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そんなやり取りがしばらく続くと、目的の場所、刀問屋の屋敷にたどり着いた。
この街では結構な老舗らしく、街道を旅する人々が護身用に小刀、懐剣を買っているようであるというのは事前の調べで分かっていた。
街道に向く、正面玄関を避けて、裏へ回る。裏口を叩き内側から開いてもらう。
「オウ、ご苦労さん」
「どうも~、お座敷のおもてなしを任されたサユリコとイオリでございます~」
「んじゃあ、中でチョット待ってておくれや」
中から顔を出した丁稚に足元を照らしてもらい、三人は中に進もうとした。
「おっと、オメェさんはそこで待っててくれや」
当たり前のように下男の格好をしていたサヤは門を潜ることを拒まれた。
コレにサヤは目に怒りの色を浮かばせたが、それを制するようにイオリの目配せをする。
オ ト ナ シ ク マ ッ テ テ ク ダ サ イ
これにサヤは独白した。
「うるせぃやい」
二人の間に耳に入らない言葉が行き来した。
「ってぇ訳だ。ささ、オメェさんがたはこっちだよ」
「オジャマシマース」
丁稚が二人を招き入れ、戸を閉めようと手を掛ける。
「オヤ?
あの下男は……」
既にそこにサヤの姿は無く薄暗い闇の息が漂っているばかりであった。
「おっと、こんなところに……」
丁稚は夕闇の中、塀に一振りの刀が立てかけてあるのを見つける。
「いくら刀問屋だからって、こんなところにあるなんて……」
これを拾い、ガタリと戸を閉める。そしてその上、塀の上に立つのはサヤ。日も傾き一番星が輝き始めていた。
屋敷の中に通されたイオリとオユリは、一旦、つぎの間で待機させられていた。
「しかし、ちょうどこの店でお座敷の仕事なんてあったものですね。」
イオリはすまし顔のまま小声でオユリに尋ねる。
「そうですね、でもここのお店は最近すごく景気がよくて、毎日のように自前のお座敷や、料亭なんかでおもてなしをしてるそうですから、あながち運が良かっただけともいえないかもしれません」
表情を変えぬまま、自分への応答に感嘆の息を漏らす。
「フーン、この泰平の世に刀が売れるとはねぇ……」
「まぁ、そのおかげでこうして探し物の機会に巡り合えたわけですし。それに……」
「それに?」
二人がひそひそと声を交わしていると、一人の男性が部屋に入ってきた。
その男は、イオリとはまた、一風変わった痩せ方をして、いかにも神経質そうで何事にも気を張り詰めているようだった。
その気の張り詰め方からその身を削っているような男は、ジロリと二人を睨めつける。
「ふむ。大菅屋にはトビキリの芸子をよこせと言ったはずだったが――
こんな小娘が二人、しかも片方は男みたいな背丈の娘と来たもんだ。
お前さんトコの店も質が落ちたもんだなぁ。
ん~?」
一方的な非難にオユリはひきつる頬を制しながら、必死に愛想笑いを浮かべているしかなかった。
男は続ける。
「マッタク。仕方ない。
小娘とはいえ金は払ったんだ。今日のお客様はいつにもまして特別なお客様だ。
粗相をしてくれるなよ?」
まかせてください。そう言ってオユリはシャナリと芸子らしい優雅な立ち上がりを見せ、イオリもそれを真似していた。
二人は男の後ろを歩き、屋敷の中を進む。道中、オユリは再びイオリに小声で話しかける。
「マッタク……
この人、番頭さんか何かだと思いますが、感じ悪いですね。
いきなりあんな風に嫌味なこと言うこともないでしょうに……」
これにイオリはつむったような目を動かすことなくいった。
「世の中こんなもんですよ」
などと言ってのけるのみであった。
この街では結構な老舗らしく、街道を旅する人々が護身用に小刀、懐剣を買っているようであるというのは事前の調べで分かっていた。
街道に向く、正面玄関を避けて、裏へ回る。裏口を叩き内側から開いてもらう。
「オウ、ご苦労さん」
「どうも~、お座敷のおもてなしを任されたサユリコとイオリでございます~」
「んじゃあ、中でチョット待ってておくれや」
中から顔を出した丁稚に足元を照らしてもらい、三人は中に進もうとした。
「おっと、オメェさんはそこで待っててくれや」
当たり前のように下男の格好をしていたサヤは門を潜ることを拒まれた。
コレにサヤは目に怒りの色を浮かばせたが、それを制するようにイオリの目配せをする。
オ ト ナ シ ク マ ッ テ テ ク ダ サ イ
これにサヤは独白した。
「うるせぃやい」
二人の間に耳に入らない言葉が行き来した。
「ってぇ訳だ。ささ、オメェさんがたはこっちだよ」
「オジャマシマース」
丁稚が二人を招き入れ、戸を閉めようと手を掛ける。
「オヤ?
あの下男は……」
既にそこにサヤの姿は無く薄暗い闇の息が漂っているばかりであった。
「おっと、こんなところに……」
丁稚は夕闇の中、塀に一振りの刀が立てかけてあるのを見つける。
「いくら刀問屋だからって、こんなところにあるなんて……」
これを拾い、ガタリと戸を閉める。そしてその上、塀の上に立つのはサヤ。日も傾き一番星が輝き始めていた。
屋敷の中に通されたイオリとオユリは、一旦、つぎの間で待機させられていた。
「しかし、ちょうどこの店でお座敷の仕事なんてあったものですね。」
イオリはすまし顔のまま小声でオユリに尋ねる。
「そうですね、でもここのお店は最近すごく景気がよくて、毎日のように自前のお座敷や、料亭なんかでおもてなしをしてるそうですから、あながち運が良かっただけともいえないかもしれません」
表情を変えぬまま、自分への応答に感嘆の息を漏らす。
「フーン、この泰平の世に刀が売れるとはねぇ……」
「まぁ、そのおかげでこうして探し物の機会に巡り合えたわけですし。それに……」
「それに?」
二人がひそひそと声を交わしていると、一人の男性が部屋に入ってきた。
その男は、イオリとはまた、一風変わった痩せ方をして、いかにも神経質そうで何事にも気を張り詰めているようだった。
その気の張り詰め方からその身を削っているような男は、ジロリと二人を睨めつける。
「ふむ。大菅屋にはトビキリの芸子をよこせと言ったはずだったが――
こんな小娘が二人、しかも片方は男みたいな背丈の娘と来たもんだ。
お前さんトコの店も質が落ちたもんだなぁ。
ん~?」
一方的な非難にオユリはひきつる頬を制しながら、必死に愛想笑いを浮かべているしかなかった。
男は続ける。
「マッタク。仕方ない。
小娘とはいえ金は払ったんだ。今日のお客様はいつにもまして特別なお客様だ。
粗相をしてくれるなよ?」
まかせてください。そう言ってオユリはシャナリと芸子らしい優雅な立ち上がりを見せ、イオリもそれを真似していた。
二人は男の後ろを歩き、屋敷の中を進む。道中、オユリは再びイオリに小声で話しかける。
「マッタク……
この人、番頭さんか何かだと思いますが、感じ悪いですね。
いきなりあんな風に嫌味なこと言うこともないでしょうに……」
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などと言ってのけるのみであった。
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