その手を引いて逃げた。
「おぉっと、逃がすかバカヤロウ!」
ミツクは赤いリーゼントを揺らしながら二人を追った。
「さて、どうしてそちら様の様な奴らがウチの秘密を知ってるんだ?
教えてもらおうか」
ホレットはあり得ない方向に曲がった己の腕をさすりながら、ハクを見下ろす。
しかし、その表情に痛みを感じているようすは無い。
ハクは木刀を構え直し、既に臨戦態勢に入っていた。このようになった彼女に隙はなかった――はずだった。
ザァクゥッッ
「な……ッ」
突如としてハクの背中に加えられた一撃はその意識を飛散させ、更に背後から現れたその影は膝をついた彼女に歩み寄った。
一方、逃げたはずの二人、ワキミズとエミィは細い路地にその身を潜めていた。
「スミマセン、ワキミズさん。さっき落とされたときに足を痛めてしまったようで……」
「だいじょうぶ、いざとなったらボクがおんぶしてでも逃げて見せるから」
ニッと笑いかけて見せるワキミズ。その顔は今までになくエミィの顔に近かった。
目とメ。
鼻とハナ。
そして唇とクチビルが互いに結ばれて、熱を帯びているような感覚を覚える。
どちらからともなく徐々に近づく、心臓の鼓動がそれぞれの耳に届く程密着したその状態。次第に艶を帯びるエミィの瞳、紅潮した頬。
ゴクリと生唾を飲み込む音がやけに大きく耳に響く。
そして吸い寄せられるように、まるで結ばれた糸をゆっくりと手繰るようにワキミズは唇を近付ける。
目を閉じることで、エミィの呼吸の音すらもまぶたの裏から視認できるかのような感覚だった。
そして、あと数センチというところで全ての音が停止した。
「でてこいやぁっ!
そこにいるのは分かってるんだよ!」
ミツクの吠える声だった。
ワキミズは身を盾にしてエミィを守らんと、その姿を路地裏のゴミ箱の影から現した。その目は戦に向かう武士のモノであった。
「ここには、誰もいない!
ボクが……いや、オレが相手だッ!」
「オォーシ、イイネ。
その目、そう言うのは嫌いじゃないが……」
バッカァアンッッ
ミツクの言葉が終わる前に、ワキミズの意識は暗転する。
「な……なんだ……?」
言葉は夕闇へと消えてゆく。
気がついた時に目の前にいたのはユキシロたち三人の先輩と、いつ帰国したのか、メィリオがバタバタと取り乱していた。
「お、おじょうさまが~!
おじょうさまが、ボクのいない間にッッおじょうさまが~!」
「えぇい、五月蠅い! おまえさんが喚いたって事態は変わらんじゃろうが!」
屋敷の大広間であった。身体を起こして、ワキミズはユキシロに聞く。
「エミィちゃんは……?」
「アンタが倒れていたところには他に誰もいなかった。その、ホレットとミツクとかいう奴らに拐(かどわ)かされた、と見るのが妥当だろう」
拳を畳に打ちつけ、おのれの無力を嘆くワキミズ。そして、もう一人の心配をする。
「そうだ、部長は?
部長さんなら――」
「ハクならこの通りさ」
ワキミズの隣で体を横にしたままのハク。
「こいつにこれほどの傷を負わせるってことは、そいつらも中々のもんだろう」
ツクモも更にハクに問う。
「……後ろから、やられたのか?」
「あぁ、やつら、三人目がいたようだ」
「そんなことはいいんです!
お、おじょうさまが~~~」
そこにどかどかという足音と共に現れたイトウセンセイ。通りざまにメィリオに一撃、ゲンコツを落としてから座る。
「えぇい、だまらっしゃい!
ユーカイされたんなら、身代金なりなんなり、要求があるじゃろう。
大人しくせんか!」
「そう言えば、奴らこの屋敷のお宝のことを知ってたようですが……なんのことなんですか?」
「フムゥ。ヤツらは知ってるのかのぅ」
「センセイ、何があるっていうんですか?」
「ウム、お宝は『門』。そしてその先にあるのは……」
「のは?」
「ジゴクじゃ」
「このヤロウ共、やっと出てきやがったか」
刺々しい言葉を幼げな声が表現する、小さめの影。
「……オマエらは?」
「おいおい、わっし達を忘れたってのかぁ?
もっとも、一緒に目の前に現れるのは初めてだがな」
影に目が慣れ、次第に顔を認識できるようになると、ワキミズは驚きの声を上げる。
「お、オマエらは――墓場のタキシードと、学園に乗り込んできたチビ!」
ミツクは声を荒げようとしたが、そこをタキシードが制する。
「自分はホレットと申します。アナタ達を探していました。さ、案内してください」
「案内?」
「わっしたちを、門まで案内しろって言ってんだよ」
ミツクは三人を威圧し、脅し始めたが、これに応じるハクではなかった。
「なんでそちら様らがウチのオタカラのことを知っている?
どこから嗅ぎつけたかは知らんがそんな話には付き合ってはおられんな」
二人の間を強引にかき分け、帰ろうとするハク。そしてそれに続くワキミズとエミィ。
「そうですか……」
ホレットは身長に見合った長い腕をヌッと動かし、エミィの襟首を掴む。
「それでは、この少女がどうなってもイイというんですね?」
「エミィちゃんッ」
ワキミズは動揺して声を上げ、その声にミツクは喜ぶ。
「おぉ!
ホレホレ、どうするんだ?」
「イケナイ……
ワキミズさん、部長、逃げ……て……」
掴み上げられ、足は地から離れる。首には全体重がかかり、如何にも苦しげな声を上げるエミィは、気丈にも自分より二人のことを心配していた。
すると、次の瞬間であった。どこから取り出したのか、部長は木刀でエミィを掴み上げているホレットの腕、前腕の尺骨(しゃっこつ)部分を打った。鈍い音と共に拘束の手は緩み、エミィはその場に尻もちをつく。
「オマエラ、この場はそれがしがなんとかする!
逃げろ!」
促されるまま、ワキミズはエミィを立たせ、その手を引いて逃げた。
「おぉっと、逃がすかバカヤロウ!」
ミツクは赤いリーゼントを揺らしながら二人を追った。
「さて、どうしてそちら様の様な奴らがウチの秘密を知ってるんだ?
教えてもらおうか」
ホレットはあり得ない方向に曲がった己の腕をさすりながら、ハクを見下ろす。
しかし、その表情に痛みを感じているようすは無い。
ハクは木刀を構え直し、既に臨戦態勢に入っていた。このようになった彼女に隙はなかった――はずだった。
ザァクゥッッ
「な……ッ」
突如としてハクの背中に加えられた一撃はその意識を飛散させ、更に背後から現れたその影は膝をついた彼女に歩み寄った。
一方、逃げたはずの二人、ワキミズとエミィは細い路地にその身を潜めていた。
「スミマセン、ワキミズさん。さっき落とされたときに足を痛めてしまったようで……」
「だいじょうぶ、いざとなったらボクがおんぶしてでも逃げて見せるから」
ニッと笑いかけて見せるワキミズ。その顔は今までになくエミィの顔に近かった。
目とメ。
鼻とハナ。
そして唇とクチビルが互いに結ばれて、熱を帯びているような感覚を覚える。
どちらからともなく徐々に近づく、心臓の鼓動がそれぞれの耳に届く程密着したその状態。次第に艶を帯びるエミィの瞳、紅潮した頬。
ゴクリと生唾を飲み込む音がやけに大きく耳に響く。
そして吸い寄せられるように、まるで結ばれた糸をゆっくりと手繰るようにワキミズは唇を近付ける。
目を閉じることで、エミィの呼吸の音すらもまぶたの裏から視認できるかのような感覚だった。
そして、あと数センチというところで全ての音が停止した。
「でてこいやぁっ!
そこにいるのは分かってるんだよ!」
ミツクの吠える声だった。
ワキミズは身を盾にしてエミィを守らんと、その姿を路地裏のゴミ箱の影から現した。その目は戦に向かう武士のモノであった。
「ここには、誰もいない!
ボクが……いや、オレが相手だッ!」
「オォーシ、イイネ。
その目、そう言うのは嫌いじゃないが……」
バッカァアンッッ
ミツクの言葉が終わる前に、ワキミズの意識は暗転する。
「な……なんだ……?」
言葉は夕闇へと消えてゆく。
気がついた時に目の前にいたのはユキシロたち三人の先輩と、いつ帰国したのか、メィリオがバタバタと取り乱していた。
「お、おじょうさまが~!
おじょうさまが、ボクのいない間にッッおじょうさまが~!」
「えぇい、五月蠅い! おまえさんが喚いたって事態は変わらんじゃろうが!」
屋敷の大広間であった。身体を起こして、ワキミズはユキシロに聞く。
「エミィちゃんは……?」
「アンタが倒れていたところには他に誰もいなかった。その、ホレットとミツクとかいう奴らに拐(かどわ)かされた、と見るのが妥当だろう」
拳を畳に打ちつけ、おのれの無力を嘆くワキミズ。そして、もう一人の心配をする。
「そうだ、部長は?
部長さんなら――」
「ハクならこの通りさ」
ワキミズの隣で体を横にしたままのハク。
「こいつにこれほどの傷を負わせるってことは、そいつらも中々のもんだろう」
ツクモも更にハクに問う。
「……後ろから、やられたのか?」
「あぁ、やつら、三人目がいたようだ」
「そんなことはいいんです!
お、おじょうさまが~~~」
そこにどかどかという足音と共に現れたイトウセンセイ。通りざまにメィリオに一撃、ゲンコツを落としてから座る。
「えぇい、だまらっしゃい!
ユーカイされたんなら、身代金なりなんなり、要求があるじゃろう。
大人しくせんか!」
「そう言えば、奴らこの屋敷のお宝のことを知ってたようですが……なんのことなんですか?」
「フムゥ。ヤツらは知ってるのかのぅ」
「センセイ、何があるっていうんですか?」
「ウム、お宝は『門』。そしてその先にあるのは……」
「のは?」
「ジゴクじゃ」
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