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 カランコロン、カラコロリ。
 優雅に歩を進める二人の美女。
 その身なりは道行く男どもが振り返らずにはいられない、そんな美貌の二人であった。
 その肌には艶やかな白粉を、口元と目元には見るも鮮やかな紅を。着物はそれぞれ、上質な刺繍を施したものを。
 二人の前をみすぼらしい下男が提灯持ちとして足元を照らしている。
 シャナリシャナリと歩いていると、背の高いほうの芸子が、しとやかに口元を押さえつつあくびをかみ殺す。

「どうしました? 
 まだ、夕方を少し過ぎたくらいですがオネムですか?」

「あぁ、チョットネ。昨晩はよく眠れなかったんだ……『おっと、眠れなかったんですのよ』のほうがらしいですか?」

 紅を差した口角を若干つり上げる。
 問うてみた方の芸子は背が高く着物の上からでもスラリとした体つきをしていて、美しさよりも凛々しさという成分のほうが前面に押し出されていた。
 これには、男性というよりも女性のほうが参ってしまうであろう。
 もう片方はコロコロと笑う。背格好こそ小さいながらも可愛げのある顔立ちを白粉の下に隠し、鳶色の瞳を顔の真ん中に据えている。
 この眼が小動物的な可愛げを漂わせているのだった。この鳶色の瞳の少女こそが、宿の女中と芸子を両立させるオユリであった。
 彼女は続ける。

「別に、無理に芸子言葉を使う必要も無いんですよ。普段から上品な言葉づかいをされてるんですから、イオリさんは」

 そうして向けられた視線の先、オユリの隣を歩く長躯の女性こそが、煌びやかな芸子の格好をし、紅すら差しているイオリなのであった。しかし、その着こなしと言い、線の細い身体といい、見事なものであったと、オユリは内心驚いていたに違いない。

「マァ、普段がフダンですから。上品なのですよ、オホホ」

 そこに言葉を挟むは前を歩く下男。

「マッタク、何が上品だよ。普段のキミなんてただの色狂いだろうが」
「イログルイとは失礼な。ジブンは女性、美しい女の子が好きなんですよ。でも、そういう小汚いサヤも良いと思いますよ?」

 イオリに小汚いと言われたサヤの格好、確かに豪奢な二人とは対照的で、頭には手拭いをほっかむりの様に巻き、薄汚れたお世辞にもキレイとは言い難い着物に身を包んでいる下男の姿であった。

「マッタク、なんで? 
 なんでこの麗しの美女であるボクがこんな格好をさせられてなきゃいけないのさ! 
 イオリがやればいいじゃん!」

 その問いにイオリは言葉を詰まらせる。

「なんでって……」

 そもそもの配役に疑問すら用意していなかったオユリは率直に問う。

「そういえばどうしてなんですか?」
「それまで、疑問に思わなかったのか?」

 と、二人から責めを受けそうなオユリ。
 イオリはこの疑問にコホンと咳払いを一つ置き、理由を一つ一つ並べ始めた。

「まず一つ目、サヤは目立つからです。その銀髪やジブン程ではないにしろ、整った顔立ちは必要以上に人目をひいてしまうでしょう?」
「なんだよ、その変な自己愛の表れは……」

 サヤの小言を華麗にすり抜け、理由を続ける。

「二つ目、サヤはすぐに手を出しますからね。そんなので騒ぎを起こせば、探し物も出来なくなってしまうでしょう?」
「……フム」
「三つ目、大体にしてサヤに情報を聞き出すなんて廻りくどいことが出来るんですか?」
「……」

 すでにサヤの口からは反論の言葉すら出てこない。

「それに、ジブンたちと別行動をして、匂いで探してもらった方が早いでしょう」
「まぁ、それもそうかもしれないけどさぁ……」
「ニオイ?」


 イオリとサヤの間でのみ会話の成立している様子にオユリは当惑する。
「そ、匂い。サヤの犬以上の鼻で血の匂いというか、武器の匂いから、モノを探してもらうのですよ」
「イヌ言うなー」
「そ、それでその間にジブンとオユリさんで店の人間から探し物の情報を聞き出すのです」
「あぁ、ナルホドー」

 納得したオユリが感嘆の声をあげている。
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