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 ――チュン……、チチュン……
 田に豊穣の祈りを込める様に、たわわな穂が実るころ、スズメはその実りをついばみ案山子と戦っていたのであった。
 金色の絨毯を左右に敷いた道をサヤとイオリ、そしてオユリが歩いていた。

「この調子でいけば、夕方には藩主様の御屋敷のある町につけると思いますよ」

 いかにも嬉しそうに、前を歩きながら、時折サヤたちを振り返るオユリ。振り返られた二人は顔を見合わせた。

「なにがそんなに楽しいんだろう?」

 と、不思議でたまらないといった様子である。

「ほら、あそこの橋のたもとでお昼にしましょうか」

 田圃道たんぼみちを抜け、しばらく歩くと結構な大きさを誇る川があった。
 この宿場町と屋敷町を結ぶ道はそれなりに人通りも多く中間地点に差し掛かる川。
 これにかかる橋においては他にも旅人たちが何組か休んでいる。
 三人は橋のたもとに腰をおろし、オユリから渡された竹の皮の包みを開く。
 中には大きな握り飯が入っていた。

「エヘヘ、私が朝作ったんですよ~。
 ささ、どうぞ、食べてみてください」

 その握り飯は海苔こそ巻かれていなかったものの、冷えた玄米が露を持ち、薄い琥珀色をしていた。
 イオリとサヤにひとしきり勧めると、オユリはその小さな口を開き、かぶりつく。
 イオリもそれに習い、豪快にパクついてみる。口いっぱいに頬張った玄米を咀嚼する。

「ん? 
 これは表面にも塩が効いてるし、具は梅干しですね」
「えぇ、ウチで漬けた五年物です。ウチのは特に酸っぱくてしょっぱくて、口が曲がりそうでしょう」

 二口目を口に入れて、イオリは賛同する。

「えぇ、美味しいですね」

 満足げな表情のオユリに対しサヤは一切口をつけようとはしなかった。

「ボクはいいよ」

 これを心配し、近づくもサヤは更に一歩退く。

「どうかしましたか?
 お腹でも痛いんですか?」

 サヤの青ざめたそのかおは尋常なものではなかった。

「いや……、その……、ウメボシが……、苦手で……」

 つかのま、そのあいだにスズメがチチュンと鳴いて、間を取り持った。

「えー、梅干し美味しいじゃないですか」

 あからさまな非難をするオユリをイオリが制しようとするも、

「確かに、梅干しは美味しいんですが、サヤはまた……」
「ダメデスヨ。体にもいいんですし、食べなきゃ~。ほら、あーん」

 そう言って、オユリは梅干しの見えている握り飯を差し出す。
 橋のヘリに飛び退いたサヤは、オユリが差し出した分の距離だけ器用に後退した。
 差し出す、後退、一歩前へ出て突きだす、また後退

 ……

「アハハハ」
 オユリはこどものように梅干しの握り飯を持って進む。

「く、くるなぁっっ!」

 更に器用に後ずさるサヤ。

「アー……、まぁ、面白いってのも分かるんですが――
 けどねぇ……」

 我関せずを決め込み、二つ目の握り飯に手を掛けるイオリ。

「あ、今度は辛子漬けだ。……ウマイですね」

 そんなやり取りを続けていた。

 「――ッドン」

 何かに何かがぶつかる音がし、次いで柔らかめのモノが地に落ちる音が聞こえてくる。
 後ろ向きに走っていたサヤが、同じく橋の上で休んでいた何者かにぶつかったようであった。
「あ、アタイのオムスビが……」

 ぶつかったのはまだ年のころ7~8歳の女の子であった。この子も父と共に街と街を結ぶこの道を通るさなか、休憩に橋の上で昼食を取っていた最中であった。
 己のオムスビが一瞬にして地に喰われることとなった幼女の目には、見る間に涙が浮かび始める。
 これはしまったとサヤは自分の分として用意されていた握り飯を差し出すも、幼女の涙は止まらない。
 サヤとオユリはばつの悪そうに必死になって幼女の気を引こうとするも、周りを行きかう人々の視線がチクチクと刺さるばかりであった。

「あぁ、もう、仕方ないですねぇ」

 これを見かねたイオリが助け舟を出した。
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